「先に亡くなった父から『お前が家を守り、お母さんの面倒を最後まで見てくれ』と頼まれていました。その言葉通りにしただけなのに……」

 そう語るのは、昨年母を亡くした都内在住の65歳女性。遠方に嫁いだ2人の妹がいるが、長女で独身の彼女は亡父の遺言に従って実家に住み続け、母が認知症を患ってからも在宅での介護を一手に引き受けてきた。

「母に介護が必要になった時、妹たちは施設に入所させるよう提案してきました。でも私は住み慣れた自宅で最後まで過ごしてほしかった。そのために自分の時間も体力も犠牲にしてきましたが、悔いはありません。それなのに母の死後、遺産のことで妹たちと争う羽目になったんです」(同前)

 女性は母の介護に苦労した分、何もしなかった妹たちより多く遺産をもらうのが当然と考えていた。母の遺産は老朽化した実家を除くと預貯金100万円足らず。ところが2人の妹は、「実家暮らしで家賃もなく、生活費も出してもらっていたのだから」と、法定相続分である3分の1を渡すよう要求してきたという。

 さらに、「こちらが言う通り施設に入れていれば、すんなり法律通りに分けられた」と妹たちから恨み言まで言われ、女性は家庭裁判所での調停を決意。ところが調停の結果、「介護の実態を証明することができない」と、母のわずかな遺産を姉妹で3等分することになった。

「母の介護を一人で頑張った事実まで裁判所に否定されたようで、本当に悲しい」と女性は嘆く。

かなり低く見積もられてしまう

 税理士の山本宏氏はこう指摘する。

「介護を担った相続人の“寄与分”は遺産分割協議で金額を決めるのが原則ですが、どれだけ面倒を見たかの証明が難しく、相続人同士でトラブルの火種になりやすい。実際には寄与分が認められないことがほとんどです」

 そうしたトラブルを避けるには、生前の遺言書作成が必要となる。

「遺言書には、『介護をした××には遺産の6割を、2人の妹にはそれぞれ2割ずつを相続させる』というように具体的に記しておく。これには妹たちも従わざるを得ません。付言事項として、『介護の大変さに報いるため長女の相続財産を多くすることを理解してください』と記せばなおよいでしょう」(同前)

 遺言書がない場合は、介護日誌や金銭出納帳を作り、費やした時間や労力、出費などを細かく記録しておかなくてはならない。山本氏が続ける。

「裁判所で“寄与分”が認められたケースでは、〈介護職員を雇った費用×介護を行なった日数×裁判所が判断する割合(裁量割合)〉という計算式で寄与分の金額が算出されます。細かく記録しておけば、その分だけ多くお金に換算できますが、かなり低く見積もられてしまうのが現実です」

 民法改正で2019年7月以降は法定相続人以外にも「特別の寄与」が認められるようになり、義父母の介護をした〝長男の嫁〟などが財産分与を請求できるようになったが、認められるためのハードルはやはり高い。この場合も、遺産を渡すには「介護をした長男の嫁に〇〇円を与える」などと遺言書に明記するのが最善策だという。

 そうした手を打たないと、自分のことをいちばん支えてくれた家族が泣くことになる。

※週刊ポスト2021年6月18・25日号