新型コロナウイルス感染症対策として、全国民に一律10万円が支給される「特別定額給付金」の申請受付が、大半の市区町村で終了した。全国約1億2550万人分の給付金として計上された予算12兆7344億円のうち、既に98%以上(8月14時点)が支給済みとなっており、ほとんどの国民が給付金を受け取ったことになる。人々はこのお金をどう活用したのか、金融ジャーナリストの鈴木雅光さんが解説する。

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 1人につき10万円、4人家族だと総額40万円がもらえる特別定額給付金。経済活動の低迷で収入が減少した家庭にとっては、まさに干天の慈雨だったことだろう。給付金の目的は、収入減少に直面した事業者や生活者を支援することにあるが、同時に消費を喚起することで経済活動の落ち込みを最小限に留めたいという狙いもある。ニッセイ基礎研究所が6月末に実施したアンケート調査によると、給付金の使い道は「生活費の補填」が53.7%、「国内旅行」が10.1%、「外食」が9%など、8割以上の人が何らかの消費を行うと回答し、その一方で「貯蓄」と答えた人は26.1%と3割にも満たなかった。では、実際に人々の消費は増えたのか、統計から見ていきたい。

 2020年5月の家計調査を見ると、興味深い数字が並ぶ。まずは収入から見ていこう。経済活動が停滞したのだから、当然収入減になるかと思いきや、5月の実収入は対前年同月比で9.8%のプラスになっている。実収入の内訳を見ると、勤め先収入は同2.7%増、世帯主収入も同0.9%増とそれほど大きく伸びていないが、「他の特別収入」が同803.2%増になった。察しの通り、5月に入って給付金の支給が始まったからだ。

 一方、消費支出全体は3月から急ブレーキがかかった。対前年同月比の数字は、3月が7.6%減、4月が9.9%減、5月が15.5%減と毎月減り続けている。内訳を見ると、食料のうち穀類の支出が増え、3月が同11.6%増、4月が同14.3%増、5月が同16.0%増となり、一方で外食は、3月が同25.9%減、4月が同59.6%減、5月が同52.7%減と、外食を控える一方で自炊が増えたことが顕著に現れた。リモートワークの拡大もあって、交通費も3月は同48.9%減、4月は68.9%減、5月は58.3%減と大幅に減少した。

 また、特に宿泊料の減少が際立った。移動の自粛が続いたため当然と言えば当然の結果だが、対前年同月比で3月が59.6%減、4月が96.1%減、5月が98%減だった。5月はゴールデンウイークがあったにも関わらず、ホテルや旅館に宿泊した人はほとんどいなかったことになる。その他、保険医療用品・器具はマスクなどの購入が増えたこともあり同46.3%増となっているが、被服及び履物、保険医療サービス、通信費など大半の支出項目が減少した。

 では、収入増・支出減によってお金はどこに行ったのかというと、やはり貯蓄にお金を回す人が多かったとみられる。5月の預貯金の引き出しは前年同月比13.6%減、反対に預貯金への預け入れは同10.9%増だった。これは、預貯金から現金を引き出して消費などに充てるという行動が抑えられた一方で、手持ちの現金を預貯金に預けたことを意味する。特に5月は、給付金が銀行口座に振り込まれ始めたタイミングとも重なり、これによって5月の貯蓄純増は同1034.2%増という大きな伸びを見せた。

 もちろん「これから使う予定」という人も多いだろうし、まだ6月の数字が出ていないこともあり、はっきりしたことは言えないが、現段階では特別定額給付金の多くは消費よりも貯蓄に回され、消費喚起にはつながっていないと思われる。国の大盤振る舞いの甲斐あって、事前のアンケート調査では消費への意欲が高まったように見られたが、コロナ感染拡大の収束が見えないことや、この先の生活への不安もあって、実際に給付金を手にしても、もしもの時のために貯金しておきたいと思うのが人々の本音かもしれない。

【プロフィール】すずき・まさみつ/金融ジャーナリスト。岡三証券、公社債新聞社の記者などを経て独立し、有限会社JOYntを設立。投資信託や資産運用を中心に雑誌やオンラインメディアに寄稿する他、出版プロデューサー兼ライターとして230冊以上の単行本の企画・制作を手掛ける。