気温は20℃を超え、明るい日差しが降り注ぐ初夏の東京で、78才の男性が亡くなった。マンションにひとり暮らしの彼は、自ら命を絶った。夜に届いた配食サービスの保冷パックが、玄関のドアノブに翌朝になってもかかったままだったことに気がついた隣人が管理人に連絡。その後警察が室内に立ち入り、発覚した。

 よく近所の公園で、子供が遊んでいるのを楽しそうに眺めていた穏やかでやさしいおじいちゃん。それが近隣住民からの評判だった。しかし新型コロナ発生以降は外出する回数が激減し、たまに管理人が訪れると、「声を出さない日が続くから、自分の声が出るか心配だよ」と苦笑しながら話していた。最後に顔を合わせたときには「寂しいよ」と繰り返しつぶやいていた。

 戦後の貧しさに高度経済成長期の喧噪、平成不況――78才までさまざまな困難を乗り越え、生き抜いてきたにもかかわらず、男性は健康な体と幾ばくかの余命を持ったまま、誰にも頼ることなく自ら命を絶った。年を重ねた先の「孤独」はそれほど耐えがたく、苦しい“病”なのだろうか。

《日本の高齢者の3割は友達がいない》

 衝撃の結果を明らかにしたのは、2021年5月に共同通信などが報じた日本、米国、ドイツ、スウェーデンの高齢者を対象にした内閣府の国際比較調査の結果だ。「家族以外で相談や世話をしたり、されたりする親しい友人がいるか」という質問に対し、日本の高齢者は31.3%が「同性、異性のいずれもいない」を選択。4か国中で最大の割合だった。コミュニケーションの問題や格差社会に詳しい評論家で著述家の真鍋厚さんが指摘する。

「コロナ禍をきっかけに“孤独”にまつわる問題は世界的に注目され始めました。日本でも2021年2月には、英国に次いで孤独・孤立担当大臣が任命されました。もちろんひとりでも自主的にコミュニケーション能力を発揮して楽しく幸せに生きる人はいますが、その一方で周囲と良好な関係を結ぶことができず社会的に孤立し、最悪の場合は孤独死を迎える人がいる。これは『孤独格差社会』というべき状況です」

 内閣府の調査が指し示すように、特に高齢者の孤独が浮き彫りになっている。2020年11月には東京・渋谷区のバス停で休んでいたホームレスの64才女性が、近所に住む男性に暴行されて亡くなった。コロナ禍で仕事が不安定になり、路上生活を始めた女性の姿は多くの近隣に目撃されていたが、救いの手を差し伸べる人はいなかった。

 たとえ事件に巻き込まれなくても、孤独は着実に高齢者の体をむしばんでいく。

「最新の研究でわかったのは、孤独は『孤毒』と言い換えられるほどの害があるということです」

 そう指摘するのは、精神科医の樺沢紫苑さんだ。

「米ブリガムヤング大学の研究では孤独は喫煙、飲酒、運動不足などよりも死亡リスクが高いとされています。具体的には、孤独は1日15本分の喫煙に匹敵し、過度の飲酒の2倍、運動不足や肥満の3倍健康に悪い。そのうえさらに認知症リスクを2〜5倍に増やすといわれます」

 樺沢さんはその理由について「ホルモンが関係する」と分析する。

「人と触れ合うとオキシトシンというホルモンが分泌されます。通称“幸せホルモン”と呼ばれるオキシトシンは免疫力を高めて細胞の新陳代謝を促す『若返り物質』であり、健康を促進する効果があります。一方で孤独な人はオキシトシンが分泌されないため、老化が進むと考えられます」

 在宅医療や看取りに詳しい立川在宅ケアクリニック院長の荘司輝昭さんも声を揃える。

「孤独を感じた人は『自分は誰からも必要とされていない』という思考にのみ込まれ、ストレスがたまった結果、免疫力低下や睡眠障害のリスクが高まります。それと同時に、生きる意味を見いだせなくなれば、食事が粗末になって充分な栄養補給ができず、家に閉じこもりがちになれば体力が低下して骨折の危険が増す。人と接する機会が減って脳への刺激も減少し、認知症リスクも高まります」

 まさに毒のごとく、孤独は全身を駆けめぐる。

※女性セブン2021年6月24日号