TwitterなどSNSを中心に個人投資家が情報発信する流れが、株式の世界にも広がっており、銘柄選択や市場動向を占うために利用している投資家が増えている。市場で様々な思惑が飛び交う中で、一種の指標として活用されることもあるが、情報の取捨選択には注意が必要だろう。

ゲームストップ株騒動を振り返る

2021年1月下旬にNY株式市場で未曽有の出来事が起こったことは記憶に新しいだろう。SNS「reddit(レディット)」の人気掲示板「WallStreetBets(ウォールストリートベッツ)」を利用していた個人投資家が大挙してビデオゲーム小売りチェーンの「ゲームストップ」の株を買って価格を暴騰させ、同社株を空売りしていた大手ヘッジファンドのメルビン・キャピタルが推定で45億ドル(約4,759億円)もの損失をこうむったものだ。

空売りをしていたメルビン・キャピタルが巨額の損失を被ったのは、空売りに伴うマージン・コール(=追加証拠金差し入れ義務)に耐えられず、市場から約26倍に暴騰したゲームストップ株を高値で買い戻さざるを得ない状況となったからとされる。

一部メディアでは個人が力を合わせてヘッジファンドを打ち負かすことに成功したと、それを可能にしたのは、瞬時に情報交換をすることができるSNSの力であると報道されたが、果たして本当に個人投資家が勝ったのかは冷静に考えておきたい。

ゲームストップ株自体は、業績が芳しくなく騒動が起きる前は20ドル前後で推移していた株式である。そのゲームストップ株が1月28日には一時483ドルまで暴騰したのであるから、投資をした投資家は莫大な利益を得たように見える。ただし、ここで注意したいのが、483ドルまで暴騰した当日の終値が193ドルであり、2月2日には100ドルさえ割り込んでいるということである。つまり、初期段階で参加した投資家は利益を得ることが可能であったものの、1月28日に投資した投資家は利益を得るどころか大きな損失を出した可能性もあるのだ。

【ゲームストップ株の株価推移】

なぜ、高値を形成した当日に急落となったのかは、以下の理由が考えられる。まず、ゲームストップ株自体に思い入れのある投資家は少なく、SNS上の話題につられ短期間での値上がりのみを見込んで投資しただけの投資家が多かったことだ。ともすると、株価が一旦踊り場となれば我先にと利益を確定する流れとなり、株価自体が持ちこたえられなくなる。さらに売りが売りを呼ぶような状態となれば下落圧力は上昇時よりも強くなってしまう。

次に、株価の高騰が業績面から正当化できる水準を大きく超えすぎていたことがあるだろう。ゲームストップの業績は2020年第3四半期決算において既存店売上高が-24.6%と予想を下回ったうえ、1株利益も-0.53ドルとなっている。第4四半期こそ需要の拡大を見込んでいるものの、この決算数字が株価の上昇を正当化することができるはずはなく、空売りの対象となったのもこうした決算内容が背景にある。

SNSとの上手な関わり方とは

ファンダメンタルズを無視した動きは、需給バランスを崩すなどにより短期的な相場に起こりえるが、株価が企業の業績を反映したものであることを勘案すると、ファンダメンタルズを無視した動きには修正が入りやすいことは頭の片隅に入れておきたいものである。

もっとも日本の株式市場では、個別銘柄の価格水準の1日の値幅を制限(値幅制限)するため、株価を際限なく釣り上げることは不可能であり、ゲームストップ株のような現象は起こりにくいと考えられる。

しかしながら、SNSの情報のみを鵜のみにし、むやみに投資尺度を変更することは避けたいのは同じことである。なぜならば、SNSが即時性・速報性に優れたツールであることは認めるものの、事後情報であることは従来からの投資情報と変わらないからである。

情報が流通するには、まず第一次発信者が必ず存在しており、この情報が各種媒体を通じて広く知られる必要がある。つまり、自身が第一次発信者でなければ、速報性があるSNSであっても情報の受け手であり、後発の参加者ということは変わらないのである。流れが続いているうちは、ゲームストップ株のように急騰局面に参加することができる可能性があるものの、流れが途絶えた後は、急落に巻き込まれる可能性が否定できない。

こうしたことを勘案するとSNSの情報をうまく活用していくには、その情報自体の信任性を確認していく必要があることがわかるだろう。需給バランスを頼りとする短期取引であれば、その情報から生じるボラティリティに賭けるのも一考であるが、中長期投資家にとっては一瞬のボラティリティがファンダメンタルズを凌駕するような事態は起こりにくいことは常に意識しておきたい。

SNSはいつでも場所を問わず最新の情報に触れられる便利さを享受することができる反面、梯子を外されるのも一瞬であることは肝に銘じておきたい。

(提供元:岡三オンライン証券)