日々、さまざまな事件が起きているが、実際に裁判を傍聴すると、裁判官の意外と人間くさい言葉に居合わせた傍聴人たちが、思わず心を揺さぶられたりすることもあるという。裁判の現場でいったい、どんな話が繰り広げられているのか?

 裁判官が判決を言い渡した後、被告人に対して行いを改めるよう諭す言葉を「説諭」、正確には「訓戒」という。ここでは、傍聴人をも驚かせた説諭を2例、紹介しよう。

【事件データ1】
・静岡地裁 某陪席裁判官(1993年3月10日)……国の重要文化財である神社の拝殿に火をつけ、非現住建造物放火罪に問われた男に対しての発言。

『刑務所に入りたいなら、放火のような重大な犯罪じゃなくて、窃盗とかほかにも…』

 刑務所に入れば、食事が支給され、雨風がしのげ、寝床も確保されることになる。

「刑務所に入りたいからと罪を犯すのは、珍しいことではありません。この被告は『腹が減っていて、捕まって食事をとりたかった』と言い訳をしていましたが、このような罪人に切実な動機があるわけではなく、犯罪の先にある3食寝床付きの生活を狙っているため、大ごとは起こさない。

 ですが、この件は重要文化財に火をつけており、服役志願者のよくあるパターンから外れていたので、裁判官もこのような発言になったのでしょう」(司法ジャーナリストの長嶺超輝さん・以下同)

 もちろん、こんな身勝手な動機は許しがたいが、家もない状況でお腹が空いて犯行に及んだ被告の状況を知り、思わず裁判官が犯罪を指南するような失言をしてしまったため、《そうも言いたくなる》と、直後にあわててその発言をフォローしたという。

【事件データ2】
・福岡地裁 岡部豪裁判長(2013年9月13日)……家庭内暴力を繰り返していた男が、妻をかくまった友人を殺害。懲役24年の判決を言い渡した時の発言。

『遺族は死刑を求めた。私たちも死んでほしいと思っている』

 この事件が報じられた時は賛否両論を巻き起こした。

「直後に岡部裁判長は《生物学的な意味ではなく、人格的な意味で、もう一度生まれ変わってほしいという意味です》とつけ加えています」

 被告人に対する求刑は30年だったのに対し、言い渡された懲役は24年。判決とともに先の言葉を言い渡した。

「妻に対して暴力を繰り返していた男が、妻を気の毒に思いかくまっていた友人を殺害するという、非情で身勝手な男の心に響くような言葉を発したのだと思いました」

 岡部裁判長は人情派としても知られる。昨年3月、千葉県柏市で起きた、妻(当時30才)を殺害し、家の敷地内に埋めた男(当時37才)の公判で語った、独自の夫婦論も話題を呼んでいる。

 男は「妻から繰り返し暴力を振るわれ、精神的に追い詰められていた」と主張。これに対し、岡部裁判長は《精神的に追い詰められて苦しかった気持ちは理解できるが、いちばん苦しかったのは奥さんでしょう。あなたに攻撃的になったのは、愛していたあなたへのSOSだったのではないか…》と諭し、《夫婦はひとりで背負いきれないものを分かち合うもの。妻との最初の出会いから最後まで、楽しい記憶を思い出してください》と語ったという。

※女性セブン2019年9月12日号