コロナ禍は国民の生活を直撃している。経済ジャーナリストの荻原博子氏は、今こそ「不安を和らげる政策」が最も重要だと指摘する。

「コロナ禍でリストラされているのは主婦のパートや高齢者の臨時雇用が多い。子供の教育費がかかるとパート勤めをしたり、年金では足りないからとアルバイトをしてなんとか生活を維持していた層が、職を失って家計危機に直面している。

 そういう人たちは一度失業すると再就職が難しい。だから一層不安が募る。不安を和らげるには、国民への直接給付しかありません」

 菅義偉・首相はコロナ対策で約19兆円の第3次補正予算を組んだが、国会で昨年の緊急事態宣言の際に実施した国民への10万円給付を行なうかを問われると、「考えていない」と否定、重ねて生活困窮者に限定した給付を質問されても「考えていない」と完全否定した。

 麻生太郎財務相も、「(給付金で)当然、貯金は減ると思ったらとんでもない。その分だけ貯金は増えた」「お金に困っている方の数は少ない」などと述べて否定を重ねている。

 コロナ対策が後手に回って感染を拡大させ、2回目の緊急事態宣言で国民に外出自粛、営業規制、リストラの苦境を強いながら、代償は払わない。

「ドイツのメルケル首相は緊縮財政論者で知られ、“ケチ女”と批判されてきた。ところが、コロナ感染が広がると、国民に『政府に頼ってください』と呼びかけ、大借金をして史上最大の大盤振る舞いを始めた。これに国民は感動した。でも日本はまるで正反対です」(荻原氏)

国民には配らず株を買う

 国民生活が危機に瀕しているのに、国民への給付を嫌がって出し渋る。だから国民に信用されない。その一方で政府が熱心に取り組むのは、感染防止でも、国民生活の安定でもなく、「株高」の演出だ。

 コロナ不況下でも日経平均株価はバブル後最高値を更新し続けている。経済アナリストの森永卓郎氏は、「危険な状態」だと指摘する。

「本来あるべき株価よりはるかに高い水準で、完全なるバブルになっています」

 その株高を買い支えるのが日銀と国民の年金資金を預かるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という政府マネーなのだ。

 日銀はコロナ経済危機を乗り切る金融緩和としてETF(上場投資信託)を大量に買い入れ、現在、東証1部上場企業の株式の約7%(推定45兆円)を保有する大株主となっており、GPIFも国内株を約41.5兆円(2020年9月末)保有している。

 日銀の保有株の含み益はいまや10兆円ともいわれ、GPIFも株価急騰で年金積立金の運用益は大きく膨らんでいる。にもかかわらず、本来国民に配るべき年金はカットする。一体、誰のための株の買い支えなのか。

カネ持ちだけは優遇

 マクロ経済学が専門の井上智洋・駒澤大学准教授が指摘する。

「現在の市場は株価が下がったら日銀が買い支える。投資家は投資に見合うだけのリスクを背負わずに済み、日銀やGPIFの政府マネーは株を持つ富裕層だけが潤う補助金のようになっている。

 そんなふうにして日銀から株主や企業にバラ撒くくらいなら、10万円の給付金のように国民全員に配ったほうが明らかにいい。国民全体に配れば世の中に出回るマネーストックが増えるし、富裕層より低所得層のほうが消費に回す割合が大きく、景気も良くなる」

 森永氏も同じ意見だ。

「日銀は本当なら金融緩和のために国債を買い入れたいが、これまでに買いすぎて市場に残っていないから、仕方なく株(ETF)を買っている。一番いい方法は政府が国債を発行して国民に2回目の給付金を配り、日銀が市場を通じて国債を買う。10万円を2回でも3回でも国民に配ったほうがはるかに有益です」

 家計の専門家である荻原氏は「国民の不安を和らげる」視点から、森永氏と井上氏はマクロ経済から見た政策として、いずれも「国民への手厚い給付」がコロナ禍で必要だと声を上げる。

※週刊ポスト2021年2月12日号