もしものときのために、事前にいろいろと決めておきたいのが、相続に関することだ。その話し合いで必要になるのが、親の「財産の一覧(財産目録)」である。遺産分割を考えるうえでの前提の共有になるし、子供の側からすれば、親の入院や介護が必要になった際に、費用を出すための口座情報などは知っておきたい。

 ただ、すべての口座の残高に至るまで明らかにした結果、諍いを招くこともある。妻を亡くし、3人の子供と相続の話し合いをしたという70代男性はこう話す。

「子供に残せる資産は自宅の土地建物くらい。年金暮らしで少しずつ貯金を取り崩していくと、自分が死ぬ頃に現預金はほとんど残せそうにない。2年前に妻が亡くなった時、財産を一覧に整理して息子2人と娘にそういう状況を説明しました。

 自宅は長男に継いでもらうので、次男と長女には申し訳程度にしか残せないと思うという話をしたところ、それからというもの次男と長女は何かと言い訳をつけては病院の付き添いなどを断わるようになった。これから介護が必要になったりしたら、“遺産がないなら協力しない”ということになるのではと心配です」

 子供がどの状況を「公平」と捉えるかは、親にとっても分からない部分だし、それらにひとつひとつ対応するとなれば、多大な労力がかかる。

 ファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏は「親が残高を明らかにしたくないなら、子の申し出に従う必要はありません」と断言する。

「結局、残高を書いても変動する可能性がありますし、思ったより多ければアテにされ、少なければガッカリされるリスクがある。親にお金があると知った子供が“孫の教育資金のために援助してほしい”と言い出すのもよくある話。そうやって贈与して、後から大病が分かってお金が必要になっても〝返してほしい〟とはなかなか言えません。

 子供の側が、親の認知機能が低下した時のために財産の所在を知りたいということであれば、金融機関名・支店名だけ伝えれば十分です。親としては“残高を明らかにしてほしい”と言われたら“なんのため?”と確認して、必要最小限の情報を伝えるのでいいでしょう」

 親子と言えど、お金を巡っては他人の面もある。

※週刊ポスト2021年7月9日号