フェイスブックが主導する新たな仮想通貨(暗号資産)「リブラ」が注目を集めるなか、2019年8月初旬には、中国人民銀行による新たな仮想通貨「デジタル人民元」発行の話題が世界を騒がせた。中国が研究を続けてきたというデジタル人民元とは、どのようなものなのか。

 2019年8月10日、中国の中央銀行である中国人民銀行の幹部は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)、いわゆるデジタル人民元の発行準備が整ったと発言。その研究はすでに5年に及ぶことも明かした。中国情勢に詳しいITジャーナリストが解説する。

「中国は2017年前半まで、世界最大級の仮想通貨取引国だった。しかし、仮想通貨取引の過熱を懸念した中国政府は、同年9月に国内の仮想通貨取引所の閉鎖に踏み切り、仮想通貨取引を一気に沈静化させた経緯がある。その裏で中国政府は、2014年からデジタル人民元の研究を着々と進めていたという。この時期にデジタル人民元の発行に言及した背景には、2019年6月に概要が発表されたリブラが国際決済の場で使われることへの中国の懸念があったのは間違いない」

 中国人民銀行が発行するデジタル人民元は、法定通貨の人民元に1対1で連動。中国人民銀行が商業銀行など金融機関にデジタル人民元を発行し、金融機関が一般消費者に対して法定通貨と交換する形でデジタル人民元を提供する「2層運営」システムを採用するといわれる。

「中国人民銀行幹部の『発行準備が整った』という発言を受けて、デジタル人民元の発行時期について一時は、早ければ建国70周年の国慶節となる『10月1日』、あるいは『11月11日』との観測がまことしやかに流れた。11月11日というのは、中国の消費者にとって一大イベントとなる『独身の日』である。アリババなどのECサイトを通じて、独身の日には1日で日本最大のECサイト楽天の年間売上高を超える金額が動くといわれている。こうした契機に発行をスタートし、デジタル人民元の利用を一気に促進したいはずだ、との中国人民銀行の意図を推し測った観測だった」(前出・ITジャーナリスト)

 しかし、中国人民銀行の易綱総裁は9月24日の記者会見で、「デジタル人民元の発行に向けたスケジュール表はない。研究、試験、評価、リスク管理などがまだ必要だ」と語り、市場に流れる早期発行の観測を否定した。

 そのうえで、易総裁は、2014年から中国人民銀行の専門チームがデジタル通貨を研究していたことを認めて、前向きな成果が出ていると明かした。発行の狙いについては、現金の一部を代替することが目標だと指摘した。

「早期発行は否定したとはいえ、中国人民銀行の総裁が記者会見の席で正式に『デジタル人民元』について具体的に言及したのは初めてのこと。研究が確実に進んでいる現状がうかがえる。特に、中国政府の締め付けに抵抗しようとデモの嵐が吹き荒れる香港へ世界の目が集まっている現在、デジタル人民元の発行は香港から世界の目をそらすインパクトを持つ。そんな思惑から、意外に早い時期にデジタル人民元が発行される可能性はあるだろう」(前出・ITジャーナリスト)