コロナ禍で企業が副業を容認する動きが加速している。厚生労働省でも働き方改革の名の下、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を制定し、会社員の副業を推進してきた。

 Another worksが2月に発表した「副業/複業に関する意識調査」によれば、最近、副業を新たに開始したり、増やしたりしたという人は約6割。一方、副業を認める企業は約3割に過ぎず、まだまだ副業解禁の流れは限定的であることがうかがえる。副業禁止の会社に勤務しながら、こっそり副業を始めると、どのようなリスクがあるのだろうか。弁護士の渡邉雅司氏に聞いた。

副業とみなされる線引き

 そもそも副業という言葉に法律的な定義はなく、本業の傍らに活動して収入を得る行為全般を指す。会社員が他の会社でアルバイトやパート勤務するほか、自分で起業、内職などさまざまな形態がある。

 渡邉氏によると、自分では副業と思わなくても、「副業」とみなされる場合もあるという。代表的なのは、手軽にでき、特別なスキルも要しないことから人気の「せどり」だ。通販やリサイクルショップなどで安く仕入れた商品を高く転売し、その利ざやを稼ぐ手法を指す。

「自宅で不要な生活用品を売るだけであれば、ビジネスとは見なされないでしょう。ただし、スキームを作って定期的に仕入れや販売を行っている場合、副業と見なされることもあります」(渡邉氏・以下同)

 自分で相当の手間や労力を割き、拘束時間も長いなかで収入を得る方法は、副業とみなされる可能性が高いということ。一方、資産運用で得た収入は、一般的に「不労所得」と見なされ、副業には当たらない(ただし、不動産投資が一定の規模を超えると事業とみなされ、副業扱いになることもある)。

企業が副業を禁止する理由

 多くの日本企業では長らく、副業は実質禁止されてきた。会社員でも勤務時間外の活動は自由のはずだが、なぜ副業は禁止されてきたのだろうか。

「会社員には職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務があるためです。そうした義務に違反すると会社が判断した場合、副業を制限することが可能です」

 職務専念義務とは、「勤務時間中はその職務に専念する」ということ。勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用いること、とされている。こうした義務に違反した場合、会社からの処分を下すこともできるという。

「1982年(昭和57年)の判例ですが、勤務後6時間にわたってキャバレーで無断就労していた従業員を企業が解雇し、従業員から訴えられた事案があります。労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮して、企業側の処分として解雇は有効だとされました。例えば、副業で夜勤のシフトに入り、昼間の本業中に集中力を欠くなど職務に専念できない状況が続く場合、会社からの処分に繋がる可能性もあります」

 労務提供上の支障がないケースではどうだろうか。厚生労働省の「副業に関するガイドライン」では、副業を制限できる条件として、以下の通り定められている。

(1)労務提供上の支障がある場合
(2)業務上の秘密が漏洩する場合
(3)競業により自社の利益が害される場合
(4)自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

「上のガイドラインの(1)(2)はわかりやすいですが、(3)と(4)は判断が難しいケースも多数あります。問題ないだろうと副業を開始した後に、会社から(3)や(4)の観点で問題を指摘される可能性もあります。副業をしたいのであれば、まずは会社の就業規則を確認し、会社に相談した上で副業の内容を決めるという手順が良いと思います」

 渡邉氏は、最近では(2)の秘密保持義務や(3)の競業避止義務から問題となるケースも増えていることを指摘する。

「(2)の秘密保持という観点で、エンジニアによる技術漏洩が問題となるケースがあります。自社の特許技術は言わずもがなですが、自社独自のノウハウを副業で使うのも、場合により秘密保持義務違反として問題になる可能性があります。また、類似の業種や類似サービスを提供している企業での副業は、競業避止義務に違反するリスクがあります」

 企業側は合理的な理由があれば、副業を禁止することも、その内容を制限することもできる。副業を開始する際には十分に注意したい。

内緒の副業が発覚した場合のリスク

 会社に内緒で副業を続けていたことが発覚した場合どうなるのか。いきなり解雇になるリスクはあるのだろうか。

「過去の判例は、副業を理由として従業員を解雇したところ、この解雇が解雇権の濫用として無効になったケースが複数あります。本業への具体的な支障を立証できなかったり、競合他社で副業するなどの悪質な競業避止義務違反などがない場合、解雇の処分は厳しすぎるとされる可能性があるでしょう。

 最初は口頭や書面で注意をし、改めなければ減給や降格などの処分を検討するなどの手順になることが多いと思われます。ただ、就業規則にもよるので、やはり副業を始める前に就業規則を確認することが大切です」

副業禁止の会社とどう交渉するか

 会社が副業を制限できる条件をみてきたが、逆にいえば、こうした合理的な理由がなければ、会社として副業を禁止するのは厳しいということになる。副業禁止の会社で、どうしても副業したい場合には、会社と交渉するのも手だ。

 その際、前述(1)〜(4)に該当しないことを説明するのがポイント。また副業で得たスキルが本業にも役立つことなど、会社にとってのメリットもあれば説明しておきたい。

 企業法務サービスを提供するunite株式会社代表取締役の角田行紀氏のもとには、ここ数年、「副業を許可したいが、どのように就業規則を修正したらよいか」という相談が寄せられることが増えてきたという。同氏は副業を許容する流れは今後加速していくと予測する。

「弊社でも副業を許可するパターンの就業規則のパッケージを急ぎ開発しています。社員の副業を全面的に支援したいという経営者は多くないですが、ニーズの高まりから容認せざるを得ないのだろうと感じます。就業規則の改定は会社と社員双方のリスクを減らすことに繋がります」(角田氏)

 収入を補填する手段として、ますます注目される副業。トラブルを起こさないよう、勤務先との事前の調整が肝要だ。

【プロフィール】
渡邉雅司弁護士(わたなべ・まさし)/平成21年(62期)弁護士登録、半蔵門総合法律事務所所属