かつて世界にヒット商品を送り出し注目を集めた日本企業も、近年は違った側面で注目される。主力事業だったVAIOを手放しながらも最高益を達成したソニー、携帯や家電から次々撤退するも純利益倍増を成し遂げたNECなど、巧みな戦略で生き抜いているのだ。

 企業の顔となっていたブランドを売ったのが武田薬品だ。創業時から販売し、50年以上の歴史がある看板商品といえばアリナミンAだが、今では同社の製品ではない。2020年8月に武田薬品は子会社の武田コンシューマーヘルスケアを米投資ファンド、ブラックストーンに売却すると発表。現在、社名が「アリナミン製薬」に変わり、アリナミンAの他、ベンザエースAやタケダ漢方胃腸薬Aなども同社が販売している。

 医薬品業界紙の『薬事日報』編集局副局長の柴田高博氏は、武田薬品の戦略についてこう語る。

「大衆薬を捨て、今後は一般消費者が直接購入しない医科向けの製剤メーカーになるということ。この戦略は、遡れば1995年から武田國男社長の下で始まっていて、動物薬や化成品、食品、農薬など非医薬品事業を売却し、医薬品特化の路線に舵を切りました。

 2008年からは積極的な買収攻勢を始め、2019年1月にアイルランドの製薬大手シャイアーを6.2兆円で買収して、世界のメガファーマ(巨大製薬企業)の仲間入りを果たした。それにより5兆円超にまで有利子負債が拡大したため、大衆薬の売却は負債を埋めるためとの指摘もあります。しかし、シャイアー買収は武田薬品の生き残りのために必要だったと評価しています」

 世界の製薬業界で始まっている再編を生き残れば、逆に世界市場制圧も決して夢ではない。

 武田薬品と同じように、大衆向けの主力製品に見切りをつけたのが資生堂だ。同社は今年2月、女性用シャンプーのTSUBAKIやシーブリーズなど日用品の事業を欧州系投資ファンドに売却することを発表し、7月1日から新会社が販売を継承した。

 日用品事業の売上高は1055億円で、資生堂全体の売上高の1割近くを占めるが、それを捨ててしまったのである。化粧品・日用品の専門誌『国際商業』編集委員の岩垂廣氏は、資生堂の戦略をこう見る。

「日用品事業は競争が激しくて利益率が低いうえ、資生堂は競合他社に比べて原価率が高く、マーケティング費用や物流費など販管費率も高かった。資生堂は中長期経営戦略を進行中で、2023年には営業利益率を15%に上げ、30年には売上高2兆円、営業利益率18%を目標に据えています。その実現のために、消耗戦になりがちな日用品市場から撤退し、高級化粧品など高付加価値・高価格の市場に経営資源を集中させることを選んだのです」

※週刊ポスト2021年9月10日号