※この記事はJPX「新市場区分特設サイト」上で2021年12月13日に掲載した記事の再掲載です。

岡田譲治
日本航空株式会社 社外監査役

かつてグローバル企業としてのお墨付きを得るために米国証券市場に上場する日本企業が増加したことがあった。米国での資金調達と同時に、厳しい米国会計基準による決算、透明性の高い開示により、海外からの投資を増やし、自社の成長に役立てるためであった。私の出身会社もそのひとつだったが、それら企業の20-F(有価証券報告書に相当)に対してSECは容赦なく厳しい質問を浴びせてきた。開示を担当したときに経験したSECと真剣勝負を通じ米国で上場することの責任の重さを痛感した記憶がある。

その当時と比較すると、会計基準、開示制度は整えられ、今では上記のような理由で米国市場に上場する日本企業は少なくなった。加えて、コーポレートガバナンス・コードの導入などを通じて投資対象としての日本企業の魅力も向上してきた。

今回の市場区分見直しにより、各市場の役割が明確になり、企業にとっても投資家にとっても分かりやすくなる結果、日本の資本市場の海外からの評価が高まることが期待される。東証には、ここで終わらせず改革を続けて戴きたいが、全上場企業におけるガバナンスと更なる開示の充実は終わることのない課題ではないだろうか。企業規模の大小、投資を訴えかける株主が異なるなどの違いはあるが、上場会社としてのガバナンスに違いはない。スタンダード市場、グロース市場に上場する企業が、ガバナンス、開示レベルでプライム市場に劣後してはならない。また、規則の範囲内の開示に止まらず、自ら進んで透明性の高い開示を行うことも全ての上場会社に求められる。

日本でもコーポレートガバナンス・コードの整備により、ガバナンス意識が定着してきたが、更に実態の伴ったガバナンス体制を構築するためには、経営者、取締役会、監査役等による内からの改革が不可欠なのは改めて言うまでもない。加えて、米国のSECの例でもわかるように、市場の信任を保つためには東証などの市場関係者、金融庁、証券取引等監視委員会などの規制当局による監視が不可欠である。

市場区分の変更はスタートラインに立ったところであってゴールではない。時価総額など定量基準による上場廃止に加えて、ガバナンスの不備など定性面の不備による上場廃止をルール化できるのか、退出企業の受け皿はどうするのか、など課題も残っている。今後の市場構造改革を通じて、真に高品質な投資機会を求める投資家を呼び込み、企業にとっても東証に上場することがグローバルな一流企業のステータスとなることを切望する。

岡田譲治
日本航空株式会社 社外監査役

1951年10月10日生まれ、1974年4月三井物産株式会社入社、2006年2月同社財務統括部長、2008年4月同社執行役員 経理部長、2011年6月同社代表取締役常務執行役員CFO、2013年2月金融庁企業会計審議会委員 (現任)、2013年7月IFRS財団評議員、2014年4月三井物産代表取締役 副社長執行役員CFO、2015年6月同社常勤監査役、2017年11月公益社団法人日本監査役協会会長、2020年6月日本航空株式会社社外監査役(現任)、2020年10月日本取引所自主規制法人外部理事(現任)、2020年10月スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議メンバー