金融市場には、その運用額の大きさから「クジラ」と呼ばれる機関がいくつか存在します。中でもとりわけ大きく、市場参加者からの注目度が高いのがGPIF(Government Pension Investment Fund:年金積立金管理運用独立行政法人)です。GPIFは文字通り日本の年金積立金を管理・運用しており、2021年度の運用資産額は約196.6兆円にも上ります(図1)。この資産額は世界の年金基金の中でも最大規模であることから、世界最大の機関投資家とも称されます。

図1. 運用資産額の推移(単位:億円)

GPIFの変遷

GPIFの起源は1961年に国民年金等の被保険者への還元策を行うことを目的として設立された特別法人「年金福祉事業団」であり、同事業団は1986年から財政投融資借入で還元融資や施設の運営等を行い、年金資金の運用を開始しました。その後、2001年に財政投融資制度の改革に伴い設立された「年金資金運用基金」に事業が引き継がれ、厚生労働大臣による年金資金の市場運用が始まりました。そして2006年、年金積立金の管理・運用業務を担う機関として同基金が改組されGPIFが誕生しました。

年金積立金の管理・運用

運用方針は主に、「年金財政上必要な利回りを必要最低限のリスクで確保するために資産や地域を分散し、安定的且つ効率的に収益の拡大図ること」(一部抜粋)とされ、これらの実現を目指して長期的な運用が行われています。2001年に市場運用を開始して以降、現在(2021年度)に至るまでの収益率は年率3.69%、収益額は累積で105兆円超に上っています(図2)。また、運用においては自家運用ではなく(一部国内債券を除く)経営委員会で決定した資産構成、いわゆる基本ポートフォリオ等に基づいて信託銀行等の運用機関に委託されています。

図2. 運用収益額の推移(単位:億円)

基本ポートフォリオの構成と運用

GPIFはインフラストラクチャーやプライベート・エクイティといったオルタナティブ資産にも投資を行っていますが、これらへの資産配分は資産全体の5%を上限に定められおり、運用資金の多くは国内株式、国内債券、外国株式、外国債券のいわゆる伝統的資産に投じられています。市場運用を開始した当初は資金の約6〜7割が国内債券に割り当てられ、国内株式、債券を合わせると全体の8〜9割を占める国内に比重を置いたポートフォリオで運用されていました。しかし2014年になると、日本のデフレ脱却を想定して国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%の構成割合に変更され、外国資産および株式への配分が増加しました。その後、2020年に第4期中期目標が策定され、基本ポートフォリオは伝統的4資産にそれぞれ25%という配分になり、現在に至ります(図3)。

なお、変動する市場の中で運用を行う上で合理的に無理のない範囲で機動的な運用を可能とするために、この基本ポートフォリオから乖離を許容する範囲(乖離許容幅)が決められています。この乖離許容幅は現在、国内株式で±8%、国内債券及び外国株式で±7%、外国債券で±6%、さらに、株式と債券でそれぞれ±11%と定められており、基本ポートフォリオから乖離した場合は乖離許容幅内に収まるようリバランスが実施されます。

また運用手法は大きく分けて、TOPIXなどの指数、いわゆるベンチマーク通りに運用し市場平均程度の収益率を目指すパッシブ運用、及び、市場予測などで市場平均を上回る収益率を目指すアクティブ運用の2種類がありますが、GPIFは伝統的4資産それぞれで両方の運用ファンドを採用しています。しかし、GPIFが公表している「パッシブ運用及びアクティブ運用の割合の推移」を確認すると、市場運用開始当初は伝統的4資産全体で約50%がアクティブファンドに当てられていたものの、その後はパッシブファンドへのシフトが顕著となり、2013年度末においてアクティブファンドでの運用が占める割合は全体の14%程度になっています。第二次安倍内閣発足後、債券を中心にアクティブ運用の比率がやや増加して2017年には24%程度まで戻したものの、その後は再度減少して2021年度末では15%弱に留まっています。そのため現在は、特に株式においては国内外ともにパッシブ運用が主流であると言えます(図4)。

図3. 基本ポートフォリオにおける各資産の割合の推移

図4. 基本ポートフォリオの各資産に占めるアクティブ運用割合の推移

株式での運用と保有銘柄

GPIFは2021年度末時点で国内株式に約49.5兆円、外国株式に約50.7兆円投じています。また、国内上場企業株式での運用資産は約48.9兆円と日本全体の株式時価総額の約6.7%を占めていることから、国内においても最大級の株主となっています。しかし、GPIFは個別銘柄の選択は実施しておらず、上記の通りパッシブ及びアクティブファンドを通して間接的に保有しています。そのため、GPIFの名前は株主名簿には掲載されず、事実上大株主になっていた場合でも運用委託先の保有率に基づいた委託先名義の有価証券報告書が公表されることになります。

2021年度末における保有銘柄を確認すると、国内株式においては2347銘柄と幅広く保有しており、時価総額順ではトヨタ (2兆1317億円)を筆頭に、ソニー(1兆4796億円)、キーエンス(9167億円)といった銘柄が続いています(表1)。また、保有比率順ではスミダコーポレーション(12.5%)、ニフコ(12.2%)、イー・ガーディアン(12.2%)、ネットワンシステムズ(12.2%)と続き、上位15銘柄においてはいずれも10%以上の保有率となっていることから、株式名簿に名前の掲載こそありませんが、GPIFの存在は非常に大きなものとなっています(表2)。

一方、外国株式においては投資先の国や地域も分散されており、投資規模順ではアメリカ(31.8兆円)、イギリス(2.1兆円)、フランス(1.6兆円)、カナダ(1.6兆円)と続いています。投資規模を確認するだけでも米国株式の比率が高いことが伺えますが、保有銘柄の時価総額順でも、アップル(2兆1044億円)、マイクロソフト(1兆7424億円)、アマゾン(1兆1051億円)、アルファベット(A株)(6603億円)と続いており、いわゆるGAFAMと呼ばれるような米国銘柄が中心であることが分かります(表3)。

現在の資産配分に至った経緯や運用状況の報告及び運用結果の分析などは、GPIFが公表している業務概況書に記載されていますが、年金基金の運用という非常に重い責任を負っているという点から考えても、GPIFのポートフォリオはより厳格にあらゆるリスクを想定・検証した上で決定されたものと考えられます。運用資金の規模は真似できませんが、ポートフォリオの配分やその理由等は長期投資を行う上で一見の価値があるかと思います。本コラムが皆様の資産運用の参考となれば幸いです。

表1. 保有時価総額順の国内株式銘柄TOP10

表2. 保有比率順の国内株式銘柄TOP10

表3. 保有時価総額順の外国株式銘柄TOP10(2021年度末時点)

【参考URL】
年金積立金管理運用独立行政法人ホームページ(参照2022-07-18)
「2021年度の運用状況」
「2021年度業務概況書(PDFファイル)」

(提供元:光世証券)