新型コロナで壊滅的なダメージを受けた業界の1つがホテル。Go Toトラベルで少しずつ息を吹き返しつつあるが、客が戻ってくれば、比例して増えるのが忘れ物だ。都内の有名ホテルで20年以上働くMさん(40代男性)によれば、忘れ物をしていく客は本当に多いという。

「ウチの忘れ物TOP3はスマホ充電器、アクセサリー、洋服です。充電器はコンセントに挿しっぱなし、アクセサリーは洗面所の鏡の前かサイドテーブル、洋服はハンガーに掛けたままというのがほとんどです。スマホは忘れてもすぐ気がつくようで、それほど多くありません。別格で多いのは缶チューハイですが、これは寝酒用に買って飲み切れなかったものを置いていっただけでしょう」(Mさん、以下「」内同)

 コロナショックで売り上げが実に9割以上落ちたというMさんのホテル。「今となっては、死ぬほど忙しかった去年が懐かしい」そうだが、多数の客が泊まれば、不思議な忘れ物をしていく者もいる。

「部屋の冷蔵庫にギッシリ詰まったお土産用らしき食料品、遺影、骨壷、家電量販店の包み紙に包まれた大型家電、超がつく高級時計など、“何で忘れたの?”と呟いてしまうような忘れ物はしょっちゅうです。私自身、旅行用の荷物一式がすべて詰まったトランクを見つけたことがあります。クローゼットいっぱいに洋服が掛けられていたことがありましたが、これは長期旅行中の外国人が処分していった物だったようです」

 超高級時計は問い合わせがあり、きちんと取りに来たものの、遺影や大型家電は連絡が無かったとか。それでも忘れ物だと分かるだけマシで、困るのは“忘れ物かどうか分からない物”だという。

「ゴミ箱に入っていれば、どんなに高そうな物でもゴミだと判断しますし、飲みかけの缶やペットボトル、食べかけのお菓子、読んだ形跡がある新聞や雑誌などなら、常識的に考えて“不要になった物”として処理します。ただ、小さなアクセサリーをお菓子の空き箱に入れたり、新聞にくるんだりして、それを忘れる人がいるんですよね。だからとりあえず丸1日は、ゴミ箱の中の物も保管しています。

 難しいのは“捨てたのか忘れたのか分からない物”です。使用済みでヨレヨレの靴下や下着、ボロボロのスリッパ、クチャクチャになったメモなど、多分不要であろう物に関しても、飲食物は数日、その他の物はある程度の期間、保管しています。過去には、かなり年季が入った安物のブラシを取りに来られた方がいて、『捨てられてしまっても仕方ないと思った』と、感謝の言葉を頂いたこともあります」

チェックインの時に連絡先を書いているのに…

 忘れ物を取りに来た客から感謝の声を聞くのはホテルマンの喜びだが、中には「なぜ連絡をくれないのか?」「そのためにフロントで電話番号を書いているのに」と、苦情を言う者もいるという。これについてMさんはこう説明する。

「ウチのホテルでは、お客様が忘れ物をしても、基本的にこちらから連絡をすることはありません。お客様によっては、ホテルに泊まったことを家族などに知られたくない場合がありますから。最近は連絡先として携帯電話番号を書く方も多く、ホテルによってはそちらに掛ける所もあるようですが、ウチは携帯電話にも連絡しません。携帯電話に掛けても、本人が出るとは限りませんから」

 不親切なようにも思われるが、連絡しないのもサービスの一環だという。時には、こんなシチュエーションもあったとか。

「頻繁に利用している方でも、お連れの方が普段と違った場合には、あえて知らないふりをしたり、『毎度ありがとうございます』といった挨拶を控えることもあります。ホテルを頻繁に利用していることがバレると困る場合もあるでしょうから、時には臨機応変な対応も必要です」

 ホテルマンが“接客業の王様”と呼ばれるのも、これを聞けば納得できるかも。ただ、これらはいちいちマニュアル化できる類のものではないので、「全員に求められても困る」(Mさん)そうだ。