7年ぶりにフルモデルチェンジしたメルセデス・ベンツのベストセラーSUVのGLC。その最新モデルを中心にポルシェ マカン、マセラティ グレカーレを一緒に連れ出し、走りのパフォーマンスの高いSUVのそれぞれの個性の違いを見ていこう。(Motor Magazine2023年6月号より)

ベストセラーSUVのGLCがフルモデルチェンジ

世界の自動車マーケットでのSUV人気は、近年になっても衰えを示すどころかむしろ勢いを強める一方。当初は、複数台所有の富裕層をターゲットに据えたと思える大型で高額なモデルがメインだった車種展開も、昨今ではグンとコンパクトで比較的安価なモデルも目立つようになり、まさに「百花繚乱」となっている印象だ。

かつてはSUV=4WDが当然と思えた駆動系も、多降雪地域に多くの人が暮らす世界的には例外とも思える日本発のモデルを別にすれば、今や2WDも珍しくない。SUVは一部特定のユーザーを見据えたモデルから、もはやこれまでのセダンやクーペといったボディ形態を遥かに凌ぐ、自動車カテゴリーのメインストリームに成長を遂げている。

それも納得で、既存ボディに対するアドバンテージは数々認められ、逆にウイークポイントと指摘すべき点はこれといって見当たらない。地上高や背の高さがもたらす安定性の欠如や空気抵抗の増大への不安は、スタビリティコントロールシステムの装備やボディの平滑化といった技術の進歩でそのハンデを跳ね返している。

こうなると、やや高めのシート位置による優れた乗降性やボディ表面積の大きさによるデザイン自由度の高さ、そして電動化が進む現代にあっては駆動用バッテリーの搭載スペースを確保しやすいことなど、SUVならではのメリットがいよいよ際立ってくる。冷静に考察すればするほどに、SUVが普遍的なボディ形態になりつつあるのも「さもありなん」と思えるのである。

そうした中で先見の明があったというべきか、事実上の前任モデルであるGLKも含めればすでに3代のモデルを送り出したメルセデス・ベンツGLC。2015年にローンチされた初代と22年に発表され翌23年からは日本にも導入されている2代目GLCのルックスはお互い雰囲気がとても近く、このブランドが初代の仕上がりに大きな自信を抱いていることが伝わってくる。

実際、15年デビューの初代GLCは「20年と21年にメルセデス・ベンツ車の中でのベストセラーSUVの座を記録し、前任モデルのGLKを含めると世界累計の販売台数は260万台」と報告される。そんな好評モデルのイメージを一新させる必要など何もないのは当然のことだろう。

エンジン音も含め、あらゆるノイズを巧みに抑制

そんなGLCでも、新型の完全な刷新ぶりを感じられるのはクルマに乗り込んだ時。ダッシュボード上からはメータークラスターや多くの物理スイッチが姿を消し、バイザーレスのディスプレイ式メーターパネルやセンターコンソールから続くタッチパネル式の巨大な縦型センターディスプレイが新鮮さをアピール。

新しいデザインが必ずしも操作性に優れるとは言えない場合があるのも昨今のモデルでの「あるある」。それでもメルセデス各車の場合、表示アイコンが大きめでこの新型GLCでも何とか初見で基本機能を使いこなせることは幸いではある。

日本仕様のGLCに搭載されるパワートレーンは現在のところ、マイルドハイブリッドシステム付きの2L 4気筒ディーゼルターボエンジン+9速ATのみで、「4マティック」の名が加えられるように4WD仕様。

今回のテスト車はそこに専用デザインによる内外装やベース車両比で1インチ増しの19インチタイヤ、スポーツシートなどから構成される「AMGラインパッケージ」やエアサスペンション、リアアクスルステアリングを含む「ドライバーズパッケージ」、さらに本革シートやヘッドアップディスプレイなどを採用の「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」といったフルオプション状態のモデルだったが、その乗り味は多くの人がこのブランドの作品に期待するであろう上質さが印象に残るものだった。

従来型GLCの記憶を抱きながらスタートすると、まず明確な違いは静粛性の高さ。遠くで囁くように耳に届くエンジン音は事前にディーゼルと知って走り始めても、さらに「本当?」と確認をしたくなる印象。加えれば、ロードノイズも事実上それを認識できないほどに小さく、静かさが一層際立つことに。9速ATの威力で、100km/hクルージング時のエンジン回転数も1400rpmほどに過ぎないのである。

同時に、マイルドハイブリッドシステムの採用で気になるノイズや振動とは無縁のままアイドリングストップ状態から再始動の後、必要にして十二分な力強さと速さを提供してくれる動力性能にも大いに好感を抱くことになった。19インチのタイヤを履きながら路面オウトツを拾った際の刺激を巧みにいなすフットワークのテイストにも「良いもの感」が溢れて感じられる。

このように、総じてトラディショナルなメルセデスベンツの旨味を存分に味わわせてくれたのが、新世代に生まれ変わったGLCの乗り味であったのだ。

グレカーレはSUVでもマセラティらしさを感じる

一方、23年に日本でのデリバリーが開始された、マセラティの最新モデルがグレカーレ。このブランドではレヴァンテに次ぐ2番目となるSUVで立ち位置的にはその弟分となるものの、4845×1950×1670mmというボディの3サイズはGLCを明確に上回り、日本では十分に「ラージクラスのSUV」という印象の大きさである。

GLCと並べるとそのスタイリングがはるかにエモーショナルに感じられるのもグレカーレの特徴。もちろん、GLCの装いにより正統的なSUV風味が強く演じられる点には、バリエーション中により流麗な「クーペ」が設定される関係も大きいはずではある。

「やはりマセラティだな」と納得するのはインテリアの設えでもあって、特にシートやダッシュボードの見た目や実際の触感には惚れ惚れとさせられる。ドアハンドル上の小さなボタンを押すことでラッチが解除されるドアオープナーの採用や、多くの物理スイッチ類を廃した操作系には最新モデルらしさが演じられる。

フード下に搭載するのはマイルドハイブリッドシステム付きの2Lユニットで、「マセラティも4気筒か・・・」とそんな嘆きの声も聞こえてきそうな一方、とくに街乗りシーンでのトルク感の強さは驚かされる水準。

しかも、後に車両重量が1.9トン超と知って二度ビックリ。昨今のターボ付きエンジン技術の進歩が著しいことを改めて教えられることになった。

フットワークは全般に軽快でスポーティ。20インチタイヤを履きながらなかなか高いフラット感の味わえるクルージング時の乗り味も、予想を超えた仕上がりだ。

異次元的な存在のスポーツモデルのマカン

一方、グレカーレに「スポーティ」というフレーズを用いるのであれば、こちらは「まんま<スポーツ>だ」と思わず口をついて出そうになったのがマカン。搭載エンジンも2.9Lのツインターボ付きV6ユニットでその最高出力は440ps。

ベース仕様でも軽く1000万円超という価格も含め、同行2車との直接比較が必ずしも相応しいモデルでないことは乗る前から明らかだ。

実際、どのようなシーンでも動力性能には余裕が溢れ、SUVながらそれをまったく意識させないダイレクト感に富んだ走りの感覚は、数あるSUVの中にあっても異次元的存在。同時に、エアサスペンションがもたらす飛び切り平和なクルージング時の乗り味にも、驚嘆させられる。

そんな今回の3車だけでも、こうして3様のキャラクターを色濃くアピールできる表現力の幅広さにSUVならではの魅力が溢れていることを再認識させられる。SUVのマルチプレーヤーぶりは、ますます広がりつつありそうだ。(文:河村康彦/写真:佐藤正巳)

●メルセデス・ベンツ GLC 220d 4MATIC(ISG搭載モデル)主要諸元

●全長×全幅×全高:4725×1890×1640mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:2000kg(AMGラインパッケージ装着車)
●エンジン:直4DOHCディーゼルターボ+モーター
●総排気量:1992cc
●最高出力:145kW(197ps)/3600rpm
●最大トルク:440Nm/1800−2800rpm
●トランスミッション:9速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:軽油・62L
●WLTCモード燃費:18.1km/L
●タイヤサイズ:前235/60R18、後235/60R18
●車両価格(税込):820万円

●マセラティ グレカーレ GT主要諸元

●全長×全幅×全高:4845×1950×1670mm
●ホイールベース:2900mm
●車両重量:1920kg(サンルーフ装着車)
●エンジン:直4DOHCターボ+電動ターボ+モーター
●総排気量:1995cc
●最高出力:220kW(300ps)/5750rpm
●最大トルク:450Nm/2000−4000rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・64L
●欧州総合モード燃費:10.8−11.4km/L
●タイヤサイズ:前255/45R20、後295/40R20
●車両価格(税込):896万円

●ポルシェ マカン GTS主要諸元

●全長×全幅×全高:4726×1927×1596mm
●ホイールベース:2807mm
●車両重量:1960kg
●エンジン:対6DOHCツインターボ
●総排気量:2894cc
●最高出力:324kW(440ps)/5700−6600rpm
●最大トルク:550Nm/1900−5600rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・75L
●WLTPモード燃費:8.5−8.8km/L
●タイヤサイズ:前265/40R21、後295/35R21
●車両価格(税込):1235万円