かつては、子供世代が老後の親世代の面倒をみるということも当たり前だったが、昨今では必ずしもそうではない。子供に迷惑をかけたくないという親世代もいれば、経済的な事情で親のサポートが難しいという子供世代もいるだろう。また、親世代も子供たちに財産を残すのではなく、あくまでも「ふたりで」あるいは「ひとりで」最期を迎えたいという人も多い。そういう意味では、夫婦のどちらかが亡くなった時に、残された「ひとり」にきちんと財産が渡るようにしておくことも重要だ。

「基本的には、『遺言書』を作ってカバーしていきます」と話すのは、夢相続代表取締役で相続実務士の曽根惠子氏だ。

「早いうちから遺言書に『配偶者に全財産を』とお互いに書き合う夫婦は少なくありません。子供がいる場合、遺留分を請求される可能性はありますが、『これまでたくさんのお金をかけて育ててきたのだから、頼りにしないでほしい』と伝えておけば、理解してくれることが多い」

 そのうえで、夫婦間で相続する財産に漏れが生じないように備える。曽根氏は「まずは財産情報を共有することが大切です」と強調する。

 年金や預金口座、保有する有価証券や保険などの情報を洗い出し、リスト化するのが望ましいという。

「現役時代は夫婦それぞれがどれほどの資産を持っているか、意外と共有できていません。まずはお互いの財産情報をまとめて、エンディングノートなどで一覧表に書き出していきます」

 次の段階として曽根氏は「資産を整理していくのが大事」だとする。

「まず預金口座の数を絞ります。年金用と光熱費などの引き落とし用の2つくらいで十分。定期預金は認知症になると本人が解約することが難しくなるので、先に解約しておきましょう。株や投信、保険などの金融商品も見直しの対象です。有価証券は保有したままだと何にも使えないので、できれば解約して現金にして活用していきたい」

 近年利用者が増加しているネット銀行や仮想通貨などのデジタル遺産にも注意が必要だ。

「デジタル遺産の管理や解約に必須のIDやパスワードは、必ずエンディングノートなどに記録しておく。それを怠ると、亡くなった後に見つけられず、そのままとなり妻のものにならないリスクがあります」(曽根氏)

 このように夫婦間での相続をスムーズにする備えだけでも、それなりに手間はかかる。ここに「子供にどれだけ残すか」「長男と次男への分配はどうすれば公平になるか」といった要素が加われば、どんどん煩雑になっていく。曽根氏が言う。

「最近は親と同居する子供世帯も減り、“子供に残さないといけない”という考えも薄れてきました。それならいっそのこと夫婦で築いた財産をふたりのために使おうと考えて、趣味に使う、日々の生活にかける、高齢者施設の費用にするなど快適な人生のための消費としてもいいはずです」

 健康寿命が延び、人生の最終盤を自己実現の期間にする考えもある。

※週刊ポスト2021年7月30日・8月6日号