家族間の争いごとに発展しやすい「相続」。当事者は兄弟姉妹同士が圧倒的に多く、「親の介護」が火種になり得る。

 長年実家に同居し亡母を介護した3姉妹の長女が「遠方にいて母の介護をしなかった次女、三女より遺産を多くもらう権利(寄与分)がある」と主張したケースでは、妹2人が「法定相続分である3分の1」を求めて譲らず家裁での調停となった。

 結果的に、母の介護をした長女が妹2人より多く相続できたのだが……。

「その金額は長女が望むよりはるかに少額でした。裁判所で寄与分が認められるハードルは高く、認められたとしても介護サービスを利用したらかかるはずの費用が加算される程度。期待にそぐわないことがほとんどです」(税理士で円満相続税理士法人代表の橘慶太氏、以下同)

 ひとり介護を担った長女が報われるかのポイントは、遺言書の記述になる。

「母親が遺言書で『介護を献身的にしてくれた長女に6割、次女と三女に2割ずつ相続させる』としておけば、長女の気持ちも酌まれ、妹2人は従わざるを得なくなる。2割の相続なら、妹たちの遺留分(法定相続人に認められる最低限の権利。この場合は6分の1)も侵害せず問題ありません」

その贈与は不公平だ!

 兄弟姉妹間では、“生前の親からの援助”も問題になることがある。

「2人姉妹のケースでは、長女が結婚し家を購入する際に父が多額の資金を援助していたことを、独身の次女は知らされていませんでした。

 父の死後、初めてそれを知った次女が『なんで姉さんだけ?』と遺産分割でもめてしまい、それまで仲の良かった姉妹が険悪に。家庭ごとの事情で兄弟姉妹の誰かに手厚く贈与することはあり得ますが、その場合でも贈与の事実を隠さないことがトラブル防止の第一歩になります」

 相続には「特別受益の持ち戻し」という仕組みがある。特定の相続人が、結婚資金や住宅の購入資金などの贈与を受けていた場合、そうした贈与を相続財産に含めて分配するという考え方だ。つまり、“多く贈与を受けていたら、相続できる財産が少なくなる”のである。

「もめごとを未然に防ぐには、遺言書で“特別受益の持ち戻し免除”の意思表示をしておくことも有効です。遺言書で生前の贈与について『持ち戻しは必要ない』と記載しておけば、贈与分が相続財産にカウントされることはない。子供のうちの誰かに多く渡したい時に、争い事を避けられます」

 父親が亡くなり、法定相続人の息子2人で遺産分割協議を始めた時、離れて暮らす弟が「父の預金があまりに少ない。同居の兄が勝手に使ったのでは」と言い出したケースもある。

「親と同居して通帳の管理を任された長男が、親の預金を引き出して使うケースはあります。それが親のために使ったお金だとしても、現金の使い道は不明瞭になりがち。簡単でいいので帳簿を作り、現金を引き出した日付、金額、使途をメモし、レシートも添付しておけば、“横領”がないことの立証には十分役立ちます」

 良好だった家族関係が一変するのが相続の怖いところ。誰にとっても他人事ではない。

※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号