2021年、欧米を中心に「BNPL」という言葉がバズワードとなった。BNPLとは「Buy Now, Pay Later(いま買って、後で支払う)」の略称。つまりは「後払い決済」のサービスを意味する。

この4文字は、徐々に日本でも注目され始めている。昨年9月には、アメリカの大手決済企業ペイパルが、日本のBNPL事業者であるPaidy(ペイディ)を3000億円で買収するというニュースもあった。

そこで本連載「新しい金融のカタチ」では、数回にわたってこの決済方法を特集。第1回では、まず総論として、BNPLの中身や欧米で流行した理由、そして日本での展望を考えたい。

ということで、BNPLに関するレポートも発表している、日本総研 調査部 金融リサーチセンター 主任研究員の谷口栄治氏に取材。BNPLの中身や欧米で流行した理由を尋ねた。

まずは仕組みと流行の理由から。クレジットカード離れも人気を後押し

改めてBNPLとは、どんな決済方法なのか。その詳細を谷口氏が説明する。

「ユーザー(消費者)がおもにオンラインで商品を購入した際、その場で支払わず、基本的には月末の一括払い、もしくは分割払いができる後払い決済サービスです。分割は3回ほどが主流で、ユーザーの手数料が基本的にかからないことも売りに。6〜36カ月の長期で分割返済するプロダクトも出ています」

ユーザーが商品を購入した際、BNPLを選択すると、いったんはBNPL事業者が小売店に代金を立て替えて支払う。その際、BNPL事業者は小売店から手数料をもらう。

その後、商品が発送されユーザーの手元に。そしてユーザーは、月末払いなどの決められた条件でBNPL事業者に後から代金を支払う流れだ。

ではなぜこの決済方法が流行したのだろうか。そもそも後払い決済は、それほど目新しいものとも思えない。たとえば私たちの使うクレジットカードも月末一括払いが主流だ。

「海外で流行した背景として、日本とはクレジットカードのポジションが異なることが挙げられます。日本のクレジットカードは月末一括払いが主流ですが、海外はリボ払いのように、金利をそれなりに支払いながらの分割払いが主流。手数料を取られることに不満を持つ人が多くいました。また、若年層は奨学金でローンを借りている人も多く、クレジットカードを持てないケースが珍しくないのです」

その結果、海外では若年層のクレジットカード離れが進んでいたという。なお、海外の日常的な買い物ではデビットカードも利用されている。こちらは、購入したその場でお金が銀行口座から引き落とされる。つまり、月末一括払いや数回の分割払いができる決済方法は充実していなかったのだ。

「このニーズの空白に入り、しかもユーザーの手数料がかからないことから、BNPLは若者を中心に流行したのです。なお、ユーザーの手数料がかからない分、お店側が支払う手数料はクレジットカードより高い傾向にありますが、あえてこのビジネスモデルにして、手数料を払いたくない若者の心理を捉えたといえるでしょう」

そのほかの特徴として、BNPLは個人情報の入力や信用調査も簡便。電話番号の登録だけで利用できるケースもあり、審査に落ちることも少ないようだ。

さらに流行を後押ししたのが、コロナ禍でのオンラインショッピングの拡大だ。

「家で過ごす時間が増え、家電や電子機器、エクササイズ商品など、比較的高額な商品をオンラインで購入する若者が増えました。その際、手数料なく数回の分割払いができるBNPLがマッチして広がったと考えられます」

なお、小売店にとっても、手数料が増えてしまうものの、BNPLを導入するメリットがあるという。「いわゆる“カゴ落ち”と呼ばれますが、買いたくてもお金の不安でやめるケースを減らすことが挙げられます」。

日本でBNPLは普及する? サービス単体よりも大きな視点で見るべき

海外では、どれだけBNPLが活気づいたのだろうか。たとえばBNPL事業者の海外大手として、クラーナ(スウェーデン)、アファーム(アメリカ)、アフターペイ(オーストラリア)が挙げられる。これら3社の自社サービスによる決済取扱高(2019〜2020年)は、日本総研の資料によると、前年比それぞれ+46%、+77%、+112%と大きな伸びを見せた。

また、海外の調査では、北米・欧州におけるBNPLの利用率も、2020年から2024年にかけて2倍近くかそれ以上になるという予測も出ている。

「ただし、ほとんどのBNPL事業者はまだ赤字状態です。現在は利用者を増やす段階で、いわば“面”を取りに行っている状態。上述の大手3社も赤字で、収益化のフェーズには入っていません。今後の動向を注視すべきです」

さて、ここまで聞いて気になるのが「日本でBNPLは普及するのか」ということ。すでに国内でもサービスは出ているが、未来をどう読めばよいのだろうか。

「海外と同じようなニーズが日本にあるかというと、難しいでしょう。決定的な違いは、日本はクレジットカードによって月末一括払いに慣れていますし、不便さや手数料への不満も海外ほど高くない。大きなペインポイント(顧客の悩みの種)にはなっていないと考えています」

加えて、海外のようにクレジットカードを持てない人も日本には多くない。仮にクレジットカードを持てない層、いわば所得が安定しない層や学生に対して殊更に企業が購買力を与えて返済義務を課すのは「社会通念上の問題も出てくる」と付け加える。

「ただし、こういった生活者向けのサービスは、広告・マーケティング次第で流れが大きく変わります。わかりやすい例がキャッシュレス決済でしょう。日本では普及しないと言われる時期もありましたが、各社のキャッシュバックやポイントを使った戦略で勢いづきました。うまく訴求すれば拡大する可能性もあると思います」

何より、企業も「BNPL単体のビジネスで利益を上げるより、さまざまな金融サービスを提供する中で、エコシステムのひとつとしてBNPLを位置づけるのではないか」と谷口氏。先述した大手の赤字の話も、この流れに通じる。サービス単体で利益を出す流れより、「BNPLが既存の決済サービスの1つに加わるなど、金融の大きなエコシステムに組み込まれていくのではないか」と展望する。

実際、オーストラリアのアフターペイは、昨年8月、アメリカのモバイル決済サービスを手掛ける大手スクエアに買収された。また、アファームは昨年9月にアマゾンと提携している。

そのほかAppleでも、Apple Payのアップデートとして「Apple Pay Later」の追加を発表。Apple Payの購入代金を6週間にわたり4分割で支払えるように。これもやはり、Apple Payの決済機能を強化する上で、ひとつの歯車としてBNPLが取り入れられているといえよう。

支払いトラブルに企業のモラル。サービスを広めるための「課題」

最後に、普及を考える上での“課題”にも触れておきたい。やはり避けては通れないのが、使いすぎなどによる「支払いトラブルの増加」だ。

「すでに表面化しており、欧米の当局でも対策をとる動きが出ています。たとえば、BNPL事業者は利用者に返済義務があることをアナウンスし、また、サービスごとの決済総額や返済された金額の情報開示を行うよう求めています」

さらにもうひとつの課題として、谷口氏は、BNPL事業者のモラルも重要になると考える。

「サービス自体は難しい仕組みではないので、新規参入する企業も増えると思います。その中で、ユーザーの返済能力を超えた利用を黙認し、延滞中の手数料や遅延損害金で利益を得ようとする企業が現れる可能性も否定できません。無法地帯になれば業界のイメージが下がり、衰退につながります。早めに規制を作り、健全な状況を保つことが発展には欠かせないでしょう」

信用調査が簡便で手軽に使えるということは、リスクも膨らむことになる。それらをどう解消していくかは、今後、事業者にも聞いていきたいテーマのひとつだ。

メリットとリスク、期待と不安が入り混じるBNPL。国内では今後、どんな発展を見せるのか。次回以降、事業者への取材を通して考えたい。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2022年7月現在の情報です