10万とも20万ともいわれる日本の名字の秘密を、『名字でわかるあなたのルーツ』(森岡浩・著)を元に紐解いてみよう。名字には、地名や自然の地形などに由来するものが多い。「自然」のなかには当然、動植物も含まれるが、実は動物にまつわる名字はあまり多くない。

 というのも、動物は一定の場所にとどまっていないため、家と家を区別するためにつけられる名字としては、あまり適していないからである。だから、「犬飼さん」とか「鵜飼さん」といった職業に関するものが名字になりやすい。

 現代人にとって最もなじみのある動物といえば犬と猫だが、名字ではどちらもマイナーである。犬のつく最多は上記の「犬飼さん」だが、それでもランキングの1100位台で、続いて「犬塚さん」「犬伏さん」「犬童さん」「犬丸さん」「犬山さん」「犬井さん」が1万位以内に入るが、どれもポピュラーとはいえない。猫については、1万位以内にはひとつもなく、「猫田さん」がやっと2万位に入るだけ。これは、江戸時代になるまで日本で一般人が猫を飼う習慣がなかったことと関連がありそうだ。

 ではどういう動物が名字によく登場するかというと、やはり昔の生活に密接に結びついていた牛や馬などだ。牛は1000位以内にはひとつもないが、5000位以内には「牛島さん」「牛田さん」「牛山さん」「牛尾さん」「牛丸さん」「牛嶋さん」「牛込さん」「牛木さん」の8つがランクインしている。馬のほうはそれより少なく、「相馬さん」「有馬さん」「対馬さん」など、馬が名字の下につくものは地名由来が多いのも特徴。また、「駒井さん」「駒田さん」など、「駒」という字を使うケースもある。

 では、名字界で最も多く登場する動物は何だろうか。164位、767位、850位、884位、956位にランクインするメジャーな動物がアレである。

 答えは熊。上記の順位に「熊谷さん」「大熊さん」「熊沢さん」「熊田さん」「熊倉さん」が入っている。今とは違って、農村部では熊は身近な動物だったのだろう。もうひとつ理由として考えられるのは、「くま」という言葉には「奥まった場所」「切り立った崖地」という意味があり、もともと地形由来の名字に、あとから「熊」の字を当てたものもあるからだ。

 有名人では、タレントの熊田曜子、くまだまさし、なでしこJAPANの熊谷紗希、江戸時代の陽明学者・熊沢蕃山などがすぐに思いつく。

 それ以外の動物では、鹿、猿、猪が比較的多く使われる。鳥は行動範囲が広いからあまり使われないが、鷲、鷹、鴨、鷺など。魚はさらに少なく、5000位以内に「鮫島さん」「鯉沼さん」が入るくらいだ。

※『名字でわかるあなたのルーツ』(森岡浩・著)を元に再構成