アウディのラインナップで「RS」の称号を冠するモデルは、頂点に位置することを示す。パフォーマンスだけでなく、あらゆる面でズバ抜けているという価値観が重要なのだ。その高い人気を集めるコンパクトSUVの雄を、個性の塊といえるライバルと並べた。(Motor Magazine2021年12月号より)

ユニークネスを象徴する5気筒のハイパフォーマンス

現在、世界的に自動車市場の主力アイテムといえば、何はさておきSUVのカテゴリーだ。各メーカーともユーザーニーズを掘り起こしながら、さまざまなアプローチで提案を続けている。地上高やキャビンの天地にゆとりがあることから、BEV化の親和性も高い。今後はスタンダードモデルの代替として普及する可能性もある。

そうしたSUVマーケットで、アウディは多層的なラインナップを展開してきた。ひとつはQ3、Q5、Q7などのハッチバック系モデルだ。ちなみに、A4やA6それぞれのオールロードのようなステーションワゴン系モデルも、その源流として加えてもいいのではないかと思う。

もうひとつがQ3、Q5に設定されるアウディが命名するところのスポーツバック、言ってみればクーペ的コンセプトのファストバック系だ。ラインナップでもっとも小さいQ2や、もっとも大きいQ8もスポーツバックの識別符はなかれど、形状的にはこちらの側に属するのではないだろうか。

これらのSUVモデルのうちでアウディのテクノロジー&スポーツイメージを牽引する「RS」の称号を戴いたスペシャリティモデルといえばRS Q8、そしてこのRS Q3のシリーズになる。

とりわけRS Q3シリーズの側は、重心高を補える軽量コンパクトな車格がスポーティネスに好作用するだけでなく、技術的な独自性を備えていることもあり、初代でも一定の支持を得てきた。ベースモデルの完全刷新に伴って2020年冬に日本投入された2代目では、ハッチバックボディに加えてファストバックボディ、つまりこのRS Q3スポーツバックが新たに追加されている。

このモデルのユニークネスを象徴するのは、鼻先に横置きで搭載されるエンジンだ。EA855evoというシリーズ名を持つDNW型は2.5L直列5気筒ターボエンジンで、前型となるEA855に対してはクランクケースのアルミ化やオイルパンのマグネシウム化といった材料置換、そしてクランクシャフトやコンロッドなどムービングパーツの変更もあって26kg軽量化されている。

アウディと5気筒の歴史は長く、1976年にデビューしたアウディ100の商品性向上を図るべく搭載されたのがその始まりだ。技術的非常識を現実化する開発に深く携わったのは、かのフェルディナント・ピエヒ氏だ。

氏はその後、5気筒エンジンと四輪駆動=クワトロとの組み合わせとなるグループ4/グループBのマシンでWRCを席巻、アウディのブランドイメージ向上にも大きな貢献を果たし、その後のフォルクスワーゲングループ総帥への道筋に足掛かりをつけた。

かように5気筒への想い入れが深いピエヒ氏も亡きいま、その独特のビート感やサウンドに触れる機会は限られたものになりつつあるのかもしれない。しかもそれを実用的なサイズやパッケージで味わえるRS Q3シリーズは、マニア心をくすぐる選択肢でもある。

日常性という点で言えば、代を追うごとに外観的な主張が激しくなるRSシリーズにあって、RS Q3シリーズは一見ノーマル然としたたたずまいのように思える。もちろん、見る人が見ればタイヤ&ブレーキやエキゾーストエンドで別物であることは一瞥できるわけだが、この控え目さを魅力と感じる向きは、少なからず存在するのではないだろうか。

それでもパフォーマンスに妥協はない。400psの最高出力、480Nmの最大トルクなどは同じエンジンを搭載するオンロードスポーツのTT RSとピタリ同じ。車重はさすがに200kg以上も重くなるため、同等とはいかずとも7速DCTを介しての0→100km/h加速は4.5秒、最高速は250km/hでリミッターが入るが、仮にそれがなければ280km/hまで伸びる。重量配分改善のため、後軸側に多板クラッチ機構を配したクワトロシステムは、最大で100%の駆動力を後輪側に配分するなど、RS専用のチューニングが施された。

マイナーチェンジでさらなる高出力化を実現したJCW

動的性能を高付加価値化したSUVとして今回用意したもう1台のモデルは、MINIジョンクーパーワークス(以下、JCW)クロスオーバーだ。2020年のマイナーチェンジを機に、搭載するB48A20E型2L直列4気筒ターボユニットは1シリーズ(F40)のM135i xDrive搭載エンジンと同じ基本ハードウエアに改められ、最高出力は一気に75psアップの306psをマーク、最大トルクも100Nmアップの450Nmを発揮する。もはや別物の動力性能を得ての0→100km/h加速は5.1秒、最高速はリミッター介入で250km/hと、RS Q3に若干見劣りする程度だ。

JCWはシャシの側でも施しに抜かりはない。オール4と呼ばれる4WDシステムはオンデマンド式で、電子制御多板クラッチを介して必要に応じたトルクを前後で自在に配分する。後軸側にほぼ100%のトルク配分ができる点などはRS Q3に似ているが、加えてJCWはパワーアップに対処すべく前軸側に機械式LSDを配するなど、トラクションの確保には相当に気遣われているようだ。

前型のJCWにも増して引き締められた足まわりのフィードバックは、さすがに硬い。微小入力域からしっかりダンパーは立ち上がっているが、少し大きな入力ではホールド感の強いシートに突き上げがグイグイと伝わってくる。

その代わり、ワインディングロードでは文字どおり水を得た魚だ。持ち前のクイックなゲインの立ち上がりにタイヤも負けないほどの食い付きを見せるのは凝った駆動システムゆえの効能だろう。舵角の大きいタイトターンで強く駆動力をかけても前輪は簡単には音を上げず、後輪側にもしっかりとトルクが移っていることが伝わってくる。腰高な見た目に似合わず、そして多少は乗り心地がタイトであれ、サーキットレベルの速度域でも楽しく走れそうなパフォーマンスを良しとされるのはMINIがゆえ、そしてJCWがゆえの役得だろう。

ハイパワーをしなやかに扱い上質であるという説得力

RS Q3は過剰さを予感させるその名に対すれば、拍子抜けするほど柔軟だ。試乗車はオプションの21インチタイヤ&ホイールを履いていたが、低速域からのライドフィールに粗さなどはなく、大きなギャップでもなければバネやスタビライザーの硬さは感じられない。

もっとも、ここでは同じくオプションで装備されているRSダンピングコントロールによる余幅の広さ、そして高額なフロントのカーボンセラミックブレーキシステムによるバネ下の軽さが影響している点は、差し引いて考えなければならないだろう。

5気筒ユニットの独特の音色は、技術オリエンテッドなアウディのブランドイメージを引き立てる不思議な魅力を備えるばかりでなく、きちんと実利もある。有り体に言えば、4気筒のパンチのあるトルク感と6気筒の高回転域での伸びやかさの、ちょうど中間的なキャラクターがパワーフィールに感じられるということだ。

ホンダやボルボが後に続いたものの、内燃機の歴史においては少数派の5気筒がこのクルマに特別な価値を加えているのだということを、返すがえすも思い知る。

中高速域のライドフィール、そしてハンドリングはRSモデルの真骨頂といえるだろう、わずかなミリ単位の操作トラベルも忠実に反映する精緻さに満ちあふれ、骨格のねじれや軸モノのブレからくる雑味を一切感じさせず、ドライバーにはガッツリのロードコンタクト感をすっきりと伝えてくる。

これが法外なパワーを諌(いさ)めるRS6あたりのモデルになれば、ある種の冷淡さとも受け止めてしまいがちであるが、RS Q3の場合は手中に収まりが良く、そのしなやかさが一種の上質さにも感じられる。

ベースモデルの値札から見れば、1.5〜2倍のプライシングなわけで、RS Q3にしてもJCWにしても、決して安価なクルマではない。だが、中身の変貌ぶりを見れば、相応の説得力はあるのではと思う。ドライビングファンを徹底的に高めたMINI JCWクロスオーバー、速さのみならず走りの質感を総合的に磨いたRS Q3スポーツバック。プレミアム オン プレミアムの理由はどちらからも色濃く感じられた。(文:渡辺敏史/写真:村西一海)

●アウディRS Q3スポーツバック 主要諸元

●全長×全幅×全高:4505×1855×1555mm
●ホイールベース:2680mm
●車両重量:1730kg
●エンジン:直5 DOHCターボ
●総排気量:2480cc
●最高出力:294kW(400ps)/5850−7000rpm
●最大トルク:480Nm/1950−5850rpm
●トランスミッション:7速DCT(Sトロニック)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・63L
●WLTCモード燃費:9.8km/L
●タイヤサイズ:225/40R20<255/35R21>
●車両価格(税込):892万円
※<>内は取材車に装着されていたオプション装備

●MINI ジョンクーパーワークス クロスオーバー 主要諸元

●全長×全幅×全高:4315×1820×1595mm
●ホイールベース:2670mm
●車両重量:1670kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●総排気量:1998cc
●最高出力:225kW(306ps)/5000rpm
●最大トルク:450Nm/1750−4500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・61L
●WLTCモード燃費:−
●タイヤサイズ:225/50R18<225/45R19>
●車両価格(税込):609万円
※<>内は取材者に装着されていたオプション装備