長く待ちわびた新型フォルクスワーゲン ゴルフとの邂逅は、なかなかに幸せな時間となった。そこには確かにゴルフらしさという伝統が息づく。そして同時に「らしくない」部分も生まれている。8代目に対する評価は、その微妙な「競演」をどう受け止めるか、にかかっていた。(Motor Magazine2021年8月号より)

1L 直3と1.5L 直4のそれぞれに2グレードを設定

ヨーロッパでは2019年秋の発表。しかしタイミング悪くその直後から世界を襲った疫病禍や、それが引き金となった半導体不足による生産スケジュールの乱れも加わり、遅れに遅れていた新世代ゴルフ=ゴルフ8の日本上陸がようやくスタートを切った。

もちろん、そうした惨禍は各国市場に影響を与えている。そんな中でも日本がとくに不運だったのは、導入への動きが具体的にスタートする直前に影響を受けてしまったことだろう。聞くところによれば、すでに導入が始まっていた市場を優先させるカタチで供給が進んだことも、日本向けの出遅れに拍車をかける結果に繋がってしまったようだ。

かくして、市場によっては『GTI』や『R』といったハイパフォーマンスモデルのローンチも終わり、いささかの「周回遅れ」感が否めない中、インポーターからは「少なくともGTIやステーションワゴンの『ヴァリアント』、そしてディーゼル搭載車は2021年内の導入を目指す」という嬉しい意気込みも伝えられている。前述したハンディキャップも、いずれ解消されることだろう。

そうした状況の中、去る6月15日に発売された「日本のゴルフ8」は、まずは4つのグレードを展開する。もっとも安価なのが『アクティブベーシック』。これにスマートエントリーシステムや3ゾーン式フルオートエアコン、ハイビームアシストなどを標準装備に加え、前後のパークディスタンスコントロール、スタティックコーナリングライトなどをオプション設定とした『アクティブ』が設定される。この2グレードには、1L 直3ターボエンジンが搭載される。

それに対して上級の2グレードには、気筒休止機構を備えた1.5L 直4ターボエンジンが搭載された。そのひとつ『スタイル』には、アクティブにオプションを加えた状態をベースとしながら、ヒーター付きの「スポーツコンフォート フロントシート」やステアリングヒーターなどを標準装備化。各種の走行モードを選択できる「ドライビングプロファイル機能」や1インチ大径な17インチタイヤとホイールを採用している。

もうひとつの1.5Lモデル『Rライン』は、専用デザインのボディキットやフロントシート、専用チューニングが施されたサスペンション、さらに可変レシオが与えられた「プログレッシブステアリング」の採用などによって、スポーティな雰囲気を強調している。トランスミッションは、全車7速DCT(DSG)だ。

ちなみに、この2タイプのパワーユニットは、いずれもフォルクスワーゲンが「TSI」と呼ぶターボ付きの直噴方式を採用しているが、新型では新たに先頭に「e」の文字が与えられている。これは、マイルドハイブリッドシステムの持ち主であることを示している。

どちらも、右側フロントシート下にレイアウトされたリチウムイオンバッテリーや、最大で9.4kWの出力を発生するベルト式スタータージェネレーターなどで構成された48V式システムを採用。

減速時のエネルギー回生や停車時のアイドリングストップのみならず、「一定条件下では、40〜160km/hの範囲内で最大40秒に渡ってエンジンを停止させる」といった、より積極的な制御も実施する。さらなる燃費の向上=CO2排出量削減へと挑んでいる。

加えて見逃せないのは、1Lユニットでは可変ジオメトリー方式のターボチャージャー(VGターボ)を採用していることだろう。ディーゼルエンジンではすでに「当たり前」の技術であるこのメカニズムが、効果が実証されていながらこれまでガソリンユニットに普及して来なかったのは、より高い排気温度に対応するため耐熱性に富んだより高価なパーツを用いる必要があったためだ。

結果、これまで一部のポルシェ車(911ターボ/718ボクスターS/ケイマンS)に採用例が限られたこのデバイスを、フォルクスワーゲンは高効率ゆえ排気温度が低い「ミラーサイクル」を用いたユニットに限定して組み合わせることでブレークスルーを図った。実際、燃焼方式がミラーサイクルの1Lユニットに対し、1.5Lユニットでは通常のオットーサイクルを用いている。

さらに伸びやかさを増した躍動的なハッチバックスタイル

このようにパワーユニットには多彩な新機軸が盛り込まれているゴルフ8だが、ボディなど基本的骨格は従来型からの「モジュール化プラットフォームMQB」をさまざまなリファインを施した上で踏襲している。ゴルフ史上初めてヴァリアントとの間にホイールベースの差別化が図られたのも特徴で、写真の印象には限られるものの、全長ともどもホイールベースも長くなり、躍動的なイメージが大幅に向上しているように思える。

そんなステーションワゴンに対し、ボディは30mmほど長くなる一方でホイールベースが15mm短縮されたハッチバックを目前にすると、改めて「どんなアングルから見てもゴルフそのもの」というたたずまいが印象的だ。

また、カタログ値では10mm狭まって1.8mを下まわった全幅も特徴のひとつで、少なくとも日本では「これ以上拡幅をされなくて良かった」と、感じる人が多いのではないだろうか。

「顔つきが精悍さを増した」という第一印象を覚えたのは、グリル上部と高さを揃え薄さを増したヘッドライトが見据える表情が、歴代ゴルフにない新しさであったゆえ。一方、後ろ姿は見紛いようのないゴルフそのもので、こちらは「マイナーチェンジ」と言われればそのまま信じてしまいそうだ。

リアエンブレムとして新しくなったCIが描かれているが、テールゲートオープナーとしての役割は新型でも踏襲されている。リアビューカメラを内蔵する凝った構造も同様だ。

一方、このクラスでは稀有な存在だったダンパーで支えるフロントフードは、ついに「つっかえ棒式」へと方針転換。通常目にする部分ではないし恩恵に預かる頻度も少なく、確かにコストカットの際には真っ先に候補に上がりそうなパーツだが、だからこそゴルフというモデルのカリスマ性を象徴するアイテムでもあっただけに、微妙に残念だ。

それゆえにこれまで気にならなかったフードの重さも実感。「これほど重いならば、アルミ化での減量効果も大きいはずなのに」と、余計な思いも抱かされることになった。

さらに、ゴルフ8のもうひとつの代表的見どころと謳われているのが「デジタル化」だ。実感させられるのがダッシュボードまわりのデザイン。全グレードでバーチャルメーターを標準採用し、物理的なスイッチ数が大幅に削減されている。すっきりとモダンな雰囲気を強めた視覚的効果は、フルモデルチェンジを行ったことによる伸びしろを、もっとも明瞭かつ雄弁に語る部分でもある。ただし、デジタル化された機能を使いこなすためには、まずは詳しく知る人によるコクピットドリルが必須でもある。

さまざまな機能はディスプレイ上での操作が必要で、コマンドを呼び出すための手間が加わるなど、目視する頻度がかえって増してしまったように思える。ある意味、「触感より直感」という思想が進み過ぎているのではないだろうか。

欧州ではレンタカーとして多用される車種であることも考えると、ここはちょっと気になる部分。とくに、乗り換えを検討しているゴルフ7のユーザーは、使い勝手も入念に検証すべきだ。

1Lながら2Lエンジン並みの太いトルクで力づよい加速感

今回、テストドライブを行ったのは、1Lのアクティブ、1.5Lのスタイル、Rラインの3グレードだった。

eTSIはベルト式ゆえスタータージェネレーターによる大出力でのサポートは期待できない。それでも「補器類による駆動力ロスを減少させる」という高効率化の追求をメインとした電動化と、1Lモデルに採用されたVGターボが低回転域から高いブースト効果を発揮することで、アクティブの動力性能は、とくに街乗りを中心に「とても1Lとは思えない」力強さを味わわせてくれるというのが第一印象だった。

もちろん、1.3トン+αの車両重量に110psの最高出力では、アクセルペダルを深く踏み込んだ場面でのパワー感は「それなり」という感覚だ。4000rpm付近からは、3気筒ならではというノイズも耳に届く。

しかし、前述のように日常の緩い加速シーンでモノをいうのは200Nmという太いトルクだろう。自然吸気の2Lユニット並の力強さが2000〜3000rpmという実用的なレンジで得られるので、こうしたゾーンを多用する走りのシーンではとくに「排気量を忘れさせる力強さ」が漲る。

一方、そこからスタイルやRラインといった1.5Lモデルに乗り換えると、高速道路を中心として「やはりこちらの方が余裕が大きく楽だな」と感じられたことも事実。1Lモデルでも優秀だった静粛性はさらに際立つ。平滑路ではタイヤが発するかすかなパターンノイズまで聞こえてしまうほどだ。

同時に、「やはりゴルフならではの美点だな」と感心したのは、速度が高まるにしたがって引き立つフラットな乗り味だった。搭載エンジンの違いによってリアサスペンションの形式が異なるが、いずれも基本的にはゴルフらしいフットワークのテイストは共通している。

ちなみに、専用チューニングが施されたサスペンションを採用するRラインでも、時により硬めの感触はともなうものの、基本的にはスタイルと同様のしなやかなテイストだった。

ただし、タイトなコーナーをクリアして行くシーンなどでは操舵に対する反応が明らか早く、なるほどよりキビキビとしたハンドリング感覚を提供してくれる。このグレードのみの装備である切り込むに従ってギア比が高くなる「プログレッシブステアリング」ならではの効用だと言えるだろう。

世界を代表する人気モデルだからこその宿命か

多彩なADAS機能の標準採用やデジタル化の進化など、ゴルフ8は確かに見どころが満載だ。一方、装備レベルの大きな違いや消費税率の変化などがあるとはいえ、ゴルフ7の当初のスタート価格が250万円を切っていたことを覚えている人の中からは、「割高感」を訴える声が上がる可能性が残る。

確かに「運転支援は安全に関わる最低限の機能で良いし、メーターもシンプルなメカ式で十分。もちろんウインカーは「流れ」なくて構わないし、多色のアンビエントライトも必要ない。だから、もっとリーズナブルな価格の最新ゴルフが欲しい」と感じる人も、いるかもしれない。

いずれにせよ新たな試みにトライをするたびに議論を巻き起こすのは、これまで世界で3500万台以上を販売して来たという「巨人」ゆえの宿命でもあるのかも知れない。(文:河村康彦/写真:井上雅行)

●フォルクスワーゲン ゴルフ eTSI アクティブ 主要諸元

●全長×全幅×全高:4295×1790×1475mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1310kg
●エンジン:直3 DOHCターボ+モーター
●総排気量:999cc
●最高出力:81kW(110ps)/5500rpm
●最大トルク:200Nm/2000−3000rpm
●モーター最高出力:9.4kW(13ps)
●モーター最大トルク:62Nm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・47L
●WLTCモード燃費:18.6km/L
●タイヤサイズ:205/55R16
●車両価格(税込):312万5000円

●フォルクスワーゲン ゴルフeTSIスタイル主要諸元

●全長×全幅×全高:4295×1790×1475mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1360kg
●エンジン:直4 DOHCターボ+モーター
●総排気量:1497cc
●最高出力:110kW(150ps)/5000−6000rpm
●最大トルク:250Nm/1500−3500rpm
●モーター最高出力:9.4kW(13ps)
●モーター最大トルク:62Nm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・51L
●WLTCモード燃費:17.3km/L
●タイヤサイズ:205/55R16
●車両価格(税込):370万5000円

●フォルクスワーゲン ゴルフeTSI Rライン主要諸元

●全長×全幅×全高:4295×1790×1475mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1360kg
●エンジン:直4 DOHCターボ+モーター
●総排気量:1497cc
●最高出力:110kW(150ps)/5000−6000rpm
●最大トルク:250Nm/1500−3500rpm
●モーター最高出力:9.4kW(13ps)
●モーター最大トルク:62Nm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・51L
●WLTCモード燃費:17.3km/L
●タイヤサイズ:205/55R16
●車両価格(税込):375万5000円