2022年4月から高校の学習指導要領が改訂され、家庭科で資産形成について学ぶ時間が設けられた。また、同じく4月に成年年齢が18歳に引き下げられ、金融に関するさまざまな契約を行えるようになることから、金融経済教育の重要性がますます高まっている。そうしたことを受けて、金融庁は3月に「高校向け 金融経済教育指導教材」を製作、公表した。

115ページに及ぶパワーポイントの教材で、家計管理から資産形成、金融トラブルに至るまで、金融リテラシーの基本をわかりやすく学ぶことができる。「高校向け」とついているが、金融についてしっかり学んだことがないという大人も多いだろうから、親子で学ぶいい教材になりそうだ。早速その教材の内容を見ていこう。

金融庁「高校向け 金融経済教育指導教材」

「資産形成」「保険」「金融トラブル」に関する情報も掲載

「高校向け 金融経済教育指導教材」はパワーポイントで作成されており、高校の先生が授業で使うことを想定して、そのまま講義に使えそうな解説もノートウィンドウに記載されている。

パワーポイントで見た「高校向け 金融経済教育指導教材」。下部のノートウィンドウに解説が書かれている。

「高校向け 金融経済教育指導教材」の内容
第1章 家計管理とライフプランニング 〜働いて「稼ぐ」ことと将来設計について
第2章 「使う」
第3章 「備える」〜社会保険制度と民間保険
第4章 「貯める・増やす」〜資産形成
第5章 「借りる」
第6章 金融トラブル
第7章 まとめ

第1章から第2章にかけては、「使い方」というお金の基本を学び、第3章ではもしもの時に備えた保険などにも触れていく。

合間にクイズが差し込まれ、生徒が考えるパートを設けている。

第4章は、学習指導要領の改訂でも注目を集めている「資産形成」のパートで、基礎的な「本編」と、より内容が充実した「参考編」の2種類が用意されている。債券・株式・投資信託といった金融商品や投資の意義、リスクとリターンについて、イラストや図版を用いてわかりやすく解説されている。「参考編」では、長期・積立・分散の効果やiDeCo、つみたてNISAも紹介されており、投資について深く知れそうだ。

金融商品や投資の仕組みについて、わかりやすく解説。

続く第5章ではクレジットカードや奨学金、第6章ではSNSを介した金融トラブルなど、成年年齢引き下げにより直面する契約関連の内容も解説されている。

学生が遭遇しそうな金融トラブルを、具体的に紹介している。

教材のなかでは、金融庁が金融経済教育の副教材として提供しているシミュレーターも紹介されている。「資産形成」「借金」「家計管理」「ライフプラン」といった4つのシミュレーターがまとめてチェックできるもので、学生だけでなく大人も実生活で活用できそうだ。

副教材のシミュレーターは、「高校向け 金融経済教育指導教材」のなかでたびたび登場する。

先生ごとに異なる授業にフィットしやすくする工夫

お金を「稼ぐ」「使う」だけでなく、「備える」「貯める・増やす」という部分まで網羅している教材は、どのような経緯で製作されたのだろうか。金融庁の担当者に聞いた。

「以前から金融庁では、高校の金融経済教育の一環で出張授業や講師の派遣などを行っていたのですが、その現場で学校の先生から『お金のことをどう教えたらいいかわからない』『自分も資産形成してないのに、教えられない』といった戸惑いの声を、よく聞いていました。ただ、先生方が教えられる状況にならなければ、金融経済教育は全国に広がらないので、学習指導要領の改訂に間に合うように、先生方がうまく授業に取り入れられる教材の製作に動き出しました」

もともとは高校の先生向けに製作された教材だが、家庭でのお金に関する教育も重要であると考え、「教員向け」と限定せずに公表したそう。

「製作にあたっては、現役の高校の先生を含む高校家庭科における金融経済教育アドバイザリーボードの皆さんにも加わっていただきました。『この言葉だと生徒に伝わらない』『クイズを差し込むと食いつきがいいかも』といったアドバイスを反映しながら、できあがった教材です」

省庁が発行する教材でパワーポイントという形式は珍しいが、そこもこだわりの1つだ。

「学校の授業は先生方の経験や知見に基づくもので、先生によって個性がありますよね。それぞれの授業にフィットしやすくなるように、パワーポイントでカスタマイズできる仕様にしました。この教材の一部を抜粋したり、先生なりのコメントや別の資料を差し込んだり、自由に使っていただいて問題ありません」

3月17日に教材を公表すると、思いがけないところで反響があったという。

「公表自体は事務的に粛々と行ったのですが、見つけてくれた方がTwitterで紹介してくださって、20万を超えるいいねがついたそうです。『こういう教材が欲しかった』というコメントが書かれていて、うれしかったですね。教材のなかで『“収入−支出=貯蓄”ではなく“収入−貯蓄=支出”にするといい』と解説する部分があるのですが、その部分を指して『これが一番胸に刺さった』と言ってくださる方もいて、金融知識がきちんと伝わる教材になっていて良かったと感じています」

先取り貯金の大切さを紹介するスライド。

子どもやパートナーとお金について話すきっかけに

家庭で「高校向け 金融経済教育指導教材」を活用する際には、「カスタマイズできるという強みを生かしてほしい」とのこと。

「高校生に限らず、小中学生、はたまた大学生や新社会人のお子さんと話すきっかけになると思っています。資産形成のパートは親御さんにとっても難しい部分かもしれないので、まずは生活に根差した『家計管理』や『金融トラブル』から使ってもらうと、家庭でも導入しやすいのではないでしょうか。お子さんと話すだけでなく、親御さん自身が改めてお金のことを知るために、パートナーと一緒に見て、知識を共有していただくのもいいかもしれません」

学校でも家庭でも金融経済教育が根づいていけば、金融リテラシーが上がることと同じくらい大切な効果が出てくるかもしれない。

「学習指導要領の改訂によって金融経済教育という言葉が認知され始めていますし、今の学生たちが社会人になる頃には『金融経済教育を受けたことがある』という認識のある大人が増えているはずです。金融に関する知識は学校で学ぶものだという意識が根づくことで、お金は勉強するもの、お金について人に聞くことは恥ずかしくないという感覚も広まってほしいですね」

4月から新しい学習指導要領による授業が始まり、これから変化が見えていくであろう高校の教育。金融庁の教材をチェックして、お金の知識を得ながら、いち早く金融経済教育の重要性を感じてみてはいかがだろうか。
(有竹亮介/verb)