ランボルギーニのスーパーモデルたちに乗る理由は、おそらく数多ある。が、筆頭はやはり「速さ」だろう。ただ惜しむらくは日本の公道では、その真のパフォーマンスを味わい尽くすことは難しい。しかしサーキットなら、誰に気兼ねすることなく「速さ」を堪能することができるはず。このクルマは、そんな本物のブランドバリューを体験するために生まれた。(Motor Magazine2021年10月号より)

ワンメイクレースの名称が冠せられた特別な1台

ウラカン スーパートロフェオ。それは、スポーツドライビングをこよなく愛する世界中のエンスージアストにとって、究極の1台と言っても過言ではないミッドシップスーパースポーツカーである。

スーパートロフェオはランボルギーニが2009年から開催しているワンメイクレースシリーズの名称だ。当初は、このシリーズのために開発されたガヤルドLP560-4を用いていたが、ガヤルドの後継モデルにあたるウラカンがデビューしたことに伴い、マシンをウラカンLP620-2にス
イッチ。ここで紹介するのは2017年にリリースされた進化版で、その名をウラカン スーパートロフェオEVOという。

ランボルギーニがワンメイクレースを主催する理由について説明するなら、まずはランボルギーニ・スクアドラ・コルセのことを説明するのが近道だ。

スクアドラ・コルセとはイタリア語でレーシングチームのこと。ランボルギーニの場合、モータースポーツ関連の活動を一手に引き受けるセクションである。その発足は2013年。それまでレーシングカーのガヤルドGT3はドイツのライター・エンジニアリングによって開発・製造されていたが、ウラカンGT3は社内で手がける方針が決定。これに基づき、ランボルギーニ研究開発センターの一部門として立ち上げられたのがスクアドラ・コルセだった。

彼らはウラカンGT3に続いてLP620-2を開発。こうした特別なマシンでレースに参戦するドライバーやチームのサポート、スーパートロフェオシリーズの運営、さらにはランボルギーニ・ピロータと呼ばれるドライビングスクールの主催も任されている。

実は、これらの活動は見事なヒエラルキーを形成していて、参加者はまずピロータでスポーツドライビングの基礎を習得。ここで培ったスキルを試す実戦の場がスーパートロフェオで、このスーパートロフェオで好成績を残し、さらなるステップアップを希望するドライバーが挑戦する舞台が、プロフェッショナルドライバーも参戦するGT3レースなのだ。

もっとも、ピロータからスーパートロフェオを経てGT3レースに参戦するまでの道筋は、すべてジェントルマンドライバーと呼ばれるアマチュアのために用意されたプログラム。つまり、これらの活動は、ランボルギーニのオーナーがモータースポーツという切り口からブランドバリューを体験するユーザーエクスペリエンスとして提供されているのである。

ここまで読み進んできて「あれ、ランボルギーニってモータースポーツ活動をしないんじゃなかったっけ?」と疑問に思ったアナタは、相当のエンスージアストだ。たしかに創業者のフェルッチオ・ランボルギーニはアンチモータースポーツ派で、ミウラをベースとするあの「イオタ」が誕生したのも、フェルッチオの目を逃れてレーシングカーを開発するのが目的だったと噂されるくらい。

この話を始めると深みにはまるので早々と切り上げるが、1972年にランボルギーニがフェルッチオの手を離れてからは大手を振ってモータースポーツ活動ができるようになり、1989〜1993年にはV12エンジンでF1に参戦、91年のF1日本GPでは鈴木亜久里さんが3位表彰台に上ったことをご記憶の読者も多いだろう。

実はこのF1用エンジン、かなり戦闘力が高かったようで、93年にはあのアイルトン・セナがマクラーレンに搭載してテスト。その優れた完成度に「日本GPにはランボルギーニ製エンジンで出場したい」と駄々をこねたほどだったらしい。しかし、マクラーレンが94年はプジョー製エンジンを使うことになり、ランボルギーニのF1活動も幕切れを迎えた。

軽さを極めた後輪駆動。ダラーラが開発に協力

ランボルギーニのモータースポーツ史を語り始めると、ついつい脱線してしまう。そろそろ本題であるスーパートロフェオ仕様のウラカンについて解説しよう。

ウラカン スーパートロフェオの初代にあたるLP620-2が発表されたのは、前述のとおり2014年。車両のベースはいうまでもなく量産モデルのウラカンで、エンジンは基本的にロードカーと同じ排気量5.2Lの自然吸気V10ユニットを搭載するが、最高出力は10psアップの620psとされた。

興味深いのは先代のガヤルドと異なってウラカン スーパートロフェオが後輪駆動とされたこと。ギアボックスはF1界でも名高いXトラック製でカーボンパーツなどを多用することにより、車重は量産車より約150kg軽い1270kgに仕上げられた。

なお、カーボン製ボディワークやエアロダイナミクスは、世界最高峰のレーシングカーマニュファクチュアラーであるダラーラ・エンジニアリングの協力を得て開発された。同社を創業したジャンパオロ・ダラーラが、あのミウラの開発にも関わったことはご承知のとおり。つまり、ランボルギーニとは切っても切れない関係の人物と言える。

初代ウラカン スーパートロフェオは合計で150台以上が生産されたので、公道を走行できない純レーシングカーとしては大成功を収めたといっていい。それらの多くはヨーロッパ、アジア、北米、中東で開催されるワンメイクレースシリーズに出場し、数々の名勝負を繰り広げてきた。

徹底的に磨き抜かれたエアロダイナミクス

ここで紹介する2代目スーパートロフェオの正式名称がウラカン スーパートロフェオEVOであることは冒頭でお知らせしたとおり。その開発テーマはエアロダイナミクスの進化、安全性の向上、メカニズムならびにエレクトロニクスの改良などにあったという。

なかでも注目すべきはエアロダイナミクスの進化。今回もダラーラ・エンジニアリングとランボルギーニ研究開発センター、そしてランボルギーニのデザイン部門であるチェントロ・スティーレが協力してその作業に取り組んだ。

ひと目でわかる変更点は、エンジンフード上に設けた巨大なバーティカルフィンで、高速コーナリング時のオーバーステアを予防し、スタビリティを改善する働きがある。さらにフィンの前端にエンジンの吸入気を取り込むためのエアスクープを追加。この結果、吸気量が増えて最高速度付近のトルクが約3%向上したほか、吸入気の温度が下がってエンジンの充填効率が改善したという。

さらに空力パーツの大半を再設計することにより、ダウンフォースを犠牲にすることなくドラッグを8%低減。この結果、モンツァでのラップタイムは先代を1.55秒凌ぐ1分47秒8を記録したとランボルギーニは豪語する。

もうひとつ注目されるのが安全性の向上で、スーパートロフェオEVOはひとクラス上のGT3と同等の安全規定を適用。ルーフ上には、新たにドライバー救出用の着脱式ハッチが設けられた。

このウラカン スーパートロフェオEVOのオーナーは若き実業家で、自らエントリークラスのフォーミュラカーを操るほどの腕利き。この車両もレース参戦用というよりは、個人的にサーキット走行を楽しむために購入したという。その楽しみ方も、まさに究極のぜいたくといえるだろう。(文:大谷達也/写真:永元秀和/取材協力:フューチャー・ビジョン株式会社)

●ランボルギーニ ウラカン スーパートロフェオEVO主要諸元

●全長×全幅×全高:4653×−×1250mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1270kg
●乗車定員:1名
●エンジン:V型10気筒4DOHC
●総排気量:5204cc
●最高出力:456kW(620ps)/9250rpm
●最大トルク:570Nm/6500rpm
●トランスミッション:6速シーケンシャル
●タンク容量:118L
●タイヤサイズ:305/645-18、後315/680-18
●ブレーキ:4輪Vディスク
●最高速度:280km/h