いくら相続対策を学んでも、実際に役立てるには親や兄妹と話し合わなければ意味がない。しかし、「家族で話し合う」というただそれだけのことが、相続となると途端に難しくなる。親、兄妹、その他の親族、さまざまな立場の思惑や心情、そして打算が絡み合うからだ。だからこそ家族会議を開き、全員の合意を得る必要がある。

 では、実際の家族会議はどのように進めていけばいいのか。ここで迷走すると、生前から兄妹間で争いが始まってしまうリスクが生じることになる。

会議を開くのは親の家か、子の家か

 開催が決まったら、次は会場設定である。これが意外に難しい。たとえば、長男の家で開催するとなれば、その妻が話し合いで長男に加勢して有利になりかねない。一方、“アウェー”となる次男らは“お客”としての遠慮が生じやすい。

「公平さを担保する意味では、親の家で開くのが無難です。預金通帳や所有する不動産の資料などが必要なときにすぐに探せるというメリットもあります」(まこと法律事務所代表・北村真一弁護士)

 ただし、親が子供の誰かと同居していると、“長男の家”と同じ状況になってしまう。

「フェアな環境で会議をするということが重要。家族全員にとって中立的な場所として貸し会議室などで行なうという手もあります」(心理学者の富田隆氏)

 喫茶店など飲食店で開く場合は、あとで「周りに他人がいたので言えなかった」とクレームがつくのを防ぐために、なるべく客が少なくて落ち着いたところを選ぶのが良い。

「人は空腹だと気が立って攻撃性が高まりますが、食事をすると落ち着きます。飲食店で開催する場合は、食べている間は雑談をしながら場を和ませ、食べ終わってから本題に入ると話がまとまりやすくなるかもしれません」(同前)

議事録は誰が作るのがいいか

 会議の司会進行は長男が務めるとスムーズになることが多いという。

「議事録をまとめるのも長男が良いと思います。今でも高齢の方は年次を大切にする人が多い。長男が仕切るのが苦手な性格でも、兄妹が『私たちがバックアップするから大丈夫』とサポートしてあげることが、会議を円滑に進めるコツです」(『相続で家族がもめないための「生前会議」の開き方』著者で、公認会計士・税理士の五十嵐明彦氏)

 会議後には決定事項をまとめた議事録を、出席者全員に送付して共有することも大切だ。

「詳しい人」が仕切ろうとしたら

 困るのは、たとえば長男が普通の会社員で、次男が法律職だったりした場合である。「自分は相続に詳しいから」と乗り出してくれば、任せたくなる気持ちもわかる。「次男の妻が法律に詳しい」という場合も同様の事態が起こり得る。

「制度に詳しかったり、弁が立つ人が仕切ると、会議がその人にリードされかねない。そういうときは『専門知識がわからないまま進むのは困るから、一番詳しくない人に合わせたい』と合意を取ることが大切です」(富田氏)

何から話し始めたらいいか

 いきなり「相続」というテーマから始めると、親が気分を害する場合もあるので要注意だ。「墓や仏壇の管理をどうするか」「介護が必要になったらどうするか」といった話で、親に会議の開催を説得したケースであればなおさらである。

 話し合いのなかで場がほぐれてきたら、本題の遺産相続に入ればいい。議長は自分の意見を言うより、参加者の意見を聞くことに徹したい。1回の会議ですべて決めようとせず、腰を据えて何度か会議を開くつもりで取り組む。

 特に財産に不動産がある場合は、分け方が複雑になる。売って現金に換え、兄妹で平等に分けることもあれば、介護などを理由に分配の割合に差をつける場合もあり、みな意見が異なるはずだ。

「最初の段階では、財産の分割案を大まかに3パターンほどつくって検討するといい。叩き台が1つしかないと、結論ありきの議論になって後に不満が出るリスクがあります」(北村氏)

反対する人がいたらどうすればいい?

 概ね方向性が見えてきた中、強硬に財産の分配方法などに反対する出席者がいたら、多数決で押し切らずに次回の会議に持ち越すのも手である。相続は“全員一致”にならないと効力を持ち得ない。

「1回で決めようとすると、『あのとき無理矢理決めさせられたけど、やっぱり納得いかない』と親の死後に揉めるパターンもある。そういった議題は次回に持ち越し、その間に親に反対者を説得してくれるように頼んでみると良いでしょう。

『私の死後に子供たちが争っていることを考えると浮かばれない』と親に言われたら、考え直してくれる子もいるでしょう」(五十嵐氏)

※週刊ポスト2018年6月15日号