メルセデス・ベンツが発表した新世代エンジン、M256。その3リッター直列6気筒エンジンを日本上陸させるにあたって、まず搭載したのがS450である。V8エンジン搭載の上位グレードを超える初期加速や停車時の圧倒的な静粛性は、これからの高級車がもたらす新たな価値かもしれない。 REPORT◎高平高輝(Koki Takahira) PHOTO◎篠原晃一(Koichi Shinohara)

ハイブリッド? それとも?

電動化電動化と喧しかった人たちは、この新型直6エンジンをどう見ているのか聞いてみたい。48Vバッテリーで駆動されるISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)に加え、電動スーパーチャージャーとさらに補機類もすべて電動化された「M256型」をメルセデスは“簡易的ハイブリッド”とも言わず、単にISG付きと称している。これがたとえば日産だったら、臆面もなく「まったく新しいハイブリッド」などと喧伝するところだろう。

昨年夏のSクラスの国内発表時にはまったく言及されなかった新型直6を積んだ注目のS450がようやく発売されたが、今考えても、発表だけは同時に行うべきだったと思う。何しろ世間一般というか、目先のブームに流されやすい大手メディアが大好きな電動化をさりげなく取り入れた最先端パワートレインなのである。そうすればメルセデス・ベンツの金看板Sクラスの先進性を、いっそうアピールできたはずである。

ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)

全部載せの最先端エンジン

「M256」と称する新型直6ターボユニットは、メルセデスにとってほぼ20年ぶりの直列6気筒エンジンであることが特徴だ。W124型Eクラス等に積まれていたM104型直6以来のストレートシックスである。耐衝突安全性などを理由に20年前以降はV6が主力になったはずなのに、なぜ今になって復活したのか? 無論様々な理由はあるが、やはり時代をリードする新型技術はやはりメルセデスが最初に実用化するのかと、その底力をまざまざと見せつけられるような新型エンジンである。

83.0×92.4mmのボア・ストローク(排気量2999cc)を持つエンジンのボアピッチは90mm、つまり隣との“壁”は相当に薄い。シリンダーにはメルセデスがナノスライドと称するカーボンスチールをプラズマ溶射するコーティングが施され、排気マニホールドと一体化されたツインスクロールターボ一基が触媒と寄り添うようにエンジンのすぐ横に取り付けられている。エンジンと9Gトロニックの連結部には薄型リングモーター兼発電機(ISG)が内蔵され、減速エネルギーを回収するほか、発進時などでアシストする。またウォーターポンプ、エアコンコンプレッサーなどは電動式で当然必要な場合だけ効率的に作動するアダプティプ型だ。おかげで補機類を回すベルトは省かれユニット全長はずいぶんと短い。ターボチャージャーが苦手とする低回転域は電動スーパーチャージャー(eAC)が担当、さらに発進加速時などはモーターも加わり、排気圧が上がってからの過給はターボが担うという、まさに全部載せの贅沢エンジンである。

アイドリングは520rpm

スターターボタンを押すと回転計の針がスルッと持ち上がり、メーター上500rpmの位置でピタリと安定する。エンジンの振動、揺動、ノイズの類は冷間時でなければ感じ取れない。これが普通のガソリンエンジンなら、始動時にブワンと一回大きく回りその後にたとえば700rpmぐらいでアイドリングが安定するものなのだが、S450はオーバーシュートせず、スイッと(わずか520rpmという)アイドリング状態に入る。48V電圧で駆動されるISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)の賜である。アイドリングストップからの再始動、あるいはコースティング状態からの復帰の場合もまったく身震いも音も感じられない。モーター走行とエンジン始動の落差が大きくうるさいレクサスLS500hとは物が違うことは明らか。世界は先に進んでいるのだと思い知らされた。4リッターV8ツインターボエンジンを積むS560と比べると、さすがに中間加速での豊かで強力なレスポンスについては一歩を譲るものの、余裕溢れるラグジュアリーサルーン用ユニットということではいささかも引けを取らない。

12.3インチの大型ディスプレイが圧巻のインパネ。すっきりとまとめられたインテリアデザインはメルセデスの共通デザインとなりつつある。

間違いなく駿足である

トランスミッションは9速トルコンATの9Gトロニック、足まわりはエアマティック・サスペンションというように、エンジン以外の構成はSクラスの他のモデルと同様、ただし標準ボディでS560ロングより100kgほど軽いせいか(S450エクスクルーシブの車検証上の車重は2070kg)、身のこなしは軽やかというより俊敏だ。とりわけ発進時には鋭すぎるのでは、と最初は驚いたほど勢いよくダッシュする。

S450の3リッター直6ターボ(ISG付き)のスペックは270kW(367ps)/5500〜6100rpm、500Nm(51.0kgm)/1600〜4000rpmと、S400に積まれる従来型M276 V6ツインターボとはかったように同じだが、立ち上がりに効く22psのモーターアシストの分だけ駿足というわけだ。実際に0-100km/h加速は5.1秒(436psの高出力版の欧州向けS500では4.8秒)のパフォーマンスを誇るという。S560 4マティックロングでも4.6秒(すべて欧州仕様値)というから、V8モデルにさえ迫るその韋駄天ぶりは明らかだ。ちなみに現時点ではS450と、装備が充実したS450エクスクルーシブの2車種のみ準備が整い、ロングボディのS450ロングは遅れて夏ごろのデリバリーとなる予定だ。

ベストSクラスかもしれない

昨年の試乗会で乗ったS560 4マティックロングの19インチタイヤ装着車は、エアサスペンションとは思えないようなゴツゴツしたフリクション感が残る乗り心地がいささか気になったものだが、S450エクスクルーシブは同様の足まわりに19インチタイヤを装着していながらも、明らかに好印象だった。突っ張った感じがなく、むしろしなやかと言っていいほどで、これならSクラスに相応しいと納得した。標準ボディのRWDは他にS400が設定されているのみで、またS560ロング(RWD)には試乗したことがないので断定はできないが、これまでのところ、RWDモデルのほうが(それもAMGラインではないほう)が全体的な洗練度では優っているように思う。Sクラスが世界最高レベルの先進的運転支援システムを完備していることはご存知の通り、快適なうえに俊敏で、かつ燃費も良くなっているはずだから(V6のM276に比べて約17%のCO2排出量を削減したという。日本仕様のモード燃費は未発表)、余裕のパワーを求める人でなければ、S450を選ばない理由が見つからないのではないか。