2008年、2代目アウディA3がフェイスリフトで品質向上とパワートレーンの一新を果たして、まるで車格を上げるように登場した。1996年の初代誕生以来、熟成を重ねて11年、兄弟車のゴルフがフルモデルチェンジの道を選んだのに対し、A3は熟成の道を歩んでいる。Motor Magazine誌ではこのアウディA3の日本上陸にあわせて、ショーデビューを果たしたばかりの6代目ゴルフと比較しながら、新しいA3を徹底的にテストしている。今回はその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年11月号より)

プレミアム性は排気量やボディサイズに依存しない

自らこそが世界に冠たるプレミアムカーメーカー! そういった自負を持つであろうアウディというブランドにとって、エントリーモデルであるA3のキャラクター付けというのはなかなかの難題であるに違いない。もちろん、コンパクトサイズのプレミアムカーというのは、A3にとってはまずは欠かせない狙いどころだ。

実際、1996年に初代モデルがデビューした当初から、アウディではA3というモデルでそうしたキャラクターを鮮明にしようと躍起になっている。そして同クラス他車のそれを確実に凌ぐ高度なインテリアクオリティの実現などを中心に、そうした戦略の成果を実感させる。

一方で、コンパクトなボディサイズの持ち主でそうしたプレミアム性をアピールしようという手法は、今やA3独特のものとは言えなくなっている。例えばMINIやフィアット500といったモデルなども、A3同様にそうした拘りの仕上げを売り物にしようとしている。付加価値を高め、その分だけ高い収益率を得ようというアウディにとって「ボディサイズと価格は比例しない」という戦略をとるそうしたモデルたちは直接のライバルと映ることだろう。10年前には孤高だったアイディアも今や普遍的なもの。そして、こうしたライバルが「増殖」しないとも限らないのは、アウディにとってひとつの懸案事項かも知れない。

さらに、A3がそうした戦略をとろうとするにあたって常に最大の難問として目前に立ちはだかるのが、ゴルフとの関係であるに違いない。

A3というモデルが「ゴルフと同じ骨格とランニングコンポーネンツによって成立している」というのは、よく知られた事柄。もしかするとそうした表現はアウディ陣営にとっては心外かも知れないが、自動車の要となる部分で両者のハードウェアが極めて強い血縁関係を持つことは、紛れもない事実と言うしかない。

そんな両者がここに来て、ともにモデルチェンジを実施した。ただし、間もなく発売という新型ゴルフが公式的には「フルモデルチェンジ」であるのに対して、最新のA3は今年の春にマイナーチェンジを実施。ともに2003年のデビューであったのに、後にさほど違わぬタイミングで実施となったリファインの手法がこうした異なったものとなった点にも、アウディとフォルクスワーゲンという両者が企てんとする戦略の違いが見てとれる。

アウディA3がフルモデルチェンジを選ばなかった理由

バンパー部分を分割線として上下に分かれた「ツイングリル」をメインとした「かつてのアウディ顔」を備えた現行2代目A3がまずは3ドアモデルのみでデビューしたのは2003年のこと。しかし、翌年には、現在アウディ各車に見られる「シングルフレームグリル」を与えられたモデルが登場する。リアのオーバーハングを延長し、テールゲートを含めて5枚のドアを採用した「スポーツバック」の追加設定だ。

結局のところ、後にシングルフレームグリルを備える3ドア仕様は最新モデルとしては日本に導入されず、従って日本で「A3」と言えばそれは今では自動的に5ドアの「スポーツバック」に限定される。

1.4TFSI、1.8TFSIというFFモデルに、2.0TFSIクワトロという、3タイプが導入される新しい日本仕様の中で、今回は中間の1.8TFSIを除く2車をテストドライブした。ちなみに、これまで存在していた6気筒モデルはカタログから落ち、シリーズのホッテストモデルは265psを発する「S3」が、この先Sトロニックとのマッチングを待って日本にも導入されることになるという。

ヘッドライトユニットにアイシャドウ状のLEDポジションランプが与えられ、バンパーの造形やリアコンビネーションランプ内のレイアウトにも変更を加えた最新A3のルックス。それはひと言で表現してしまえば「これまでのモデルとあまり変わり映えしないもの」であるのだが、逆にそうしたリファインに留めた点にアウディの自信のほどが読み取れる。

実は現行A3シリーズは、デビュー以来現在に至るまで4年連続で生産台数の記録を更新。すでに今年2008年3月末には100万台目となる現行モデルをラインオフ。そうした好調ぶりが、「大胆な変化」を拒んでいるという見方もできそうだ。

一方で、DNAを共有するゴルフが、基本骨格やパワーパックを従来型からキャリーオーバーしながら大幅なスキンチェンジをメインに据えた「フルモデルチェンジ」を企てたのは「収益性改善を最大目標とした、現経営陣の考え方に基づくコストダウンを狙った結果」という説も有力。アウディにとってみれば、そうしたゴルフのようなやり方は、現段階では不要という判断なのだろう。

ところで、いかにラインアップの底辺に位置するモデルとはいえ、A3に1.4Lという排気量のエンジンを搭載したことは注目に値する。それは、何よりもプレミアム性というものに重い価値観を置くアウディにして、「もはやプレミアム性は排気量には依存せず」というスタンスを明確にしたに他ならないからだ。もっとも、実はそうしたスタンスは「排気量信奉」が強い北米マーケットでは除外されている。すなわち、彼の地への導入モデルは2.0TFSIと6気筒エンジンを搭載する3.2に限定されているのだ。

動力性能になんの不満もない1.4TFSI搭載モデル

それはともかく、A3初の1.4Lエンジンにこのところのフォルクスワーゲングループが得意とするデュアルクラッチとランスミッションを組み合わせた1.4TFSIの走りは、「なるほどこれで十分でしょう」と誰もが納得するに違いない自在感を味わわせてくれるもの。とくに感心するのがトランスミッションの微低速領域でのマナーの良さ。例えば、きつい傾斜のついたガレージへの進入操作などで、多くのDCT搭載モデルは時に唐突な動きを示すため扱い辛さを感じることが少なくないが、このモデルに搭載の「Sトロニック」を名乗る7速DCTはそのあたりの動きがピカイチのスムーズさなのだ。

これならば、これまではトルコンATにしか乗ったことがないという人の乗り換えでも何ら問題はなし。もちろん、広い変速レンジを持ちつつも各ギア間のステップ比が小さい7速仕様ゆえ、加速の能力にも長けている。100km/hクルージング時でわずかに2200rpmほどにすぎないエンジン回転数による優れた静粛性と際立つ低燃費を実現させつつ、いざ加速というシーンでは低回転域からただちにブースト圧を高める直噴エンジンと電光石火で自在な変速を行うSトロニックが、小さな排気量を忘れさせる力強い加速を演じてくれるのだ。

そんなこのパワーパックによって山道を元気良く駆け抜けてみようとすると、早くも5500rpm付近から訪れる回転上昇の頭打ち感がちょっと残念。が、そんな領域での特性というのは、そもそもこのエンジンにとってみれば「圏外」ということだろう。常用シーンでは直噴システム+小排気量がもたらす燃費の良さを最大限に発揮し、強い加速が必要となる際にはターボチャージングを行うことでパワーをサポートする、それこそがこのエンジンが狙った最大の特性であり、そして特長であるに違いないからだ。

1.4TFSIのフットワークのテイストは、あまりに素晴らしい動力性能に比べてしまうと、正直、さほど印象に残るものではなかった。しっかりとした接地感、自然なハンドリング感覚、きっちりと効くブレーキなど、どこをとっても優等生ではあるのだが、だからと言ってことさらに特徴ある味わいを演じてくれはしなかった。

それは決してA3というモデルのウイークポイントにはならないであろうが、一方でセールスポイントとなることもないだろう。ただし、このあたりが「乗ればゴルフと同じじゃないか」と言われてしまう要因にはなりそう。例えば、コンフォート性能はある程度犠牲にしてでも「ピンシャン」と威勢の良い走りがキャラクター的に許されるMINIの場合などとは大きく事情が異なる、アウディならではのクルマづくりの難しさだろう。

2.0TFSIクワトロはもはやスポーツカー

そんな1.4TFSIから2.0TFSIクワトロへと乗り換えると、「こちらはスポーツカーだな」と正直、第一印象でそう感じた。エンジンのボリュームアップに加え後輪駆動系がアドオンされることもあって、比べれば車両重量は160kgも重い1540kgに達する。が、最高出力200psを発する直噴ターボ付きエンジンはそうした重量増など軽々と跳ね除けて強力な加速力を披露。ちなみに0→100km/h加速タイムは、1.4TFSIでも実用車としては文句なしの9.3秒ながら、こちらはわずかに6.7秒と遥かに俊敏。「これでは今後導入のS3の立場を危うくしてしまうのでは」と余計な心配すらしたくなる。

今回の2.0TFSIクワトロのテスト車には、様々なドレスアップアイテムを装着したSラインパッケージに加え、内部の磁性体を電子制御することで減衰力を可変としたA3シリーズには初採用のダンパー「マグネティックライド」もオプション装着していた。とくに後者の効果は絶大で、240km/hに達しようという最高速の持ち主ながらタウンスピードでの快適性も文句なし。一方、スポーツモードを選択すると上下Gの強さは確実に増してしまうものの、コーナリング時には姿勢変化が抑えられて、よりダイレクトなハンドリング感覚を味わわせてくれることも確認できた。

ただし、さらにHDDナビゲーションパッケージをも加えたテスト車両の価格は、実に530万円をオーバーするという高価さ。それを例えばメルセデス・ベンツのラインアップに照らしてみれば、そこではA/B両クラスの価格帯を軽々と飛び越えて、もはや完全にCクラスのそれにラップするということになってしまう。

もちろん、アウディはプレミアムなクルマを送り出すメーカーと納得の上で手に入れるユーザーは、ある程度割高なコストを支払う用意はあるだろう。けれども、客観的に見て「A3がCクラスよりも高価」と言われた時、そこではいくら装備・仕様の逆転現象が存在していたとしても、なかなか世間一般に理解を求めるのは難しいのではないだろうか。

このあたりもまた、常々行われてしまうゴルフとの価格比較とは別次元での、A3ならではのセールスの難しさということになるのかも知れない。果たしてA3の、そしてアウディ車ならではの「価格には変え難き価値観」とは何なのか。結局のところ、日本でのアウディのトライというのは、この先もこうした点をいかに訴求していくかにかかっているように思う。(文:河村康彦/写真:永元秀和)

●アウディ A3スポーツバック 1.4TFSI 主要諸元

●全長×全幅×全高:4290×1765×1430mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1380kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1389cc
●最高出力:92kW(125ps)/5000rpm
●最大トルク:200Nm/1500-4000rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・55L
●10・15モード燃費:15.8km/L
●タイヤサイズ:205/55R16
●車両価格(税込):299万円(2008年当時)

●アウディ A3スポーツバック 1.8TFSI 主要諸元

●全長×全幅×全高:4290×1765×1430mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1460kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1798cc
●最高出力:118kW(160ps)/4500-6200rpm
●最大トルク:250Nm/1500-4500rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・55L
●10・15モード燃費:14.2km/L
●タイヤサイズ:205/55R16
●車両価格(税込):357万円(2008年当時)

●アウディ A3スポーツバック 2.0TFSI クワトロ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4290×1765×1430mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1540kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1984cc
●最高出力:147kW(200ps)/5100-6000rpm
●最大トルク:280Nm/1700-5000rpm
●トランスミッション:6速DCT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●10・15モード燃費:12.0km/L
●タイヤサイズ:225/45R17
●車両価格(税込):439万円(2008年当時)