【書評】『ミルトン・フリードマンの日本経済論』/柿埜真吾・著/PHP新書/860円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)

 久しぶりに頭をぶん殴られるくらいの衝撃を受けるとともに、自分の勉強不足を恥ずかしく感じた。実は、私はミルトン・フリードマンの著作をまったく読んでいなかった。読む必要もないと思っていたからだ。

 私はフリードマンを敵だと思ってきた。市場原理主義者の巣窟であるシカゴ学派の総帥であり、規制緩和・民営化路線の新自由主義者たちに理論的支柱を与えてきたからだ。ただ、本書を読んで、フリードマンの主張する政策が、左派である私の主張と大きく重なっていることに気づかされた。

 例えば、低所得世帯に教育機関への支払いにだけ使えるバウチャーを発行して、実際の学校選択は家庭に任せる教育バウチャー制度を、フリードマンは自ら財団を作って実践している。私が導入を主張し続けている「すべての国民に無条件に一定額を国が給付する」ベーシックインカム制度と、ほぼ同内容の「負の所得税制度」をフリードマンは提言している。弱肉強食を容認する冷酷非情の経済学者だと思っていたのだが、政策は意外とリベラルなのだ。

 もっと驚いたのは、フリードマンが日本の消費税に反対し、金融緩和と減税を主張していたことだ。ここまで来ると、私の主張していたマクロ経済政策とフリードマンは、まったく同じということになる。もちろん、フリードマンが消費税に反対するのは「小さな政府」に反するからだし、不良債権処理や構造改革という弱肉強食政策を支持していることも事実だ。

 ただ、フリードマンが高い経済分析能力を持っていることは、間違いのない事実だ。フリードマンは元々保険数理士を志す理系出身だから、理念や理論先行ではなく、実際のデータを重視する。データをきちんと分析して、経済のメカニズムを解明する。それは科学者として正しい態度だ。

 いま日本経済は再びデフレに陥落する瀬戸際に立たされている。我々は、もう一度フリードマンの経済分析を学び直す必要があるのではないだろうか。

※週刊ポスト2020年1月17・24日号