もし今、長年連れ添った夫に先立たれたら──。残された妻は、悲しむ暇もなく相続手続きなどに追われ、大変な苦労を強いられることだろう。スムーズな相続のためには、やはり元気なうちに「遺言書」を書いてもらうのがベスト。ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の井戸美枝さんは、まず「エンディングノート」をすすめる。

「財産のほかにも、家の管理をどうすべきか、庭の手入れはどこに頼んでいるかなど、夫しか知らないことをすべて書き出してもらいます。介護をどうしてほしいか、延命治療は必要か、亡くなったときに誰に伝えて誰に伝えてほしくないか……など、夫の心情も含めて、細かく書いてもらうようにしてください。

それに加えて、自分の家系や生い立ちも書いてもらうことをおすすめします。こうしておくと、相続時に生前の戸籍をさかのぼって取り寄せる際の手間をグッと減らすことができます」

 そのうえで、正式な「遺言書」の作成を促そう。

 遺言書には、公証役場で作る「公正証書遺言」と、自分で作る「自筆証書遺言」がある。いずれも、「誰に何をどれくらい相続させる」と書いた遺言書と、「これが全財産です」とリストアップした財産目録が必要だ。2019年の相続法改正で、財産目録はパソコンでの作成や書類の添付もできるようになったため、これまでよりも作成の手間はかなり減った。相続実務士の曽根恵子さんが話す。

「自筆証書遺言は無料で手軽そうに見えますが、1つでも間違いがあると無効になるので、不安要素が残ります。一方の公正証書遺言は、遺産額に応じて作成手数料が5000円(遺産額100万円以下)〜4万3000円(遺産額5000万円超1億円以下)など費用はかかりますが、公証人や証人の立ち合いのうえ作成するので間違いがなく、原本は公証役場で保管するため偽造の心配もなく安心です。また、死後に“本当に有効な遺言書です”と家庭裁判所が確認する『検認』が不要なので、結果的にメリットは多いといえます」

生きている間にお金を渡しておきたいなら

 いざ遺言書ができたら、相続税対策もぬかりなく行いたい。年間110万円までなら相続税が非課税で申告も不要なので、計画的に贈与することで節税になる。しかし、ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんによれば、実はほとんどの家庭がそもそも「相続税とは無縁」だという。

「相続税の基礎控除額は『3000万円+(600万円×法定相続人の数)』。たとえば、妻と子供2人が相続人の場合、遺産が4800万円までなら相続税は非課税です。実際、2019年に相続税が課税された人は全体の8.5%にすぎず、相続税がかからない人がほとんどなのです。わざわざ手間をかけて生前贈与する必要性は低いでしょう」(風呂内さん)

 それでも、生きている間にお金を渡しておきたい気持ちはどうしてもあるだろう。

「生きている間にどうしてもお金を渡しておきたいと夫が言うなら、妻はその範囲内で受け取ってもいいでしょう。でも、毎年きっちり110万円ずつ渡すと“計画贈与”ってしまって、税逃れとみなされかねません。子供のマイホーム資金なら『住宅取得等資金の贈与の非課税枠』(最大3000万円)、孫の教育資金なら『教育資金の一括贈与の非課税枠』(1人1500万円まで)などがあるので、用途に応じて賢く使い分ければいい」(井戸さん)

 最愛の夫に先立たれた後、自らが「幸せなひとり暮らし」を送るためにも、前もって「夫に何をやらせて、何をやらせないようにすべきか」をしっかり考えておきたい。

※女性セブン2020年11月26日号