中国の不動産会社・恒大集団の債務危機の行方を、世界中の市場が固唾を呑んで見守っている。そもそも同社はなぜ危機に陥っているのか。そしてその危機が、中国経済、ひいては世界経済にどのような影響を与えるのか。

 同社の株価(香港・03333、権利修正後)をみると、過去最高値(場中、以下同様)は2017年10月25日の28.729香港ドルだが、中国が新型コロナの封じ込めに成功した直後の2020年7月6日には27.094香港ドルに到達、この時点では株価はV字回復を果たしており、まだ、恒大集団を買い推奨する機関もあった。

 しかし、中国当局は2020年9月1日付で、不動産開発会社を総負債、純負債、流動性に関する3つの指標で分類し、融資を制限する「三条紅線」のテスト運用を始めた。同社はこの3つの指標すべてでレッドライン(赤、橙、黄、緑の4つに分類される中で最も悪い水準)を超えていることから、株価は弱含んだ。

 中国人民銀行、銀行保険業監督管理委員会は2020年12月31日、「銀行業金融機関の不動産貸出集中管理制度作成に関する通知」を発表した。これにより、金融機関はグループ分けされ、グループごとに不動産向けの貸出比率、個人住宅ローン比率に制限が課せられることになった。「三条紅線」政策は2021年1月1日、正式に全面的に実施されることになった。

 3月に開かれた全人代で発表された政府活動報告では「住宅は住むものであり、投機の対象ではない」といった文言が強調された。当局の不動産バブル解消に向けた意気込みは揺るぎないものであり、銀行としては不動産開発会社向け融資、住宅ローンの獲得活動を、厳しく控えざるを得ない状況となった。

 恒大集団の株価は2021年1月20日に17.396香港ドルの高値を付けて以来、下落の一途を辿ることになった。3月以降は長期保有投資家からの売りが継続的に出ていることがはっきりとわかるような値動きとなり、7月下旬の急落、9月中旬の急落などを経て、9月20日の終値は2.280香港ドルまで下げている。

過大な財務レバレッジ

 恒大集団は8月まで会長を務めていた許家印氏(1958年10月生まれ、62歳)によって創業された。武漢鉄鋼学院を卒業後、河南舞陽鉄鋼に入社した許家印氏は、その後グループ内企業で不動産開発事業を手掛けたが独立し、1997年に広東省広州市で同社を設立した。

 中国では比較的若くて起業する経営者が多い中、やや遅い起業であったが、その後は1998年の住宅制度改革により、住宅がそれまでの国有企業による供給から市場経済によって自由に供給される体制に変わると、その流れに乗って業界と共に急成長を遂げた。

 2020年の不動産販売額では碧桂園(香港・02007)に次ぐ第2位。第3位の万科企業(深セン・000002)をわずかに上回り、前年から順位を1つ上げている。今、破綻の危機に見舞われているのは、業界トップクラスの企業だということだ。

 ただ、同社は他社と比べ、大きく違う点がある。積極的に不動産開発を進めただけではなく、事業の多角化を積極的に進めた。金融、健康産業、電気自動車、旅行からスポーツ事業まで、チャンスと見たら手当たり次第に参入するような超ポジティブ経営を行っていた。

 過大な財務レバレッジを行政指導に基づいて縮小させられ、基準に届かないことから(ただし、総負債については2021年6月末時点でグリーン基準を達成)融資を制限され、一気に危機に陥ったというのが実情だ。

当局は安易に恒大集団を助けない

 習近平国家主席が主導し、国家体制改革など国家の重要事項を議論する場である中央財経委員会会議(第十回)が8月17日に開催され、「共同富裕」を促進させる方針が決まった。共同富裕とは、トウ小平理論の後半部分である「先に豊かになった人、地域が後から豊かになる人を助ける」といったことの実現を意味する。

 北京、上海、深センなどの大都市を中心に、不動産価格の高騰は止まらない。こうした大都市の不動産価格は、既に東京都の平均的な価格を遥かに超えており、結婚適齢期、あるいは子育て期の若者が買える価格ではなくなっている。「後から豊かになる人を助ける」ためにはまず、不動産価格の急騰を押さえ、できれば少しずつ適正な価格へと下げなければならない。それによって、社会全体に広がる根強い投機熱を冷まし、若者を含めた庶民の不公平感を解消させなければならない。

 こうした大きな政策が背後にあるだけに、当局は中途半端な形で安易に恒大集団を助けたりはしないであろう。

 ちなみに、8月17日の中央財経委員会会議では共同富裕の促進のほか、重大な金融リスクの防止・解消、金融の安定的な発展が議題となっていた。当局が意図して1年がかりでつぶしにかかっている不動産バブルである。

 6月末現在、広州富力地産(香港・02777)は3指標すべて、恒大集団、緑地控股集団(上海・600606)が2指標でレッドラインを超えている。投資家が不安になる気持ちはわかるが、恒大集団をはじめ各不動産企業の債務状況について、当局は完全に把握しており、ストレステスト、倒産させた場合のシミュレーションなどもしっかりと行っているはずだ。

 株式市場は今後も暫く冷静さを失った状態が続くかもしれない。しかし、中国は社会主義国である。国家が計画的に用意周到に不動産バブルを潰す方針だ。恒大集団や、他の不動産開発企業の破綻がきっかけで金融危機が発生する可能性は低いのではないだろうか。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。