2023年8月3日、都内某所で「キャリア自律」をテーマにしたトークイベントが開催された。キャリア自律とは、従業員自身が主体性を持って自発的な学習などに取り組み、キャリア形成を行うこと。近年は、キャリア自律を推進する企業が増えてきている。

このイベントに登壇したのは、「キャリアオーナーシップ経営AWARD 2023」で優秀賞を受賞した3社の経営者。スタメン代表取締役社長の大西泰平さん、ZENKIGEN取締役の水野宇広さん、WakuWorks代表の鈴木悠介さんの3人だ。

会場に経営者や企業のキャリアオーナーシップ施策に携わる人が集まるなか、3人の経営者がキャリア自律を促すために行っている具体策やコツ、失敗談などを話し、情報を共有していく。その場に参加させてもらった。

「キャリアオーナーシップ経営AWARD」受賞企業の取り組み

(左から)WakuWorks代表・鈴木さん、ZENKIGEN取締役・水野さん、スタメン代表取締役社長・大西さん

まずは、各社の取り組みについて、紹介していこう。

●スタメン
エンゲージメントプラットフォーム「TUNAG」を展開するスタメンでは、会社として行動方針「Star Way」と従業員個々の目標設定「グレードコミットメント」を組み合わせ、会社が求める人物像を明確化しつつ、キャリア自律を支援する取り組みを行っている。

日常的に「Star Way」を意識できるような称賛制度を導入する。また、「グレードコミットメント」では4カ月ごとの目標設定を実施し、上長との検討も踏まえながら、従業員自身が策定している。

●ZENKIGEN
採用DXサービス「harutaka」や1on1改善サポートAI「revii」を提供しているZENKIGENでは、キャリア自律を推進するカルチャーを根付かせるため、都市部とビーチフロントのオフィスから働く場所を選べる制度などを展開。従業員に向けて経営陣の考えや財務情報も開示する「ZENKIGEN RADIO」を実施し、会社と個人の情報の非対称性も解消している。

また、他企業からの出向やレンタル移籍(現在の企業からいったん離れて他企業で働くこと)などを受け入れることで、従業員の外部との接点を増やし、自己認識を高める取り組みも積極的に行っている。

●WakuWorks
“ワクワクを仕事に、仕事にワクワクを”をミッションに掲げ、クライアントの課題解決に取り組む独立系コンサルティングファームのWakuWorksでは、書籍購入や新しいツールの導入の支援など、従業員が学ぶ機会を増やす制度を進めている。また、学んだことを披露できる発表会や社内ビジコンを開催し、従業員のインプット、アウトプットの意欲を刺激。

従業員の自己理解を促進するため、週次での1on1やクリフトレングスなどを用いた性格分析なども行っている。

キャリア自律推進のコツと失敗談を共有


トークセッションの最初のテーマは「キャリア自律の取り組みが軌道に乗った一番の要因は?」。それぞれ次のように分析する。

「いかに成功事例をつくるか、でしょうか。メンバーが成果を上げ始めたらプロジェクトの要職に抜擢したりするというように、『頑張ったら得をする』を具体で示すことで、いい連鎖が起こると思います。ただ、『器用に立ち回ること』を評価する状況が生まれないようにすることが、難しい点でもあります」(大西さん)

「経営層が、メンバーのキャリア自律にコミットメントすることですね。トップが意志を持って推進しないと進まないと思います。もうひとつ大切なのは、縦・横・斜めのコミュニケーションを取ることです」(水野さん)

「新しいものを取り入れる速度感を大切にしてきたからだと思います。メンバーから『新しいツールを導入したい』という声が上がったときに、返事を温めてしまうと、その後の要望を出しにくくなってしまうので、返事は1週間以内と決めて、確実に返すようにしています」(鈴木さん)

続く「キャリア自律の取り組みのなかで、失敗した取り組みはありましたか?」のテーマでは、貴重な実体験が飛び出した。

「現場主導になっていったことで、意思決定する人物間での探り合いが起こり、物事が進展しにくくなってしまうことがありました。キャリア自律してもらうには、経営層やマネジメント層がプロジェクトごとにリーダーの役割を決めてあげることが大事なのだと思います」(大西さん)

「もともとキャリア自律の高いメンバーが多かったこともあり、最初は会社や個々の目標を共有していなかったのですが、何をすればいいか判断できない人が出てしまいました。それからは経営層の考えや戦略を伝えるように努めています」(水野さん)

「目的を定めずに始めた施策は、滞りやすいと感じています。目的さえ明確であれば、メンバーも理解してくれるのかなと」(鈴木さん)

さらに「取り組みを推進するうえで、巻き込みが大変だった層は?」というテーマでは、さまざまな企業で参考になるであろう考えが披露された。

「全員がキャリア自律を目指さなくてもいい、という前提があります。全員を巻き込むというより、個々のメンバーがキャリア自律を考えるタイミングが来たときに、フォロー、エンパワーできる環境を整えることが大事なのかなと」(大西さん)

「キャリアのなかで決められた目標を遂行することを多く経験してきたメンバーは、『決めてほしい』と話すことが多かったです。ただ、ひたすら対話を重ね、当社のカルチャーを知ってもらうことで、感覚を変えていくことはできます」(水野さん)

「大手企業からジョインする人ほど、最初は戸惑うようです。2〜3カ月くらい、1on1でひたすら背中を押してあげると、目標や意見を話してくれるようになる方がほとんどです」(鈴木さん)

会場から集まるリアルな質問にも、その場で回答


会場に集まった人からの質問にも、その場で答えていく。その一部もお届けしよう。

Q.ZENKIGENで出向やレンタル移籍を受け入れたことによるメリット、デメリットは?

「似たような人だけの集まりだと新しい気付きが減っていきますが、考え方や環境の異なる人が入ってくることで、メンバーの自己認識が深まると感じています。一方で、生産性が下がる、コンフリクトが起こるといった問題も生じるので、やってはいけないことのルールだけ決めて、継続して取り組むことが重要だと思います」(水野さん)

Q.1000人以上規模の企業でも有効な施策はある?

「人数が多いほど難易度は上がります。経営陣の介入が難しくなるので、現場のリーダークラスが説得力を持ちながら率先垂範できるかがカギになると思います。経営陣は人材の採用と育成に励み、好循環を回すことが先決ではないでしょうか」(大西さん)

Q.スタートアップフェーズで社員も少ない場合、評価制度はどのくらいの規模になったら始めるといい?

「限られた席のなかでの評価は、本質ではないのかなと感じています。当社は社員が6人ですし、担当案件によって一律のバーで測れない部分があるので、1on1で目標をすり合わせ、互いに納得できるところを目指すことを重視しています」(鈴木さん)

Q.斜めのコミュニケーションがキャリア自律につながる背景とは?

「斜めのコミュニケーションとは、例えば違う部門の人と話すことですが、これも他企業の方を受け入れるのと同様で、違う視点が加わって自己認識しやすくなるといえます。同じ部門の人とばかり話していると新しい気付きがないですし、近くで働いているからこそ言えないことも出てきます。ちょっと距離のある人と話したほうが、自分の考えも話しやすくなるでしょう」(水野さん)

イベントの最後では、経営者3人が思う「キャリア自律において大切なこと」を聞く。

「自分の人生に興味を持つこと。答えはなくてもいいので、どう生きていきたいのか、考えることが大事だと思います」(鈴木さん)

「自己肯定感が低いと、キャリア自律はないと思います。メンバーには、1日100回自分を褒めて、自分を愛することから始めようと伝えています」(水野さん)

「自己肯定感に加えて、自身への課題意識を持つことも大切ですよね。この両輪を持っていることで、何かを目指すという意欲が湧くのかなと感じます」(大西さん)

現場で従業員と接している3人ならではのリアルな話が聞けた今回のイベント。企業の人的資本情報の開示が求められているいま、かなり貴重な場となったのではないだろうか。今後、増えていくであろうキャリア自律に関するイベント。気になる人は参加してみてはいかがだろうか。

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(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/鈴木真弓)