「150万人割れ」の衝撃
「神戸はもうオワコン(終わったコンテンツ)なのか?」
最近、メディアやSNSでそんな声をよく見かけるようになった。きっかけのひとつは、2023年10月の推計人口が22年ぶりに150万人を下回ったことだろう。かつて「株式会社神戸市」とも呼ばれたこの都市は、本当に輝きを失ってしまったのか。
本稿では、そうした「神戸市衰退論」にあえて異を唱えたい。たしかに、人口は都市の活力を測る重要な指標のひとつだ。神戸市で人口が減っているのも事実である。だが、都市の盛衰を評価する際に、人口の増減「だけ」に注目するのは短絡的すぎる。同じ関西圏にある京都市も人口減少に悩んでいる。なにより、日本全体がすでに人口減少社会に突入している。
関西の三都のなかで、現在も人口が増えているのは大阪市だけだ。したがって、人口が減ったからといって
「神戸 = 衰退、オワコン」
と結論づけるのは早計だし、ミスリーディングでもある。では、神戸で人口が減っているのはなぜか。その理由を詳しく見ていきたい。

「オールド化」するニュータウン
兵庫県が公表した「兵庫県の人口の動き2024年1月〜12月」によれば、2025年1月1日現在の神戸市の人口は149万896人である。各区の人口増減率は以下の通りだ。
●人口が増えた区
・中央区:+713人
・兵庫区:+677人
・灘区:+71人
●人口が減った区
・西区:−2292人
・北区:−1956人
神戸市全体では人口が減少しているといわれているが、実際に減少しているのは
「郊外のニュータウン」
だけだ。一方、神戸市の中心部、特に六甲山を望むエリアでは、人口が微増している。
神戸市の今後の人口動向を見ても、偏在化が進むことが予想される。2020年から2050年にかけて、北区では人口が約4割減少すると予測されているのに対し、中央区では微増が予想されている。この現状は、神戸市衰退論に対する重要な反証となるだろう。実際には、神戸市全体が衰退しているわけではなく、ニュータウンエリアだけが顕著に衰退しているのだ。
神戸市は昭和30年代から丘陵地を住宅地として開発し、その土砂を臨海部の埋め立てに活用した。昭和40年代には、団塊世代の住宅需要を背景にニュータウンの開発が進んだ。これらのニュータウンは、大阪や三宮への通勤圏としての立地や、庭付き一戸建ての住環境が評価され、非常に人気があった。しかし、入居した住民によって作られた均質なコミュニティは、高齢化が進むにつれて地域の活力を低下させていった。
兵庫県が2016年にまとめた「兵庫県ニュータウン再生ガイドライン」によると、開発から30年以上経過した大規模ニュータウンは約7割(63地区)を占め、そのうち約6割(55地区)が人口減少または高齢化が進んでいる。このことから、ニュータウンの多くが「オールドニュータウン化」していることがわかる。

共働き世帯の住宅地逆転現象
兵庫県立大学国際商経学部准教授の和田真理子氏の調査研究「神戸都市圏の構造変化とオールドニュータウンー 社会イノベーションによる明舞団地の再生 ー」では、明舞団地(正式には明石舞子団地)が取り上げられている。この団地は、最寄りの朝霧駅から三ノ宮まで約30分の距離にあり、都会に通勤するサラリーマン向けの住宅地だ。
和田氏は、1965(昭和40)年以降の神戸市の郊外開発とともに、中心部の人口減少が顕在化したと指摘している。しかし、1990年代に入ると、東灘区や中心部の利便性の高い地域で人口増加が見られ始めたという。和田氏はこの現象を「「硬い」まち」という用語を使って説明している。
「区画整理をしたくらいのクオリティはあった方がいいが、空間的にあまり造りこみすぎると、時代の変化に対応する柔軟性に欠け、持続的な成長が困難になると言えるのではないか。近隣住区理論により計画的に配置された地区センターが、モータリゼーションに対応できずに衰退している現象などは、造りこみすぎて変化に対応できていない典型例といえよう。このような変化は、「硬い」地域の衰退と考えることができる。作りこまれたニュータウン地域は、土地利用変化の自由度が低く、変化に柔軟な対応をしにくい。特に、明舞団地は高度成長期のさなかに短期間で完成されたため、その後の住宅・商業施設の陳腐化が激しく、変化を難しくしている」
和田氏が指摘する「硬い」まちの課題は、神戸市郊外のニュータウンが直面する問題の本質を表している。西神中央、北神、名谷、舞多聞などの昭和30〜40年代に開発されたニュータウンは、当初
・庭付き一戸建て
・静かな環境
・鉄道アクセスあり
といった魅力的な住宅地だった。しかし、時代の変化や社会構造の転換に対応できず、持続可能性を失っていった。
衰退の背景には、計画的に作り込まれた空間の硬直性に加え、少子高齢化の進行や、自家用車依存から脱却を目指す若年層の価値観の変化、単身・共働き世帯の増加など、複数の要因が絡み合っている。現在の住宅選択の傾向を見ると、西宮・尼崎・芦屋など、都市機能へのアクセスと居住環境がバランスよく取れた地域が好まれている。特に共働き世帯や子育て世帯にとって、郊外の駅からバス20分の一戸建てより、駅徒歩5分のマンションが合理的な選択となりつつある。
とはいえ、現在繁栄している地域もいつまでも繁栄するわけではない。筆者(キャリコット美由紀、観光経済ライター)が取材した際、子育て世代に優しい西宮市の住民から
「今の子育て世代が一巡すれば、衰退に向かうだろう」
という声を何度も聞いた。結局、神戸市全体が衰退しているのではなく、市内での盛衰の二極化が進んでいるといえる。中心部は維持・微増し、郊外のニュータウンは「硬い」構造が時代に対応できず、魅力を失っている。

財政黒字が示す神戸市の底力
この住宅地の二極化に加えて、神戸市は経済の面でもかつての勢いを失っている。とくに1995(平成7)年の阪神・淡路大震災の影響は大きかった。
神戸の象徴である港湾機能は、かつての国際的地位を大きく後退させた。現在では、地域経済を支える役割へと変わっている。1980年の神戸港は、東京や横浜を上回る世界第4位のコンテナ取扱量を誇っていた。香港と並ぶアジアのハブ港としての地位を確立していた。
しかし、1995年の震災で港湾は甚大な被害を受けた。機能が麻痺したことで、状況は一変する。復旧作業が続く間に、中国や韓国では船舶の大型化を見据えた港湾整備が進められた。中韓の港は広大な用地を武器に、効率化を加速させていった。一方、神戸港は都市部に隣接しており、拡張が難しかった。その結果、2022年のコンテナ取扱量で神戸港は世界72位にまで順位を落とした。
こうした状況だけを見ると、神戸は産業基盤も縮小し、衰退の道をたどっているように見えるかもしれない。だが、現実はまったく異なる。神戸市が2025年2月に発表した2025年度予算案では、一般会計が
「1兆59億円」
に達した。20年ぶりに1兆円の大台を突破した。特別会計などを含めた総額も、20年ぶりに2兆円を超えた。これをもって
「衰退のなかで先の見えない投資に走っている」
と考えるのは早計だ。暗い話題ばかりが目立つ神戸市だが、実際には財政は驚くほど健全である。

黒字連発が示す財政回復力
神戸市が公表している「2022年度(令和4年度) 決算の概要」を見てみよう。この資料によると、神戸市は2022年度決算で11億2700万円の実質収支黒字を確保している。前年度も10億3700万円の黒字を計上しており、財政調整基金、いわば自治体の貯金に積み増しができるほどの余裕がある。
もちろん、こうした健全な財政は、震災の翌年から約15年にわたり続けてきた行財政改革の成果である。
・新規採用の抑制
・希望退職による人員削減
・市民サービスの見直し
など、痛みをともなう取り組みがあってこそ得られた結果だ。
ただし、予算規模が1兆円を超えることを考えると、黒字の幅は決して大きいとはいえない。今後の財政運営にも慎重な姿勢が必要だという点は、忘れてはならない。それでも、神戸市の財政状況は他の都市に比べて良好である。
例えば、2024年1月16日のNHK報道によると、神戸市が阪神・淡路大震災からの復旧・復興のために発行した地方債の残高は708億円にのぼる。返済完了まであと10年あまりかかる見込みだ。
たしかに重い負債ではあるが、他都市に比べれば金額は少ない。2021年度決算における政令指定都市の市民ひとりあたりの市債残高を見ると、神戸市は約43万3000円だった。大阪市は約54万7000円、京都市に至っては約70万5000円と、神戸よりはるかに高い。さらに、一般会計のうち借金返済にあてる割合を示す「実質公債費比率」は4.8%にとどまる。これは政令指定都市のなかでも極めて低い水準である。
これらの客観的なデータを踏まえると、一部で語られる神戸市衰退論は、少なくとも財政面においてはミスリーディングである。震災の影響が今なお残っているのは事実だが、徹底した行財政改革によって、神戸市は他の中核都市と比べても健全な財政運営を維持している。

タワマン抑制の都市戦略
こうした安定した財政基盤を活かし、神戸市は中心市街地の再開発を着実に進めている。
三宮エリアでは、バスターミナル整備を核とした超高層複合ビルの建設が進んでいる。再開発事業は着々と進行中であり、新たな大規模債務を抱えることなく都市更新を実現している。ちなみに、神戸をよく知らない人のために補足しておくと、地名は「三宮」だが、JRの駅名は「三ノ宮」である。
神戸市の都市開発のなかでも特に注目されるのが、2020年に全国で初めて導入された「タワーマンション新規建設の抑制策」だ。同年7月から、三宮駅周辺エリアでは住宅の新築を禁止した。さらに、新神戸駅や元町駅周辺の商業地域では、容積率の上限を400%に制限。これにより、事実上タワーマンションの建築ができない状況をつくっている。
一方で、神戸市はニュータウンの再生にも取り組んでいる。
・名谷駅(須磨区)
・西神中央駅(西区)
・JR垂水駅(垂水区)
といった3駅周辺で、市有地を活用し、民間によるマンション開発を促進している。併せて、図書館、子育て支援施設、商業施設などの整備も進めている。リフォームへの補助や、住宅地での店舗出店支援といった施策も実施。中心部と郊外のバランスある発展を目指している。

都市の空洞化を防ぐ知恵と投資
現在の神戸市が目指しているのは、多元的なコンパクトシティである。2020年3月に公表された『神戸市都市空間向上計画〜次世代に継ぐ持続可能なまちづくり〜』には、その全体像が示されている。このなかで神戸市は、今後の方向性を次のように記している。
「神戸の都市空間は、海・山・まち・田園などで構成されており、既成市街地やニュータウン、海上都市から農村集落まで個性豊かな地域が多くあります。地域の魅力・資源を有効活用し、さらに磨きをかけ、多様なライフスタイルを実現できる都市空間をめざします」
この方針をもとに、神戸市は次のような具体策を掲げている。
・鉄道駅・主要バス停周辺への居住と都市機能の誘導
・地域特性に応じたエリア別の再構築
・公共交通ネットワークの維持と最適化
・災害に強いまちづくりとインフラ更新の両立
・空き家・低未利用地の活用と都市のスポンジ化対策
なかでも注目すべきは、「都市のスポンジ化」への明確な対応策を示している点だ。人口流出が進むと、空き家や空き地が増え、都市の密度が下がる。見た目には都市が維持されているようでも、実際には中身が抜け落ちたスポンジのような状態になる。
それでも、道路や上下水道、公共施設といった都市のインフラは維持管理が必要だ。人口が減っても、それらの維持には一定のコストがかかる。その結果、税収が減る一方で支出は減らず、都市経営は徐々に財政的な負のスパイラルに陥る。
この悪循環を防ぐため、神戸市は地道な施策を展開している。生活利便施設が不足している地域には、キッチンカーや移動販売車を導入(実証実験を経て民間に委託)。また、北神急行電鉄を市営化し、運賃を引き下げる取り組みも進めている。

再生の成否を握るニュータウン
このように、現在の神戸市が進めている戦略は、人口減少を前提とした成長を前提としない都市経営といえる。確かに、この現実に即した戦略には華やかさがない。
例えば、福岡市は「アジアの玄関口」を目指し、大規模な再開発を進めている。長崎市では西九州新幹線の開通を機に、都市再編が進められている。宇都宮市もLRT(次世代型路面電車)導入によって都市改造に踏み切った。これらと比べると、神戸市の戦略は地味で説明しづらい。派手なビジョンや象徴的なインフラに頼るのではなく、都市の縮小という現実の中で、どう暮らしを支えるかに徹している。
しかし、「神戸市はオワコン」といった言説がメディアやSNSで流れるのは、大きな誤りだ。たしかに、「株式会社神戸市」と呼ばれた時代と比べれば、目立たないかもしれない。だが、オワコンどころか、神戸市は全国の自治体がいずれ直面する縮小都市の現実に、いち早く正面から向き合っている。そして、持続可能性を着実に高めている。むしろ、大規模開発の時代、そして震災と復興の時代を経験した神戸だからこそ、できる戦略といえるかもしれない。
また、神戸市が地味な施策だけを行っているわけではない点も指摘しておきたい。2024年4月から、神戸空港の国際空港化を見据えたチャーター便が、アジア5都市との間で就航した。空港とJR新神戸駅を結ぶ自動運転バスの実証実験も行われている。さらに、ウォーターフロントでは「ジーライオンアリーナ神戸」が開業。周辺整備事業も進行中だ。
今後の成否を握るのは、ニュータウンの再生にほかならない。現在の施策で、果たして人口減少の流れを反転させられるのか。いまこそ、この都市再生の行方に注目すべき時である。


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