旬のキーワードについて掘り下げる「マネ部的トレンドワード」。5G編の3回目となる本記事では、NTTドコモ(以下、ドコモ)を取り上げる。

ドコモは、言うまでもなく通信キャリア(通信事業者)の1つであり、通信インフラを提供する立場。しかし5Gの取り組みにおいては、この次世代通信を必要とするさまざまな企業や自治体と手を組み、5Gを使った新サービスの創出に早くからチャレンジしてきた。

実際、さまざまな実証実験がすでに行われている。たとえば、患者を診療する医師と遠隔の医師をつなぎ、5Gで映像を共有しながらサポートし合う「遠隔診療」の仕組み。あるいは建設作業などでカメラのついたメガネ型デバイスをかけ、その映像を共有しながら遠隔から指示を受けるもの。加えて、作業のマニュアルや手順もAR的に浮かび上がらせる「ARスマートグラス」など、すでに5Gを使ったソリューションを形にしている。

このようなサービスが生まれることで、私たちの生活や企業のビジネスはどう変わっていくのだろうか。そして、同社が描く5G普及の道筋とは。NTTドコモ 5G事業推進室長の太口努氏と、企業とのパートナープログラムを統括するNTTドコモ 5G・IoTビジネス部 ビジネスデザイン担当部長の有田浩之氏に聞いた。

5G×ARにより、作業者の視界にマニュアルを浮かび上がらせる

ドコモでは、今年6月末の時点で、全国47都道府県に1つ以上の5G基地局を整備した。その後、2021年6月末までには1万局、2022年3月末には2万局を目指す。また2023年度末の基盤展開率(※)は、97%を想定している。

※日本全土を10km四方に区切り、無人の地域などを除いた全区画の中で、基地局が置かれた区画の割合

 
一方、5Gについて私たちが気になるのは、対応するスマホ製品の動向について。太口氏は、新製品の見通しをこう語る。
「まだ初期の段階であり、現在販売している製品の価格はやや高めかもしれません。しかし、これから登場する製品は、よりお買い求めやすい価格設定になる見込み。ぜひその端末で5Gを体験していただきたいと思っています」

5Gは、私たち一般消費者にメリットを与えるだけでなく、企業や自治体の課題解決においても大きな期待がかけられている。

「5Gに対する企業の注目度は高く、すでにこの通信を利用したソリューションが生まれつつあります。私たちは、企業や自治体と手を組み、5Gを使った新サービスを模索する『ドコモ5Gオープンパートナープログラム™』を2018年から実施してきました。3500社以上が参加し、この1年で200を超える実証実験を施行。5Gの特徴である『高速・大容量』『低遅延』『多数同時接続』を活用し、既存の4Gではできなかった無線通信のソリューションが生まれ始めています」(太口氏)

このパートナープログラムを担当してきたのが有田氏だ。さまざまなタイプの実証実験が行われたが、特に多かったのは“映像伝送”を利用した「遠隔作業系」だという。

「分かりやすいのは、人間が行けない危険な箇所にロボットを配置し、ロボットからの映像を5G通信で見ながら遠隔作業を行う形。あるいは、作業員がAR対応のスマートグラスをかけ、遠隔からの支援者がスマートグラスから映す映像を見ながら作業指示を出す。それだけでなく、作業に必要なマニュアルや、チェックすべき項目をARで浮かび上がらせ、作業員はそれを見ながら作業するなど。このARスマートグラスは、法人向けに提供開始しています」

上述のARスマートグラスは「AceReal® for docomo」というもの。サン電子とドコモによる共同開発で、今年7月から法人向けに提供されている。さまざまな利用ケースが想定されるが、面白いのは「技術伝承」への活用だ。

「たとえば農業の場合、ベテランから新人にノウハウを伝えるケースがありますよね。今までは現場に同行して教える必要がありましたが、このスマートグラスを使うことで、遠くから映像を見てポイントやコツを伝えることができます。効率化はもちろん、新型コロナウイルスの感染リスクを抑える意味でも有効です」(有田氏)

専門知識を持つドクターが、映像を見て診療を遠隔サポート

映像を軸にした実証実験は、医療の分野でも行われているという。有田氏が紹介するのは「遠隔診療」の実証実験だ。

「医師が患者の診療を行う際、その映像を遠方にいる別の医師に伝送し、医師同士でサポートするものです。中山間地域などは、特定分野の専門医がいないことも珍しくありません。5Gで診療中の映像を共有することで、遠方にいる専門医がリアルタイムで現場の医師の診療を補助できます。鮮明な映像を大量に伝送できるからこそ、患者の顔色や患部の状況、レントゲン画像などを同時進行で克明に見られます。専門医が不足する地域でのソリューションとして期待されています」

遠隔診療は、5Gでドクター同士をつなぎ、診療の質を上げる「D2D(Doctor to Doctor)」の形。医師不足や医療の地域格差を埋める方法として実験が進められている。

200以上の実証実験が行われたなか、それを見て感じる「4G→5G」の大きな変化とはどんなものだろうか。有田氏はこんなふうに表現する。

「画面の外へと世界が広がることではないでしょうか。4Gは、あくまでスマホやタブレットの画面内で作業することがほとんどでした。しかし、5Gはその外へと世界が広がります。ARもそうですし、今後、街中にあるさまざまなデバイスやセンサーを5Gの無線通信で連携できれば、自分の動きや位置情報に合わせてスマホに情報が出たり、ARグラスでその場所の情報を浮かび上がらせたりということも考えられるでしょう」

さらに太口氏は、コロナ禍において5Gが起こす変化をこう予測する。

「5Gによって、社会は“リモート型”へと一気に進むのではないでしょうか。ライブなどのエンタメは、生で観るニーズはありつつ、外出できない方や遠方の方、感染リスク回避を望む方は5Gで配信された高画質な映像を見るようになるかもしれません。ビジネスにおいても、リモートで生産性を上げる方向が加速するでしょう。コロナ禍でDXが一気に進みましたが、その通信インフラとして5Gは無くてはならない存在です」

スマホは年々進化を遂げ、高性能になっている。その結果、ユーザー1人あたりの通信量は増加の一途をたどっている。今の時点では「4Gで十分」と感じる人も多いかもしれないが、このまま通信量が増え続けると、たとえば人の密集地域ではつながりにくいケースが出ることも予想される。

そういった背景を考えても、5Gが背負う次世代通信としての役目は大きい。画面の中の通信から、画面の外の通信へ。ドコモが広げる5Gのネットワークは、人々の生活を、産業を、確かに変えていく。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2020年11月現在の情報です
※「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」は、株式会社NTTドコモの商標です
※「AceReal®」は、サン電子株式会社の商標です。