2009年、メルセデス・ベンツEクラスが7年ぶりのフルモデルチェンジを受けて日本に上陸した。常に時代の基準となり、クルマ作りのあり方そのものに大きな影響を与えてきたEクラスは、W212型でどう進化したのか。夏の北海道を舞台に行われた国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2009年8月号より)

エッジの効いた精悍なスタイル 。全長は4.8m半ばをキープ

世の中に高級車は数多くあるが、メルセデス・ベンツEクラスほど高い信頼を得ているクルマは稀だろう。こうした定番車の新型移行は他モデルへの影響力が極めて大きい。

日本仕様として用意される新型Eクラスは、ベースモデルとなるE300のほかには、E300、E350、E550のアバンギャルドで都合4モデルというライナップ。本国ではすでにリリース済みとなっているスプレーガイデッド方式ガソリン直噴の350CGIや1.8L直4直噴ターボとした250CGIなどの新開発エンジンは未設定で、パワーユニットはひとまず先代からのキャリーオーバーだが、モデルとしては完全に一新された。

その中から今回試乗したのは、E350とE550のアバンギャルド。ちなみにE350はメカニカルサスペンションで、E550はエアサスペンションが標準装備となる。試乗は全車左ハンドル。右ハンドルの導入は8月から開始される。

ボディサイズは先代のW211に対し全長で20mm、全幅は35mm、ホイールベースは20mmと若干の拡大が図られた。全高は15mm低くなっているが、これはルーフ形状の変更によりアンテナがピークでなくなったためで、実質はほとんど変わらない。

ヘッドライトがW211の丸形4連から菱形4連に変わったのが、W212のスタイリング上の最も大きな特徴で、これに伴い全体にエッジの効いた精悍な雰囲気を身につけている。ただ、パッケージング的には新旧の間でとくに大きな変化はなく、4.8m半ばをキープした全長、ライバルの動向をもある程度見据えた1855mmの全幅ともに、Eセグメントの標準と言えるサイズ感に落ち着いている。経済性やエコの観点からも、これ以上の肥大化は避けたい。そんな想いが感じられる。

じゃっかんのサイズアップにより、後席の居住性は高まった

歴代のEクラスでは、実用車然としたボクシーな装いだった先々代のW210から、絞り込みを強め軽快感を増したW211になったときの変化幅の方が大きかったと僕は思う。ただ、そうした関係でW211のリアシートは意外に閉塞感が強く、広々とした雰囲気に欠ける傾向があった。W212はその反省からか、若干のサイズアップをとくに後席の居心地の向上に使っている。

実際、ベルトラインが高めで肩まわりの包まれ感が強いのは相変わらずなものの、レッグルーム、ヘッドクリアランスともに余裕を増しており、前にも比してアッパーミドルらしい快適な居住性が味わえた。また、従来のメルセデスは大柄で硬めのシートが特色だったが、新型では芯のしっかり感はそのままに表皮がソフトで丸みを帯びたデザインとなり、座り心地が格段に優しくなった。

コクピットはメルセデスらしい質実剛健さだ。ナビ画面はセンターのトップに据えられ、視認性を向上させている。シートは後席同様ソフトでまろやかな座り心地だ。シフトセレクターがステアリングコラムに移り、マニュアル操作はパドルで行うダイレクトセレクトの採用に伴って、フロアコンソールがスッキリ広々としたのも印象的。ここにはCOMANDシステムのコントローラーと大きめのカップホルダーが設けられる。

パーキングブレーキは相変わらず足踏み式で、インパネ下のレバーでリリースする。電制化は見送られたが、むしろこの方が操作が早いし、メルセデスの場合、ペダルもレバーも操作感がいいので、むしろ歓迎だ。

持ち味をアップデートして、さらに向上した乗り心地

さて走りだが、エンジンは継続のため、とくに新鮮な印象はない。E350のV6エンジンはこのボディにジャストの印象。全域でトルクがあり市街地から高速まで活発だし、高回転域では相応のパンチも楽しめる。パドル操作で刻むとかなりスポーティだ。

ただ、いずれCGIが導入されるのが悩ましいのも事実。このタイミングでEクラスを考えるなら、しばらくは変更のなさそうなE550を選んだ方がいいかもしれない。こちらは当然ながら実にトルクフル。V8独特の太めの排気音は回していくと軽やかな音質となり、余裕でEクラスのボディを押し出して行く。

このように、フィール面は先代と大きく変わらないものの、新型は進化させるべきところはキチンとやっている。バッテリーの充電量が80%以上の場合はオルタネーターを休止する発電制御や、パワステポンプの低抵抗化、タイヤや空力の見直しなどで燃費性能を最大11%も向上させているのだ。E350などはモード燃費で0.9km/Lもの向上だから、改善幅はかなり大きい。

もうひとつ、フットワークも大きく変わった。というか、新旧を乗り較べて最初に感じるのがここだろう。新型はとにかく乗り心地がマイルド。もちろんいたずらにソフトになったわけではなく、自然なロール感や、ペースを上げたときもガシッと踏ん張るしたたかさを備えながら、低速域のゴワゴワとした感触だけを取り去った感じだ。中にはあの粒立った感触がメルセデスらしさとする人もいるかもしれないが、入力に応じてダンピングを切り替えるダイレクトコントロールサスペンションの効果は十分に出ている。

E550のエアマチックサスペンションはさらにフラット感が増し、極めて走りの質が高い。スポーツとコンフォートの切り替えも有効で、コンフォート側はとくに市街地で適度の緩さが出て快適だった。

上質感と安心感のグレードアップはライバル勢を寄せ付けない

さらにステアフィールも変わった。過度なキビキビ感の演出はないが、非線形ラックによるバリアブルレシオのダイレクトステアリングのおかげで、軽く確実にノーズが向きを変える。その分、鷹揚さやバシッとした直進性はやや薄れたものの、シートや乗り心地の変化も含めて、メルセデスも徐々に持ち味をアップデートしているわけだ。当然そこにはライバル勢の動向も織り込まれているわけだが、クラスの定番として、またメルセデスとして、動かしてはいけない軸足にブレはない。

新型Eクラスでは「アシスト」の名が付いた運転支援装備の充実も忘れてはならない。すべての名称と機能を紹介する紙幅はないが、対向車や先行車を検知し他車を幻惑せず最大のライト照射が得られるよう自動調節するアダプティブハイビームアシストや、70以上のパラメーターからドライバーの眠気を検出し注意を促すアテンションアシストなどの注目装備は、日本仕様にもしっかり採用される。これらの安全技術は現在メルセデスが最も進んでいる分野だが、ライバル勢も対応策を取らざるを得ないだろう。

クーペ、ワゴン、AMG、ディーゼルを含む新エンジン展開など、今後に多くの展開の余地を残している新型Eクラス。そうした動向から一瞬たりとも目が離せないことこそ、定番の定番たる所以である。(文:石川芳雄/写真:小平 寛)

●メルセデス・ベンツE350アバンギャルド 主要諸元

●全長×全幅×全高:4870×1855×1455mm
●ホイールベース:2875mm
●車両重量:1710kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3497cc
●最高出力:200kW(272ps)/6000rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●10・15モード燃費:9.5km/L
●タイヤサイズ:245/45R17
●車両価格:850万円 (2009年当時)

●メルセデス・ベンツE550アバンギャルド 主要諸元

●全長×全幅×全高:4880×1855×1455mm
●ホイールベース:2875mm
●車両重量:1870kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:5461cc
●最高出力:285kW(387ps)/6000rpm
●最大トルク:530Nm/2800-4800rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
●10・15モード燃費:7.8km/L
●タイヤサイズ:前245/40R18、後265/35R18
●車両価格:1080万円 (2009年当時)