日本人の死因第1位が「がん」だ。入院や手術など、多額の費用がかかる印象があるが、保険適用の治療であれば、自己負担が一定額を上回った時に還付が受けられる「高額療養費制度」などの公的補助がある。そのため、負担はある程度、抑えられる。

 一方、そうした補助の対象外となるのが、保険適用外の「自由診療」だ。“これで命が助かるなら……”と、高額な費用を全額自己負担で支払う人もいるが、期待した結果が得られるとは限らない。

 5年前に、父親が悪性リンパ腫(血液のがん)を患っていることがわかった都内在住の60代男性はこう振り返る。

「転移もあって、末期でした。抗がん剤治療はつらそうだったので、“自分の免疫細胞を活性化させ、がんを攻撃させる”と謳うクリニックで、100万円以上の費用を払って治療を受けた。しかし、がんが小さくなることはなく、父は亡くなりました。いま考えれば、最後の日々をもっと穏やかに過ごす選択もあったと悔やんでいます」

 国立がん研究センターが運営するサイト「がん情報サービス」(2021年1月25日更新)は〈一部の民間のクリニックや病院において、「自由診療として行われる免疫療法」(中略)は、効果が証明されておらず、医療として確立されたものではありません〉と注意喚起する。

“免疫療法”というと、2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑・京都大学特別教授の研究から開発された「オプジーボ」が思い浮かぶかもしれないが、こちらはメラノーマ(皮膚がん)など複数のがんで効果が証明されており、それらについては保険が適用される全くの別物だ。

 ただしオプジーボについても、自由診療で保険適用外の治療に使用される例がある。開発元である小野薬品工業も、「臨床試験等によって安全性および有効性が確認できていない段階での使用であり、規制当局の承認が得られておらずその危険性は未知です」(広報部)と警告している。

 効果があるのかわからない治療に大金を注ぎ込めば、患者や家族にとって悲劇となりかねない。自由診療の選択には慎重さが必要だろう。

 未承認の抗がん剤なども、100万円単位の自己負担が必要になることがある。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏はこう指摘する。

「海外の臨床試験で効果が証明されているのに日本では未承認という薬であれば、科学的根拠のない治療法と違って、効果が期待できるものだと言えます。ただ、そうした薬を使うには高額な負担が必要だし、新しい薬だからといって全ての人に必ず効くわけではない。どんな選択をするかは個々人の判断ですが、信頼できる主治医と相談しながら、どこまでお金を払うのかを考えていくことが必要でしょう」

 大金を積んだからと言って、望んだ結果になるとは限らないのだ。

※週刊ポスト2021年6月11日号