モンツァSP1、SP2に続く、イコナシリーズの第3弾として、2021年11月に発表されたのがデイトナ SP3だ。フェラーリの市販モデルとしてはもっともパワフルな840psを発生する6.5L V12エンジンをリアミッドに搭載するこのモデルをベルギーで試乗した。(Motor Magazine 2022年10月号より)

SP3の超高回転型V12をサーキットと一般道で堪能する

イコナシリーズは、モータースポーツで活躍した往年のフェラーリを現代の技術で甦らせたリミテッドエディション。そのシリーズ3作目にあたるデイトナSP3は、スポーツプロトタイプと呼ばれるレーシングカーがテーマだ。とりわけ、1967年のデイトナ24時間で優勝した330P3/P4をモチーフとしていることは、モデル名からも明らかだろう。

そのボディ構造はラ・フェラーリを基本としており、カーボンモノコックにV12エンジンをミッドシップする。エンジンは812コンペティツィオーネ用の自然吸気V12をチューニングして搭載。その最高出力は「フェラーリ・ロードカー史上、もっともパワフル」な840psで、最高回転数は9500rpmに達する。

私が試乗したのはベルギーのゾルダーサーキットと周辺の一般道。ちなみにフェラーリは、ゾルダーのスポーツカーレースにおいて、1960年代から1970年代に計3勝を挙げた戦績を誇る。

デイトナSP3はシートをモノコックに直接固定するという独特の構造を採用しているため、シート自体にスライドやリクライニングといった調整機構はない。代わりにペダルを2本まとめて前後にスライドできるほか、ハンドルのチルト/テレスコピック機能を用いてドライビングポジションをとる。ちなみにペダルの位置は、両膝の間あたりに設けられたリボンを引き上げて調整する。

初めて経験するこの調整機能、実はドライバーの上半身とキャビンの位置関係が一定のため、むしろ適切なドライビングポジションを取りやすいことが判明した。ちなみにシートの取り付け角度は購入後もディーラーで調整可能。シートも大小2種類が用意されており、購入時に選択できるという。

「最高出力840ps」が信じられない!扱いやすさ

最初の試乗メニューはゾルダーでのサーキット走行。もっとも、試乗車はオーナーがすでに決まっている関係で最高速度は70km/hに制限されていたが、それでも操舵した途端にノーズがすっと瞬間移動するかのようなステアリングレスポンスを体験。また、いくら平滑なサーキットの路面とはいえ、足まわりがしなやかで、ゴツゴツとしたショックがさほど感じられないことも印象的だった。

続いて公道走行に臨む。ゾルダー周辺の一般道はスピードバンプが多く、低速域で車速をコントロールするシーンが繰り返されたが、デイトナSP3の超高回転型エンジンはボトムエンドから有効なトルクを生み出してくれるのでまったく苦にならない。また郊外に抜け出してペースを上げられるようになってからも、俊敏なレスポンスとパワーが一直線に立ち上がっていく特性のため、最高出力が840psに達するとは信じられないほど扱いやすく感じられた。

もっとも、ただノロノロと走っているだけではデイトナSP3の真価はわからない。そこで私は、高速道路で慎重に速度をコントロールしながら、一度だけエンジン回転数を8500rpmまで回してみた。すると、精緻なメカニカルサウンドを中心とするエンジン音が五感を激しく刺激し、全身が痺れるような興奮に襲われたのである。しかも、そのなかに荒々しさは一切感じられず、あくまでも緻密な印象に終始した。この洗練された感触こそ、マラネッロ製V12の真骨頂というべきものだ。

また、乗り心地は全般的に快適で、とりわけハーシュネスが軽く、路面からの突き上げを軽くいなしてくれる点がありがたかった。この日は合計で3時間ほどドライブしたものの、高価なクルマゆえ神経をすり減らしたのを除けば、肉体的な疲労はほとんどなかった。

聞けば、近年フェラーリはリミテッドエディションであってもオーナーが積極的に走らせ、イベントなどに参加することを期待しているという。おそらくデイトナSP3のオーナーであれば、ロングツーリングのイベントにも躊躇なく参加できるだろう。(文:大谷達也/写真:フェラーリ・ジャパン)

●フェラーリ デイトナ SP3 主要諸元

●全長×全幅×全高:4686×2050×1142mm
●ホイールベース:2651mm
●車両重量:1485kg(乾燥重量)
●エンジン:V12 DOHC
●総排気量:6496cc
●最高出力:618kW(840ps)/9250rpm
●最大トルク:697Nm/7250rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・86L
●タイヤサイズ:前265/30R20、後345/30R21