働く高齢者の「年金減額」制度は65歳を過ぎると大きく変わる。64歳までは年金と月給の合計額が28万円を超えると年金をカットされたが、年金が満額支給される65歳からは月収合計が46万円まで減額されないからだ。

 標準的な年金額は月額約16万円。月給が30万円を超えなければ年金も満額もらえる。社会保険労務士の伊藤論氏が語る。

「再雇用で働く65歳以上の高齢者の多くは嘱託や非常勤で、月給30万円を超える人は多くない。事実上、65歳以上は年金減額の対象にならないと考えていいでしょう」

 もっとも、政府が定年を迎えたばかりで体力的にもまだ無理がきく60代前半の人からは働く気を失わせるくらい年金を減額しておいて、リタイアを考える人が増えてくる60代後半になって、“さあ、稼ぎましょう”というのはチグハグだ。

 厚生労働省が政府の働き方改革実現本部に提出した資料によると、60代の高齢者の8割が「非正規雇用」の働き方を希望し、希望する月収は「10万円未満」が過半数となっている。高齢者を「安価な労働力」として使いたい意図が透けて見えるが、自主性のない仕事を無理に続けると健康への負担が大きくなる。

 米国インディアナ大学が60歳から69歳までの2363人を対象に行なった「ストレスと自主性と仕事に関する研究」によると、製造業や建設業、サービス業などで自主性の低い仕事に従事している人は死亡率が高く、農業など自主性が高い仕事の従事者の死亡率は低いと報告している。

 高齢者にとって一番の関心は自らの健康だ。再雇用でストレスをため込みながら長く働き続けるくらいなら、「65歳のリタイア」で健康寿命を保つことは有力な選択肢となる。

 リタイアと言っても“家で1日中ひなたぼっこ”ということではない。新潟大学名誉教授の岡田正彦氏が語る。

「インディアナ大学のデータは日本とは少し違うと思います。日本ではストレスで病気になってしまう人はデスクワークのホワイトカラーが多い。それでも働き続けた方が健康寿命をのばせる。もちろん、高齢者になれば身体の機能が低下し、疲れやすくなるのは当然。仕事のスピードも落ちるでしょう。ですが、『だから働かない』ではなく、仕事や趣味を無理しない程度に少し頑張るのが大切です」

 シルバー人材センターの仕事を見ると8割は時給ではなく「請け負い」だ。庭木の剪定や草取りから、障子や襖の張り替えまで、ひとつの仕事を全部任されるから、マイペースと自主性を保つことができる。それでも1か月に10日間働いて平均的な月収は4万〜5万円ほどになる。そんなセミリタイアも選択肢になる。

「現在、登録会員は72万人。皆さんご高齢ですから、もちろん腰が痛いとか、体調が悪いという方もいらっしゃいます。そこで体調や働きたい時間と仕事などを考慮してマッチングさせています」(全国シルバー人材センター事業協会)

“年金博士”こと社会保険労務士の北村庄吾氏がいう。

「60代前半がリタイアに向けた助走期間なら、65歳というのは一つの区切りになります。長く社会で働きたいのならなおのこと、フルタイムではなく週3日勤務など余暇の使い方を含めて無理をしないライフワークバランスが大切。そうしたことを考えて実践している高齢者の方が結果的に長く活躍されています」

※週刊ポスト2018年3月16日号