来年スタートに向けて急ピッチで進む「60歳以降も働きながら受給額を増やせる」年金制度改正。今回の改正の「在職老齢年金制度改正」と並ぶもうひとつの柱は「厚生年金の加入要件拡大」である。その影響が大きいのは、サラリーマンの夫に扶養されている「3号被保険者」のパート主婦だ。

 3号被保険者は自分で年金保険料を負担しなくても国民年金をもらえる。しかし、“特権”が適用されるのは60歳まで。現行制度では60歳以降にパートで働き続けても年金額は増えない。

 それが新制度ではパートのまま60歳から厚生年金に加入して働くことで、3つの“年金ボーナス”をもらうことができるようになる。

 第1のボーナスは65歳からの年金額アップ(図の【1】)。第2に「妻が年金をもらいながら65歳以降も働く」場合は在職老齢年金が毎年引き上げられる(図の【2】)。第3は世代によって「得する年金」(厚生年金の特別支給)の受給権資格が得られることだ(図の【3】)。

月額6万8000円に増える

 具体的に見ていこう。

【特典1】パート主婦が60歳から厚生年金に加入するメリット

 現在、パート主婦(3号)で国民年金を満額受給(月額6万5000円)できるケースは多くない。

「結婚前に年金未加入期間があったり、結婚後も3号制度(1986年創設)ができる以前に国民年金保険料を納付していなかった妻は、60歳までの年金加入期間が国民年金の満額受給に必要な40年に満たず、35年程度であることがほとんどです」(“年金博士”として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏)

 そうなると年金額は月額5万7000円にとどまる。

 サラリーマンの夫は60歳以降も雇用延長で働くことで、自分の厚生年金を増やすことができる。しかし、パート主婦は厚生年金への加入制限があり、これまでは月給10万円程度で中小企業(従業員500人以下)に勤務の場合、原則、加入できなかった。

 パート主婦が国民年金を満額受給しようと思えば、60歳以降に国民年金保険料(月額1万6410円)を支払って加入期間を40年まで延ばすしかなかったのだ。

 しかし今回の改正で厚生年金の加入要件が拡大され、パート主婦層の多くが厚生年金に加入できるようになる。月給10万円のパート主婦が60歳から5年間、新たに厚生年金に加入すれば、受け取る年金額は、国民年金の満額(加入期間40年。6万5000円)より多い月額6万8000円に増える。

【特典2】妻も毎年の年金額アップを狙える

 新制度では、65歳以降も在職老齢年金をもらいながら厚生年金に加入して働く場合、毎年、年金額を再計算して年金額を上乗せする「定時改定」制度の導入が検討されている。

 この制度は新たに厚生年金に加入できるようになるパート主婦にも適用されると見られ、妻が65歳以降も在職老齢年金をもらいながらパートを続ければ「毎年、年金額を増やす」ことが可能になる。

厚生年金1年加入でもらえる

【特典3】今から「得する年金」の受給資格を得られる

 現在54歳以上(1966年4月1日以前生まれ)の女性は、「得する年金」(65歳になる前に支給される厚生年金の特別支給)をもらえる世代だ。

 ただし、この年金をもらうには独身時代や結婚後に会社勤めの経験があるなど厚生年金加入歴(1年以上)があることが条件だ。「結婚前は国民年金、結婚後もずっと3号だった」という人は受給資格がない。

 しかし、新たな制度がスタートすれば、これから厚生年金に加入するという選択肢が出てくる。

 たとえば、今年60歳を迎えるパート主婦であれば、60歳から1年間、厚生年金に加入するだけで特別支給の受給資格が生まれ、61歳から厚生年金(報酬比例部分)をもらうことができるようになる。

「早めにリタイアして夫婦で旅行でもしたい」「趣味を楽しみながら、元気なうちはできるだけ長く働きたい」など、夫婦の定年後の人生プランは様々だろうが、まず生活基盤の安定が必要だ。妻の働き方と年金額によって夫の雇用延長後の働き方や「老後資産」の見通しが大きく変わってくる。

 ただし、妻が働くかどうか、あるいはどの程度のペースで働くかは制度改正と同時に決められるものではない。それらを踏まえると、夫婦の年金で得するには、今のうちに準備しておかなければならないことも多いと言えるだろう。

※週刊ポスト2019年12月6日号