これまで数多くのクルマが世に送り出されてきたが、その1台1台に様々な苦労や葛藤があったはず。今回は「ニューモデル速報 第68弾 スバル・レガシィのすべて」から、開発時の苦労を振り返ってみよう。

 富士重工業の中心的な乗用車は当時レオーネだったが、レオーネに欠けていたいくつかの要素を込めたワンランク上の乗用車として開発されたのがレガシィだ。開発を率いた中村孝雄(商品企画室・担当部長)は、これまでの富士重工業の乗用車について次のように分析した。

 スバル1000、1300の時代は、まず走行安定性と居住性を確保する段階だった。当時はFFという駆動軸形式は特異な存在であり、それだけでも十分に高い存在価値を持つ時代だった。だが、やがてFFでは飽き足らず4WDの乗用車を提案した。これは主として走破性の範囲を広げていくことに焦点が置かれていた。そしてレオーネの後に来るべきものとしてレガシィの開発が始まった。一連の流れを振り返ると、他社に先駆けて“走り”の先端技術を製品化してきた。だから次は、それらを引き継ぎつつ、90年代の世界戦略も考慮する必要がある。

 そのためには、レガシィにはパワフルなエンジンが必要だったという。これまでは開発に時間が掛かるため、スバル1000以来のEK型にこだわっていた。しかし、4バルブやDOHCが数多く登場する時代ではエンジンを新たに開発する必要があった。しかも、アコードやギャラン、ブルーバードといった強力なライバル車が登場してきたことと、新しいメカニズムに対するユーザーの期待を考えると中途半端なものは出せない。新エンジンに合わせた足回りも含めて、じっくりと時間を掛ける以外に方法はなかったという。

 エンジンの開発にあたって、直4に切り替えるという意見もあったという。しかし、90年代は“質”の時代になるという見立てと、他社が長年手掛けたものよりも、すでにメリットや設計・生産におけるノウハウが万全な水平対向エンジンで行くことが決まった。ただ、バルブ駆動系の複雑化に伴うエンジン横幅の増加やアルミ製ブロックやバルブ駆動系の伸びが課題だった。アルシオーネのエンジンで駆動にベルトを使用しても信頼性は充分だと知っていたが、アルミ合金のブロックの方が伸びてしまってタイミングを狂わせてしまうのだ。そのため、ベルトの張りを調節するテンショナーを工夫したほか、200km/hアップの最高速まで回せるように3ベアリングから5ベアリングが採用された。

ピストン・ストロークを67mmから75mmへ拡大して高出力化への対応を狙った(150ps/17.5kgm)。ターボを搭載するEJ20G型では220ps、27.5kgmを誇る。

インパネ前面をドライバー側に傾けて囲まれ感を演出。大径2連式のメーターは視認性も良好。

 足回りについては、コンピューターのおかげでサスペンションジオメトリーの計算などは省略できたものの、その中から試作したサスペンションを実際にテストして味付けを決めていくプロセスには、やはり膨大な時間が掛かった。レガシィでは、単なる居心地の良い居間といった感じのキャビンにしたのではなく、ゆったり走りたいとか思い切って攻めたいといった極端なシチュエーションにも対応できるレベルを実現させたかったという。そのため、ヨーロッパにおける200km/h以上の高速走行を目標に振動・騒音レベルを考え、ピラーの根元部分の補強や、箱型断面の部材にしたサイドシル、メンバー構造の見直しなど新発想でボディ構造そのものを見直すとともに、足回りの剛性を高めることで4WDで課題だったヨー変化の収まりを重点的に対処。公道を舞台にプロドライバーのテストを繰り返し、路面からの力による動きに忠実に反応する足がつくり出された。

リヤのオーバーハングを90mm伸ばし、ハイルーフと組み合わせたツーリングワゴンも用意。後席の6対4分割機構によって、フラットな荷室に早変わり。