収束の兆しが見えない新型コロナウイルスは、葬儀の常識をも変えてしまうのかもしれない。

「これまでの葬儀といえば、70人や80人規模は普通。一般人でも大企業に勤めた人なら100人以上の参列者が集まることもよくありました。ところが、コロナ禍で30人程度の家族葬が主流になりつつあります。大掛かりな葬儀はなくなり、“シンプル、コンパクト、スピーディー”が求められるようになっています」(葬儀業界関係者)

 今後もこの流れが続いていくとみられている。実はいま、葬儀業界では小規模化が進むと同時に「価格破壊」も進んでいる。

「10月中旬、Amazonで棺がたったの2万円で買えると話題になりました。葬儀はたくさんお金がかかるものというイメージが強いので、注目が集まったのでしょう。同時に、葬儀業者を通さずに自分たちで準備すれば、格安で葬式ができるということも広まりました。手作りの葬儀なので出席できる人数は限られますが、いまは新型コロナの影響で従来のように大勢の人が集まる形式が敬遠されています。そうした背景も影響しているようです」(前出・葬儀業界関係者)

 実際にインターネットで検索してみると、手作りの葬儀に必要なアイテムを販売している複数の業者が確認できる。その中の1つ、棺や骨壺などを『DIY葬セット』として2万8380円(税込)で販売しているつばさ公益社の代表・篠原憲文さんは、意図をこう説明する。

「自分たちの手で行える“お葬式キット”を販売することで、中間マージンを排除して最安価格での葬儀を行えるようサポートしています。2018年から販売を始めましたが、販売数は徐々に増えていて、現在では毎月数名のかたが購入されています。セットではなく、棺や骨壺のみを単体で購入されるかたも増えていて、葬儀のカタチが多様化していることがうかがえます」

 葬儀にはいくつかの形式がある。家族や親族はもちろん、生前お世話になった多くの人が参列し、火葬前に通夜・告別式を行う「一般葬」、家族や限られた親族・友人らだけで通夜・告別式を営む「家族葬」、通夜や告別式を行わずに火葬場に直行する「直葬」などだ。

「一般葬」の場合、規模にもよるが費用は200万円程度。「家族葬」も親族の人数によって差があるが80万〜150万円、直葬は10万〜30万円が相場といわれている。自分たちで手作りの直葬を行えば、葬儀業者への支払いがない分、さらに費用を抑えることができる。

 今年8月に母(享年83)をがんで亡くした木村健司さん(仮名・50才)は、実際に自分で直葬を済ませている。

「5年前に80才で他界した父のときは、一般葬で送り出しました。棺や祭壇も葬儀業者に任せて、費用は220万円ほどかかりました。それを見ていた母は、日頃から“私が死んだときは、お金がかからない方法でやってほしい”と口にしていたんです。そこで母が闘病生活に入ったときにいろいろと調べ、自分でやれば10万円もかからないことがわかったんです。

 母に通夜も告別式もしないことを相談すると、母は“それで充分”と言って賛成してくれました。“そろそろかな”と覚悟したタイミングで、棺などをインターネットで購入しました。最終的にかかった費用は、火葬場の使用料なども入れて8万円ほどでした。それに自治体の補助金7万円を受け取ることができたので、実質は1万円ほどでした」

 木村さんの場合、一般葬の相場と比べ、約200万円も節約できたことになる。

 故人が国民健康保険や後期高齢者医療保険に加入していた場合、申請により「葬祭費」という補助金が支給される。自治体によって金額は異なるが、東京都23区の場合は一律7万円。しかし、「葬祭費」はあくまで「葬祭」に対する給付のため、葬祭を行わない火葬だけの直葬には、支給しない自治体もある。例えば杉並区のホームページには、《火葬のみで、葬儀を行っていない場合には支給されません》との注意が明記されている。事前の確認が必要だ。

シーツを使って遺体を搬送

 家族だけの手作り葬に、金銭面のほかにもメリットを感じた人もいる。10月に父を亡くした、近藤千春さん(仮名・63才)だ。

「父はボートレース場の近くに一戸建てを購入したほどの、ボートレース愛好家でした。入院中も“家に帰りたい”“レースの音が聞きたい”と口にしていたので、医師に“もう長くない”と告げられたときから、亡くなった後は自宅に安置してあげたいと考え始めました。コロナの影響で葬式をしっかりできる状況でもなかったので、通夜や告別式を行わない“直葬”でもいいのではないかと思ったんです。そのことを父に伝えると、父も“それがいい”“自分は読経も戒名もいらない”とのことでした。家族だけで葬儀の準備をすることに決めました」

 遠くに住む父のきょうだいたちも、「自分も年で葬儀には行けないから、全部任せる」と言ってくれたという。

 亡くなってからは、予定通り父の遺体を近藤さんの車で搬送して自宅に安置した。

「火葬までの間、父が大好きな自分の家で一緒に過ごすことができてよかったと思います。棺には父が大好きだったボートレースの予想紙や、孫やひ孫の写真、たくさんの花を一緒に入れました。“告別式もしないなんて、寂しすぎない?”という近所の人もいましたが、その一方で、“みんなで準備して、最後もゆっくり家族だけの時間がある。私もこういう送られ方がいいな”なんて言ってくれる人もいました。父も満足してくれたのではないかと思っています」(近藤さん)

※女性セブン2020年11月19日号