3L 直6ツインターボ+FRの「BMW M4 コンペティション」とあえて比べてみたのは、自然吸気の4L対6+MRの「ポルシェ ケイマンGTS4.0」と3.8L V6ツインターボ+4WDの「日産 GT-R」。エンジンタイプも駆動方式も異なる日独スポーツカーの中で、M4が見せる魅力を検証する。(Motor Magazine2021年6月号より)

進化を重ねて第6世代。M4はFRの限界に挑戦

1980年代の欧州で活況を呈したツーリングカー選手権を制することを目的に、「戦うクルマ」として開発されたのが初代BMW M3。当初はセダンのみで構成されたM3に、新たなバリエーションとして加えられたクーペがM4の名称で独立したモデルとして扱われるようになって久しい。それでももちろん、そこに採用されるランニングコンポーネンツは共通という両者の深い血縁関係は、いささかの変わりもない。

コンペティティブな2.3L直4エンジンを搭載した初代M3だが、その後の歴代モデルにおける心臓の変遷ぶりは、シリンダー数も排気量も実に多彩だ。時代の流れを鑑みつつ、ユーザーの成長も踏まえながら「臨機応変」に心臓部の姿を変えていく。それは、実は歴代M3/M4シリーズにあってももっとも特徴的なポイントと紹介してもいいように思える。

当初は「戦うこと」を最優先にさまざまなスペックが決定されたものの、時間の経過と共に「最上のプレジャーを提供するドライビングマシーン」としてのキャラクターが強まり、それに相応しいディメンジョンが次々構築されたこともまた、歴代モデルの特徴だ。

そうした中にあってひとつの転機を迎えたのが、2013年末に発表された先代モデルだった。4代目で採用されたV型8気筒エンジンを、再び直列6気筒デザインへと戻して搭載したF80である。排気量を大幅にシュリンクさせる一方で、2基のターボチャージャーを装着。すなわち第5世代となるこのモデルのフード下には、M3系では初となる過給機付きの心臓が収められたのである。

要請が高まった燃費の改善を成し遂げながら、モデルチェンジでの必達事項でもある出力の向上も必要となれば、過給機のアドオンはもはや避けられなかった。そして、先代のエンジンを改良して登場したのが、日本では2021年1月に発表されたばかりの、最新型M3/M4シリーズである。

今回試乗したのはM4クーペ コンペティション。その鮮烈な走りは別項にてたっぷりと紹介のとおり。当初はFRレイアウトの持ち主として導入されるものの、追って歴代モデルとして初の4WDバージョンの追加が明らかにされているのも大きなトピックのひとつ。

実際、ワインディングロードを駆け巡ると、ドライ路面ですらトラクション能力が限界を迎えてしまうシーンもたびたび。まあそれはそれで楽しいのだが、エンジンの高出力もさることながら、出力比で大きなトルクを生み出すターボ付きエンジンの特性ゆえ、最近のターボ付きハイパフォーマンスモデルでは4WDシャシの必要性が急速に高まっていることを、再認識させられた。

ケイマンの持ち味を引き出す6気筒搭載の真打ち登場

そんなM4に比べると、ポルシェの718ケイマンは、一度はシリーズすべてで過給機を加えた上で排気量ダウン。さらに「レスシリンダー」化まで敢行して賛否両論の嵐を巻き起こしておきながら、そんな舌の根も乾かぬうちに、今度は過給機を取り去った上で大排気量化というまったく逆の手法を採用。さらにマルチシリンダー化を実行して人々を煙に巻いたポルシェの最新ミッドシップ系モデルの存在は、興味深い。

そもそもポルシェが、従前の6気筒ユニットから2気筒を省いてできた空間にターボチャージャーを装着した718ボクスター/ケイマンを世に送り出したのは2015年末のこと。そんな心臓のフルチェンジの目的は、例によって「出力と燃費の同時向上」と謳われ、実際その加速の能力は明確に増す結果ともなっていた。

とはいえ、そこは知る人ぞ知るマーケティングカンパニーでもあるポルシェ。あくまで個人的にではあるが、その決断には「この時点で911は6気筒、ミッドシップは4気筒と差別化をより明確にしたい」といった社内の積年の思いや、「2L以下のモデルには大きなインセンティブが与えられる中国市場で、存在感をアピールしたい」という、マーケティング上の理由も存在したのでは・・・という思いが頭をよぎる。

一方で、現在でもスポーツカーのメイン市場であり、「普通のエンジンが6気筒」というアメリカでは、4気筒化はシェアを大きく落とす要因になったというニュースも聞くのも事実だ。このあたりの状況も踏まえ、急遽新しい6気筒モデルを加える決断に至ったのではないか・・・、という筋書は、これまでのこのブランドの「機を見るに敏」な商法を振り返ると、あながち大外れでもないように思えてくる。

そうした「お家の事情」はどうであれ、新開発された自然吸気の4L水平対向6気筒ユニットを積むGTS4.0をドライブしてみると、「やっぱり真打ちはコチラでしょう!」と快哉を叫びたくなる仕上がりであった。

なるほど、絶対的な加速力では、ターボ付き4気筒に先行を許す場面もある。それでも4Lという排気量ゆえ蹴り出しは力強く、何よりもより緻密感に富んでスムーズな感覚が、「こちらの方がより上質」という無形の印象をもたらすこととなっていたからである。ミッドシップレイアウトゆえに、後2輪駆動でありながらもトラクション能力が十分というのも、このモデルならではの特徴だ。

もっとも、そんなケイマンGTS4.0が放つ緻密で官能的なサウンドには、一点の注釈が必要だろう。実は比較的低負荷の領域で気筒休止が働いて3気筒運転になると、その結果の「濁音系」のこもり音がなかなか盛大だ。アイドルストップのキルスイッチを押せば同時にこちらのシステムも作動を止めるが、せっかく備わる機能を殺すのは少々引っかかる。ここはもう一歩の洗練を望みたい。

他を圧倒するスピード性能。熟成の域に入ったGT-R

一方、ドイツ勢とはまったく異なる立ち位置にいるのが、今回の日本代表でもある日産GT-R。熟成が進み、また開発責任者が代わったことで当初のモデルからはクルマづくりのベクトルに多少の変化は認められるものの、それでもまず「他を圧倒するスピード性能」こそが最大の売り物というのは、デビューから13年間、GT-Rに不変の特徴と言っていい。

かくして、「スポーツカーの命は、まず圧倒的なスピード性能」というプリミティブな魅力のあくなき追求には敬意を表したい。一方で、パワーステアリングは昨今では同類を探すのが難しくなりつつある油圧式で、パーキングブレーキも「手動式」。クルーズコントロールは単純な車速の維持機能しか持たず、いわゆる「ADAS(先進運転支援システム)」関連のシステムは皆無と、今となってはその商品性に多くの課題を残すことは避けられない。

ケース剛性の高さをサーキットでの運動性能に生かす発想のランフラット構造を採用する専用タイヤも、それがわだち路面でのワンダリング挙動など、外乱に対する不寛容さに直結している印象は否めない。「リラックスした走り」が不得意科目というのは、ロードカーとして見た際のGT-Rの大きな弱点であることは間違いない。一方で、絶対的な速さという点にかけては、さしものM4もケイマンGTS4.0も「まったく寄せ付けない」実力の持ち主だ。

当初は800万円切りからの価格で登場したGT-Rも、今や全グレードが1000万円超。それでも「速さ」を軸としたコストパフォーマンスでは、他のあらゆるモデルを圧倒する。スーパーカーはおろか、「ハイパーカー」と呼びたくなる実力を、これほどまでに長く維持し続けるのは、不断のリファインの賜物と言っていい。

こうして、ライバルというよりは「三者三様の立ち位置を持つこと」が魅力というのが今回のモデルたち。果たして、「EVスポーツカー」が誕生の折、こうした楽しみは残されているのだろうか。
(文:河村康彦/写真:村西一海、伊藤嘉啓)

●BMW M4クーペ コンペティション 主要諸元

●全長×全幅×全高:4805×1885×1395mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:1730kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●総排気量:2992cc
●最高出力:375kW(510ps)/6250rpm
●最大トルク:650Nm/2750−5500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・59L
●WLTCモード燃費:10.1km/L
●タイヤサイズ:前275/35R19、後285/30R20
●車両価格(税込):1348万円

●ポルシェ ケイマンGTS4.0 主要諸元

●全長×全幅×全高:4405×1800×1285mm
●ホイールベース:2475mm
●車両重量:1480kg
●エンジン:対6DOHC
●総排気量:3995cc
●最高出力:294kW(400ps)/7000rpm
●最大トルク:420Nm/5000−6500rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・64L
●WLTCモード燃費:9.2km/L(EU複合)
●タイヤサイズ:前235/35R20、後265/35R20
●車両価格(税込):1101万円

●日産 GT-R プレミアムエディション 主要諸元

●全長×全幅×全高:4710×1895×1370mm
●ホイールベース:2780mm
●車両重量:1770kg
●エンジン:V6DOHCツインターボ
●総排気量:3799cc
●最高出力:419kW(570ps)/6800rpm
●最大トルク:637Nm/3300−5800rpm
●トランスミッション:6速DCT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・74L
●WLTCモード燃費:7.8km/L
●タイヤサイズ:前255/40ZR20、後285/35ZRF20
●車両価格(税込):1232万9900円