小学生のうちに家庭で体験させておくべきことのヒントは、どこにあるのだろうか。例えば最近では、コロナ禍で、衛生上の観点からキャッシュレス決済が一気に広まりつつあるなか、「おつり」の概念がわからない子供たちが現れているという。都内で幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を運営する富永雄輔さんは、「おつりの概念は小学校3・4年生までには身に着けさせておきたい。家庭内での体験を大切にしてほしい」と警鐘を鳴らしている。

 小学校の算数でも、「Aくんは325円の品物を買うために、1000円を支払いました。おつりはいくらでしょう?」といった買い物を題材とした文章問題は頻出だ。しかし、キャッシュレス社会では、「おつりをもらう」ということを経験する機会が少ない。そのため、「おつり」という概念を体験的に理解できない子供もいて、問題につまずきやすい傾向にあるという。富永さんが語る。

「最近の私立中学の入試問題や公立中高一貫校の適性検査では、あらゆる教科で生活のなかから出題されるケースが増えています。おつりやクレジットカードといった買い物にまつわる出題も頻出。もし中学受験を意識するのであれば、高学年になれば各教科の個別学習が忙しくなるため、小学3・4年生の間に買い物や料理といった生活体験をどれだけ積ませるかが重要です」

 買い物にまつわる設問では、クレジットカードと電子マネーの違いを問うものもあるという。そこで大事なのが、買い物には現金をふくめ、さまざまな決済方法とその仕組みがあるということを理解させること。家庭では早い段階から現金でのおつかいを頼んだり、レシートを見せておつりのイメージを持たせたりすることも大切だろう。

中学入試で「生活」ネタが増加する背景

 中学入試で出題される問題の傾向を見ると、小学生のうちに体験しておくべきことは何かが把握しやすい。例えば、「生活のなかから出題」される問題の頻出テーマも多岐にわたる。買い物以外では、料理にまつわる問題も増えているという。富永さんが続ける。

「麻布中学校の理科の入試問題では、パウンドケーキ作りに関する出題がなされました。きめ細かいパウンドケーキを作るために必要な要素を答えさせる問題で、日常生活のワンシーンで科学的な知識を活用する内容でした。こうしたキッチンからの出題は他校でも増えています。他にも、コーヒーの淹れ方(理科)を問う問題なども出されています」

 親から子供に「この料理どう作ると思う?」など声をかけ、親子でキッチンに立つなどの体験が増えてくれば、子供の頃から物事の過程を考える癖がつくようになるだろう。さらに、子供から質問が出たら受け止めて、一緒に調べてみることも大切だ。

 富永さんは、中学入試の傾向として「生活に密着した教科横断的な設問が増えてきている」と指摘する。これは、机の上で学ぶ力だけでなく、日常生活のあらゆることから思考し、課題意識を持って生きる力を育成したいという学校の思いが背景にあるのではないか、と分析する。

 小学生の中には自分が理解しきれていない言葉に出合うと思考が止まってしまうケースも多い。中学受験する・しないにかかわらず、机に向かう学習だけでなく、さまざまな生活体験からの学びを促していくことが重要といえるだろう。

(取材・文 佐藤智)