ビール業界でいま最も注目されているジャンルが「糖質ゼロビール」だ。きっかけは2020年10月発売のキリン「一番搾り 糖質0」だった。

 発泡酒や新ジャンル(第3のビール)で「糖質ゼロ」を謳う商品は数多くある。しかし、麦芽構成比67%以上が定義の「ビール」ジャンルで糖質ゼロを実現したのはキリンが初めてだ。経済ジャーナリストの河野圭祐氏が言う。

「ビールは麦芽を多く使用することで麦の旨味を引き出しますが、同時に糖質量も上がってしまう。そのため発泡酒や新ジャンルに比べ、糖質ゼロを実現するのは難しかった。しかしキリンは開発に5年の歳月をかけ、糖質を減らすのに適した麦芽の使用や発酵技術の開発で販売にこぎ着けた」

 コロナ禍の巣ごもり需要と健康志向の高まりを追い風に「一番搾り 糖質0」は大ヒット。

「3月上旬までに当社の過去10年のビール新商品で最速となる累計1億本(350ml換算)を突破しています」(キリンホールディングス・コーポレートコミュニケーション部)という。

 2020年、キリンはビール類(ビール、発泡酒、新ジャンル)で11年ぶりにアサヒを抜き、首位に立った。「一番搾り 糖質0」は、その原動力のひとつだ。

 キリンの独走に待ったをかけようとしているのがサントリーだ。4月13日に、同じく糖質ゼロの「パーフェクトサントリービール」を発売する。サントリーも開発に約5年を要したという。

「ただ単純に糖質ゼロビールを作るのではなく、“ビールど真ん中のおいしさ”を追求し続けました。当社の『ザ・プレミアム・モルツ』にも採用している上質で深いコクが特長の『ダイヤモンド麦芽』を一部使用し、麦芽のうまみを最大限に引き出しています」(サントリービール・マーケティング本部)

 両社が「糖質ゼロビール」に意気込むのは、今後のビール界を牽引する大きなトレンドになると見ているからだ。

『サントリー対キリン』『ビール15年戦争』などの著書があるジャーナリストの永井隆氏が言う。

「コロナ禍で外食が減り、ビール市場の3割を占める業務用ビールが縮小するなか、各社とも家庭用ビールに力を入れ始めている。家庭で飲まれるビールのトレンドは“健康志向”で、糖質やプリン体などを抑えた商品が今後の主流になってくるでしょう。

 さらに酒税法改正で2026年までにビール、発泡酒、新ジャンルの税額が同じになる。相対的にビールが安くなり、今後の主戦場になる可能性が高い。それを見越して、家庭用ビールに強いキリン、サントリーが糖質ゼロビールの開発を急いだという構図です」

※週刊ポスト2021年4月16・23日号