「退職のタイミングによっては、60代前半に大きな額の資金が必要になる」と、ファイナンシャルプランナーの大沼恵美子さんは話す。

その言葉の意味を知るため、大沼さんに、60歳で退職した場合と、60歳を超えてからも働いた場合で、必要になってくる資金をシミュレーションしてもらった。

60〜64歳の5年間の生活費は1800万円超

「総務省が発表している『家計調査報告 家計収支編 2019年(令和元年)』(※)をもとに、シミュレーションします。まずは、60歳で退職した場合にかかるお金を考えてみましょう」(大沼さん・以下同)

※より現実に即した金額になるよう、勤労世帯は定期性・再現性のある「経常収入」、無職世帯は経常収入に特別収入を加えた「実収入」を使用しています。

世帯主が60〜64歳の無職世帯(2人以上)の1カ月の収支
収入 0円
支出 30万5828円

「ひと月の支出を約30万5000円とすると、年間366万円。65歳までの5年間で、生活費に1830万円かかります。この間は年金などの収入がないので、60歳での退職を考えている場合は、1830万円の備えが必要というわけです」

たとえ退職金を2000万円もらえたとしても、たった5年間でほぼ使い切ってしまう。もちろん、シルバー人材センターなどを通じて働けば、余裕は生まれるだろう。

「会社によっては、60歳からすぐに企業年金が出るところもあります。『家計調査報告』でも、世帯主が60〜64歳の無職世帯の1カ月の『公的年金給付』は10万5129円。仮に企業年金がひと月10万円出るとすれば、5年間で600万円の収入があり、必要な資金は1230万円になります。年金の繰上げ受給で、生活費をまかなうという方法もあるでしょう」

65歳まで働けば収支がプラスになる可能性も

続いては、60歳から64歳まで再雇用で働き続け、65歳で退職するケースを見ていこう。

世帯主が60〜64歳の勤労世帯(2人以上)の1カ月の収支
収入 46万1930円
支出 39万9877円

「データの通りであれば、1カ月に約6万2000円、年間約74万4000円、5年間で約372万円もの黒字になります。無職であれば1800万円も取り崩す必要があった生活費が、逆にプラスになるのです。ただし、データの収入額は一般的な額より多いといえるでしょう。再雇用で働く場合、定年時点の給与の50%程度に下がることが多いので、このデータより10万〜20万円は下がると考えましょう」

収入の低下に合わせて支出も下がったと仮定し、収入を25万円、支出を無職世帯と同様の30万5000円とすると、1カ月5万5000円の赤字となる。5年間でも330万円だ。60歳での退職で1830万円用意しておかなければならないことを考えれば、圧倒的に負担は軽くなる。

65歳で退職した先の収支も見てみよう。

世帯主が65〜69歳の無職世帯(2人以上)の1カ月の収支
収入 25万9448円
支出 30万8134円

「1カ月での不足分は4万9000円程度。そのままの生活が変わらずに30年続いたとすると、不足分のトータルは1764万円。退職金や現役時代の預貯金があれば、十分対応できる金額ではないでしょうか」

70歳まで働けばかなりの余裕が生まれる

さらに、70歳まで働き続けた場合も考えてみよう。

世帯主が65〜69歳の勤労世帯(2人以上)の1カ月の収支
収入 43万4858円
支出 36万2445円

「65歳以降は年金が支給されるので、60〜64歳より収入が上がることがあります。データでは、1カ月約7万2000円、年間約86万4000円の黒字なので、さらに余裕が生まれるといえます」

60歳以降も働き続け、データ通りの収入を得ることができれば、60〜69歳で804万円も貯金できることになる。退職金や預貯金があれば、70歳以降は余裕のある暮らしを送ることができるだろう。

「60歳以降も働き続けることで、老後資金に大きな違いが出てくることは間違いありません。ただ、ギリギリまで働いて体の自由が利かなくなり、せっかく貯めたお金が使えなくなってしまうのはもったいないです。65歳くらいまで働き、その後はお金も時間も自由に使うというプランが立てられると、老後が楽しくなると思いますよ」

今の時代、60歳でのリタイアは現実的ではないかもしれない。年金受給開始の65歳まで働くことを前提に、老後のプランを考えたほうが余裕のある生活を送れそうだ。
(有竹亮介/verb)