野村アセットマネジメントでは、毎月、世界経済や金融市場の注目点を投資環境レポートとしてお届けしています。

12月の投資の視点は、「日本経済と財政・金融政策の注目点」です。

<注目点>

●日本の家計は消費機会の逸失を背景に「強制貯蓄」が積み上がっており、さらに政府の財政出動にも後押しされる形で、当面は消費回復局面となる見込みだ。

●中期的には岸田政権が掲げる「新しい資本主義」が所期の効果を挙げるかが注目される。分配戦略が経済成長に繋がるにはいくつかハードルが存在する。

●また、岸田政権のステークホルダー資本主義のための情報発信や、今後に検討される可能性がある金融所得税や炭素税等の議論の行方も注目される。

景気回復への期待

2021年7-9月期の日本の実質国内総生産(GDP)は、緊急事態宣言等による経済活動の制限や世界的なサプライチェーンのボトルネックを背景に、2四半期ぶりのマイナス成長となったが、先行きは個人消費の回復が期待される。

第一に、コロナ禍において消費機会の逸失により抑制された消費を背景とした、いわゆる「強制貯蓄」は2021年前半までで約30兆円となったと見られ、家計が消費を増やすためのバッファーは大きい(図2参照)。

第二に、11月19日に閣議決定された「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」において子育て世帯などへの現金給付が盛り込まれ、さらにGo Toキャンペーン事業が需要を喚起するだろう。また、半導体などの供給不足が緩和されていけば、自動車を中心に一定の「挽回生産」が起こると考えられる(図3参照)。

ただし、個人消費のバッファーがあるからといって、実際に支出加速が起こるとは限らない。新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が日本と同等に進んでいる諸外国においても感染再拡大が生じた例を見れば、日本でも感染再拡大が起こる可能性は否定できない。

政府は感染拡大下でもワクチン・検査パッケージの利用による経済活動継続を目指しているが、人々の感染警戒スタンスが強まり、センチメントが悪化するリスクは残る。

他方、感染症が制御可能なままであったとしても、リーマンショックとコロナショックというタイプの異なる2回の危機を10年超の間に経験し、長寿化の中で将来不安が大きい日本の家計は、貯蓄を増やす行動を選好するかもしれない。

岸田政権の経済政策

中期的には岸田政権の「新しい資本主義」が所期の効果を挙げるか注目される。科学技術立国の実現、デジタル田園都市国家構想、経済安全保障の3つの柱を成長戦略とし、その成長の果実を賃上げや人的資本への投資などを通じて分配していくことで、「成長と分配の好循環」を狙う政策である(図1参照)。

成長戦略には、10兆円規模の大学ファンド、先端科学技術やクリーンエネルギーへの投資促進、スタートアップへの支援、地方のデジタル実装支援などが盛り込まれたが、経済成長に即効性を持つとは言い難い。

そのため、まずは分配戦略の成否が試金石になろう。最も分かりやすいのは賃上げの機運が高まるか否か、である。

具体的には、12月の2022年度税制改正で、賃上げを行う企業への税制支援の抜本的強化が検討される。また、公的部門における分配強化として、2022年2月から、保育士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員を対象に収入を3%程度(月額9,000円)、看護職員については同1%程度(月額4,000円)引き上げるための措置が講じられる(看護職員は段階的に収入を3%程度引き上げていくこととしている)。

分配戦略が消費の増加を通じて次の成長を促すにはいくつかハードルが存在する。一旦賃金を引き上げると、業況悪化時でも賃下げが難しく、賃金の下方硬直性があると言われる中、時限措置としての減税が積極的な賃上げに繋がるかは不確実性が高い。

また、一部の公的価格の見直しは、賃上げが幅広い業種に波及していく「呼び水」となるとの期待感があるようだが、それもまた容易ではないだろう。そして、仮に実際に賃金が上がったとしても将来不安が残る限り、人々は消費のための支出を増やさず、貯蓄性向が上がる可能性もある。信頼できる社会保障制度を整備する必要もあろう。

岸田政権の政策は、中長期的に見ればイノベーションが生産性上昇に結び付き、賃上げが進むことで好循環が生じる可能性はあるが、短期的に日本経済の復活を想起させるには力不足と言えよう。

2021年12月号「投資環境レポート」の続きは、こちらからご覧ください。

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(提供元:野村アセットマネジメント)