4月から「70歳就業法(改正高年齢者雇用安定法)」が施行され、いよいよサラリーマンの人生から「定年」という概念が消滅する時代がやってくる。60代前半で仕事をリタイアして、悠々自適の生活を送る──そんな老後のステレオタイプは大きく変化しようとしている。新時代の会社員生活はどのようなものになるのか。

〈意欲のある人求めます。ただし年齢制限あり。60歳以上の方〉

 岐阜県中津川市で板金加工などを業務とする加藤製作所が、2002年に人材募集広告として掲げたキャッチコピーだ。100人以上が面接に訪れ、それ以来、高齢者の雇用に力を入れてきた。

 加藤製作所の広報担当者が語る。

「この地域では急速に高齢化が進み、若者はどんどん都市部に流出しています。そうしたなか、我々中小企業には、元気で人生経験豊富なシニアが、貴重な人材となります」

 同社の定年は60歳だが、一旦退職した後に半年ごとの契約で本人の希望を考慮しながら継続雇用をしている。現在、70歳以上のスタッフは28人。その一人、松山政幸さん(72)が語る。

「30代後半から先代の社長にお世話になり、60歳で一旦定年退職しましたが、もう少し残って恩返しをしたいと思ってね。同時に、若い人たちに“技術を伝えたい”という気持ちもありました」

 松山さんは、板金加工の機械を制御する業務を30年以上、担ってきた。長年の経験が必要なため、唯一無二の存在と認められているという。

「自社製の機械を造れるから、重宝してもらえるのでしょう。長く働くには、特殊な技術を持っているといいでしょうね」

 もともと加藤製作所では、土日の労働力確保のために60歳以上の人材確保を進めたが、徐々に平日にフルタイムで働きたいという希望者が増えてきた。前出の広報担当者が言う。

「歳を重ねても働きやすいように、工場内のバリアフリー化や冷暖房設備の充実といった設備投資をしました。今では114人の社員中、60歳以上が半数を占めます」

 72歳になる松山さんの場合、出社は月の半分に調整し、「在職老齢年金」を満額受け取りながら働いている。

「60〜64歳は、『高年齢雇用継続給付金』をもらいながら働いていました。働く時間は現役時代より減ったけど、働けるうちはずっと働きたい」(松山さん)

 後輩や若手の社員からは、「師匠」と呼ばれて慕われている。

「昔の部下が出世して自分の上司になるのは、嬉しいね。部下に追い抜かれるのを嫌がる人もいるけど、そんなんじゃダメ。喜ばないと。今、私は役職がないけど、技術者としては私のほうが先輩だから、みんなが『師匠』と呼んでくれる。そんな職場の温かさや居心地の良さも好きでね。長く働くには、そういう人間関係が大切だろうね」

※週刊ポスト2021年4月16・23日号