「70歳就業法」が今年4月から施行され、働き方が多様になる“定年消滅時代”がやってくる。雇われのサラリーマン生活から、定年後に「独立・起業」をするという人も多いだろう。そこで、「勝ち組」「負け組」を分けるボーダーラインはどこなのか。

 60歳の定年を機に退職金を注ぎ込み、雑貨店を始めたA氏が肩を落として言う。

「妻の反対を押し切って始めてはみたものの、経営のイロハも分からず店は閑古鳥でした。現役時代の人脈も特に使えず、閉店に追い込まれました。残ったのは借金と在庫の山だけです」

 人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「A氏のように夢を追って失敗する中高年は少なくない」と語る。

「定年後に店舗や商品などの設備投資が必要な起業をすると、失敗した時に借金ばかり残るリスクがあります。独立や起業をする際は、自宅で電話一本あれば始められたり、提携先の企業に身ひとつで行けばいい仕事など、失敗してもリカバリーしやすい環境でスタートすることが大切です」

 独立や起業に踏み切る前に、「まずは『副業』を始めることをお勧めしたい」と指摘するのは、中高年向けの人材サービスを展開する「シニアジョブ」の代表・中島康恵氏だ。

「勤務先の会社で制約がなければ、現役のうちに副業を始めてみることです。老後に必要とされる最低生活費は月額平均22.1万円(令和元年「生活保障に関する調査」生命保険文化センター)なので、“月に20万円を副業で稼ぐ”ことを目標にしたい」

 副業しながら起業の時期を探るのがよいという。

「年齢にかかわらず、副業で月額20万円をコンスタントに稼げる目途がついた時が起業のタイミングです。それであれば大きな失敗にはなりにくい」(中島氏)

「70歳就業法」で企業側に示された選択肢のひとつに「個人事業主などとして、業務委託契約を結ぶ」という形態がある。

「まだ企業側に課せられる詳しい規定は分かりませんが、退職した元社員がフリーランスや個人事業主として企業から一定の仕事を任されるケースも増えるでしょう。その場合、“定期的に仕事をもらえる”ということも、勝ち組個人事業主の条件です。業務委託契約を結ぶ際に会社との話し合いが必要なので、有利な条件を引き出せる『交渉力』が必要となります」(中島氏)

 大手の企業が副業を可能にしたり社員をフリーランス契約にするなど、新型コロナの影響もあり企業と社員の雇用関係が変わりつつある。

「今後は副業や起業が当たり前の時代になるはずです。若いうちから副業を試してみるのもいいでしょう」(中島氏)

 最低限の計画すら立てずに無謀な夢を追うことは避けたい。

※週刊ポスト2021年2月12日号