スーパーカーから超高級ブランドまで、数多のフラッグシップたちは12気筒ユニットを搭載してきた。時代が変わろうとしている今、真に味わうべきはこうした「究極」がつづってきた官能的なドラマなのかもしれない。3回に分けて短期集中連載する「12気筒に魅せられた男たち」の前編(Motor Magazine 2021年11月号より)

常にブランドの頂点に君臨し続けるV12ユニット

V12こそ究極のレシプロエンジン。ストレート6を組み合わせたV12はバンク角60度を選んだ時点で、完璧にバランスされた4サイクルエンジンとなる。黎明期の欧米を代表する超高級ブランドは、そんな12気筒を好んで搭載した。

戦後に興った「イタリアのスポーツメーカー」はしかし、少しだけ考え方が違っていた。スポーツカーはエンジンがすべて。12気筒エンジンを使えば世界一ユニークで速いマシンを作ることができる。イタリア生まれの「その男」は、ハナからそれしか頭になかった。

彼はアルファロメオのワークスドライバーを務め、後に自らの名を冠したレーシングチームを運営する。戦前には、2台のオリジナルスポーツカーを製作。アウトアヴィオ815Sと呼ばれるモデルは車名のとおり、1.5Lの直列8気筒エンジンを搭載していた。

第二次世界大戦中、その男は815Sがなぜ物足りなかったかを考えたことだろう。4気筒を連結してストレート8とする手法は確かに戦前のレーシングカーにおける流行りだったが、それゆえ荒っぽく目新しさもなかった。

その点、12気筒エンジンはアメリカの高級ブランドが主に採用するだけで、スポーツカーに搭載するイメージはまだ薄かった。そんな時代に「その男」は、今度は自らの名を冠したスポーツカーメーカーを立ち上げるにあたってV12エンジンにこだわった。エンツォ・フェラーリその人である。

以来、マラネッロ村に本社を置く跳ね馬ブランドのフラッグシップFRにはV12が積まれ続けた。一時期、ミッドシップにその座を譲ったが、それも180度のV12だった。それを除くと12気筒の2シーターのFRが、常にブランドの頂上に君臨し続けた。

現代のそれは812シリーズである。1.2Lの8気筒ではもちろんない。800psの12気筒である。電気モーターはもちろん、スーパーチャージャーも付加しない大排気量自然吸気の65度V12。おそらくこのシリーズをもってピュアなNAは最後となる。1947年のブランド創立以来、作られ続けてきたV12 NAがいよいよ幕を閉じる。フェラーリ V12のフィールは名実ともにもはや、この世のものとは思えなくなる、というわけだ。(文:西川 淳/写真:小平 寛、永元秀和、井上雅行)

●フェラーリ 812GTS 主要諸元

●全長×全幅×全高:4693×1971×1276mm
●エンジン:V12DOHC
●総排気量:5204cc
●最高出力:588kW(800ps)/8500rpm
●最大トルク:718Nm/8000rpm
●トランスミッション:7速DCT
●車両価格(税込):4523万4000円