コロナ対応の失策を追及され、言い訳や言い間違いばかりの菅義偉・首相だが、国会で10万円の特別定額給付金についての質問が出た時だけは、「再び支給することは考えていない」ときっぱり断言した。

 国民生活を守るうえで重要な支給を渋るこの国の政府は、ドサクサ紛れにさらなる“給付カット”を進めようとしている。ターゲットになるのは約4000万人の年金生活者である。

ルールは変えればいい

 コロナ不況と外出自粛が続くなか、年金が2021年4月分(6月支給)から減額される。減額幅は「0.1%」だ。厚生年金のモデル世帯(夫婦で年金の月額約22万円)では1か月あたり228円減らされ、国民年金の満額受給の人は月66円減額される。

“そのくらいで済んでよかった”と安心してはいけない。2022年からはもっと大幅に減らされる。

 そもそも今回の年金カットは、従来なら減らされるはずがなかったものだ。年金制度には「物価スライド」という仕組みがあり、原則として消費者物価が上がった時は年金が増え、物価が下がれば年金も減らされる。物価の変動があっても、年金生活者の生活水準を一定に維持できるようにする制度だった。

 それが2004年の年金改革で、物価が上がった時は年金の上昇分を低く抑える悪名高い「マクロ経済スライド」という制度が導入され、インフレの時は年金が実質的にカットされることになったが、それでも物価が横ばいなら年金を減らされることはなかった。

 ところが、昨年の消費者物価の変動率はプラスマイナスゼロなのに、年金が減らされる。「現役世代の賃金が下がったから」という理由だ。

 年金制度の変遷に詳しい「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が語る。

「2016年の年金改正で、制度の支え手である現役世代の負担能力に応じた年金給付にするという理由で、物価より実質賃金が下がった時は賃金のほうに合わせて年金を減らすように制度改正されました。現役世代の賃金が下がっているのだから、たとえ物価が下がっていなくても、高齢者は生活水準を下げろというわけです。あの手この手で年金額を減らそうとルール変更を重ねる姑息なやり口といえます。

 コロナで生活を圧迫されている非常時だから、負担増になる政策の延期が検討されてもいいくらいですが、政府はそのまま実施すると決めた」

 しかも、今回の年金引き下げはまだコロナによる賃下げの分ではない。

来年は「月4560円」減額の推計

 年金の計算に使われる実質賃金の変動率は3年分で計算され、今回の年金減額はコロナ前の2017〜2019年に、いわゆる消費税増税不況で給料が下がった分が反映されたものだ。

 実質賃金が大きく下がったのはその後、昨年(2020年)からのコロナ不況だ。

 感染拡大が進んだ昨年3月以降、最新のデータが公表された11月まで実質賃金は少なくとも9か月連続して低下が続いており、とくに緊急事態宣言下の昨年5月は前年比マイナス2.3%まで落ち込んだ。

 そうした賃金の大幅低下に伴う年金減額の実施は、来年以降になる。

「コロナの感染拡大で全国の企業で残業カットやボーナスカット、休業などが広がり、昨年から実質賃金が大きく下がっている。今年も1月から緊急事態宣言が出ているからこの傾向は続くでしょう。このままでは来年、再来年と続けて年金が大きく減らされることが懸念されます」(北村氏)

 どのくらい減らされるのか。前述の厚生年金モデル世帯の場合、今年の年金減額は夫婦2人で月228円だが、仮に、コロナ不況が反映された実質賃金変動率がマイナス1%となれば、来年6月の支給分から夫婦の年金額は1か月あたり約2200円、マイナス2%なら毎月約4500円が削られる計算だ(他の諸条件が今回と同じ場合)。

 減額率は今回の10倍にも、20倍にもなっていくのである。

※週刊ポスト2021年2月12日号