「スタイリッシュなSUV」その言葉にぴったりな2台が、ルノーアルカナとレクサスRXだ。この2台の共通項はその個性的な見た目と電動パワートレーンを搭載していることぐらいだが、ともに見た目で選んでも間違いないぐらい高い実力も備えている2台である。(Motor Magazine 2023年4月号より)
クーペフォルムに大径タイヤを組み合わせたアルカナ
もはやSUVやクロスオーバーはブームという段階を通り過ぎて、立派な定番カテゴリーとなっている。よって多少なりともトンガッたクルマを選びたいという人にとっては、それだけでは選択肢として引っ掛からなくなりつつあるのは否めないところだ。とりわけプレミアムカーのユーザーたちが求めるのは、際立った何かを持ったモデルである。
そのひとつの方向性が、スタイリッシュであることだ。いわゆるクーペSUVの隆盛は、そうしたニーズの高まりを表しているものだと言っていい。実用的、機能的なだけでなく、クルマ好きの気持ちをそそるプラスアルファを備えたSUV。今回連れ出した最新の2台、レクサスRXとルノー アルカナは、ターゲット層こそまったく異なるに違いないが、そうした観点で見て間違いなく名前が挙がるモデルだということに異を唱える人はいないだろう。
さらに付け足すならば、今回の2台はいずれも電動パワートレーンを搭載。アルカナは遅れて追加されたマイルドハイブリッド仕様、RXは新設定のプラグインハイブリッドモデルとなる。これまた今どきのクルマ選びとして重要な後押しになる要素に違いない。
2022年5月に日本に導入されたルノー アルカナは、もともとは2019年にデビューしたこのカテゴリーの新銘柄。全長4570mmといういわゆるCセグメントサイズのクーペSUVである。当初、設定されたモデルはRSラインE-TECHハイブリッドと呼ばれる独自のフルハイブリッドシステムを搭載したものだったが、今回の試乗車は12月に追加設定されたRSライン マイルドハイブリッドとなる。
F1テクノロジーを活用したE-TECHハイブリッドの走りも語るべきところは多いが、アルカナの魅力はそれだけには留まらない。スタイリッシュなデザインも、間違いなくそのポイントだ。よりリーズナブルな価格でこのデザインを手に入れることができるマイルドハイブリッドの登場は、アルカナの存在感をさらに引き上げることになるに違いない。
CセグメントSUVの中では長めの全長を持つそのフォルムは、全高も1580mmと低く、しかもリアウインドウが完全に傾斜したクーペフォルムとされる。そこに大径のタイヤ&ホイールが組み合わされた雰囲気はオリジナリティが高い。ルノーはSUVとして他にキャプチャーも用意しており、だからこそこうして大胆な仕立てに挑めたのだろう。
インテリアは、10.2インチのフルデジタルメーターパネルやダッシュボードに設置された7インチタッチスクリーンなどによっていい意味でガジェット的な先進感を演出。一方、レザーとスエード調素材の組み合わせとされたシートなどは見た目も触り心地も上質だ。室内空間は前席についてはまったく不満なし。後席はそのルーフ形状から想像するとおり、とても開放的だとまでは言わないが、クーペSUVを買おうという人においては十分許容範囲のはずである。
荷室はE-TECHハイブリッドより容量が増している。フロアボードは高さを2段階に調整でき、容量を稼ぐのも、フルフラット化するのもお好み次第だ。
RXらしさを残しながらもまったく新しいデザイン
新興勢力のアルカナに対して、レクサスRXはまさにこのジャンルのパイオニアである。日本ではトヨタ ハリアーとして発売された初代の登場は1997年。22年発売された最新型は、通算5世代目のRXということになる。
ブランドにとって販売の主軸であり、また多くのファンを抱える存在でもあるRXだが、新型は守りに入らず、まさに変革を目指して開発されたという。そんな意欲は外観からして明らかだ。
試乗車はRX450h+"バージョンL"。ボディとグリルをシームレスに続く造形としたスピンドルボディと呼ばれるデザインは、ちゃんとRXに見えて、それでいてしっかり新しい。大きく寝かされたリアウインドウとフローティングタイプのCピラーが織り成すリアの造形は、クーペSUVなんて言葉が生まれる前からのRXのアイデンティティだ。
プロポーションを見ると、4890mmの全長は実は先代と変わらないのだが、ホイールベースは60mm延ばされて、そのぶんリアオーバーハングがスパッと短縮されている。一方でボンネットフードの前端が立てられ、Aピラーが手前に引かれたことで、ノーズの長さも強調された。結果としてサイドビューは前進感がグンと高まっている。
しかも、全幅が先代比25mm 増なのに対してリアトレッドは45mmも拡大されているから、その踏ん張り感は相当なもの。今までなかったほどに﹁走り﹂を予感させるRXになっているのである。
ノブを軽く握るだけで電動でラッチが解除されるe-ラッチの採用によりドアの開閉はスマート。閉まり音も心地良く、まさに良いモノに触れている歓びが得られる。
そうして入った室内は、大型ヘッドアップディスプレイとステアリングスイッチの連動で、運転姿勢のまま各種操作を行えるようにしたことで、スイッチ類の数が減らされ、スッキリとした環境に。先進感ばかりをアピールするのではなく、シンプルな使いやすさを両立させているところが、やはりレクサスというところだ。
後席に座っても好印象は変わらない。前席シートバックの薄肉化やホイールベース延長などによって従来よりも余裕が増している。外観から想像するのとは違ってルーフまわりの圧迫感などもなく、寛いで過ごすことができる。
こんな具合で、価格帯だけでなく狙ったユーザー層も異なるこの2台、内外装デザインやパッケージングには、それぞれの主義主張がしっかりと反映されている。当たり前のことではあるが、スタイリッシュなSUV・・・と簡単に括ってしまうが、表現方法は決してひとつではないのだ。
小排気量ながら、加速感は十二分に力感たっぷり
それは走りに関しても同様である。まずはあらためてアルカナの運転席に陣取り、その世界を味わってみることにする。
パワートレーンは、お馴染みの1.3L直列4気筒ターボエンジンとBSGを組み合わせたもので、トランスミッションは7速DCTとなる。ドライバビリティは良くも悪くもE-TECHハイブリッドのように独特ではなく、発進はターボエンジンの厚みあるトルクにモーターアシストが加わって、とても重厚。右足に力を込めた瞬間に力感が高まる感覚は、クルマを軽快に感じさせる。
E-TECHハイブリッドが使う自然吸気エンジンは、率直に言ってさほどトルキーなわけではないので、一般的にはこちらのマイルドハイブリッドの方が力強い走りと感じられるかもしれない。7速DCTの変速も切れ味鋭く、サウンドも心地よいから、内燃エンジンのクルマに乗る歓びをしっかり実感させてくれるのだ。
フットワークはルノーのクルマらしく、サスペンションがしなやかに動いて路面を捉えて離さない。とは言ってもフワフワしているわけではなく、しっかり中身の詰まったコシのある乗り味である。ギャップを乗り越える時などにタイヤの大きさを意識させられることもあるが、気になるのはそれぐらい。直進性に優れ、それでいてコーナーの連続もまた楽しい。
ハンドルを通して掌に伝わるフィーリングも饒舌で、クルマとの一体感は濃密。アルカナには日産とのアライアンスによって搭載可能となったハイウェイ&トラフィックジャムアシストも標準装備されているが、この走りを味わうと、やはり自らハンドルを握りたくなってしまうのだ。
RX450h+から感じる圧倒的な快適性と上質さ
一方、RX450h+で走り出して、まず驚かされたのが静粛性の高さだった。ロードノイズも風切り音も、とにかくあらゆる騒音のレベルが抑えられているのだが、それは人工的に無音というのではなく、言うなれば清々しい静けさ。実際、ここは開発の上で徹底的にこだわったところだという。レクサスと言えば静粛性と快適性。ブランドの基本哲学を久しぶりに、凄みをもって実感したという印象である。
乗り心地も上々だ。サスペンションはソフトな設定で、いかなるショックも何事もなかったかのようにいなしてしまうあたり、まさにRXらしいのだが、新型はその快適性が、高い安心感、スタビリティといったものと両立されているところに目を瞠る。ステアリングの手応えはしっかりしていて直進時の据わりもいい。姿勢のフラット感も高く、うねりで煽られるような場面でも一発で収めてくれる。
新型RXの車体は、先に発売されたNXなどと同じGA-Kプラットフォームを使っているのだが、実際には新設計のリアマルチリンクサスペンションが奢られ、それに伴ってとくにボディ後半部の剛性アップなどが図られた大幅進化版である。それが走りの質の向上に大いに貢献しているのだ。
2.5L直列4気筒エンジンと2基の電気モーターを組み合わせたパワートレーンに18.1kWhの大容量バッテリーを組み合わせたプラグインハイブリッドシステムは、最長86km をエンジンを始動させることなく走行できる。普段使いではほぼBEVのように使えるだけでなく、前述のとおり際立って高い静粛性も相まって、いわゆる電動車両の中でも群を抜く上質なテイストを味わわせてくれる。
嬉しいのはハイブリッドモードで、この時も電気モーターの介入頻度は通常のハイブリッド車よりも明らかに多く、おかげでより力強く、そして静かで滑らかな走りが可能なのだ。要するに、単なる電気モーターだけで走行可能な距離が長いハイブリッドというわけではないのである。外部充電可能な環境が整えられるなら、選ぶ意味は大きいと断言したい。
まさしく今どきっぽい、スタイリッシュでありかつ電動パワートレーンを搭載したSUVだというぐらいしか共通項のないこの2台だが、あえてこうして連れ立って出かけたことで、単に伊達だというだけでなく、それぞれに確かなポリシーの下、強い個性と高い実力を持っていることを改めて実感できた。
きっかけは、そのスタイリッシュさかもしれない。しかしながら実際に選んでみたら、RXもアルカナも"良い買い物をしたな"としみじみ実感することになるはず。それぞれ魅力あふれる、実にあとをひく2台だったのだ。(文:島下泰久/写真:永元秀和)
●ルノー アルカナ R.S. ライン マイルドハイブリッド主要諸元
●全長×全幅×全高:4570×1820×1580mm
●ホイールベース:2720mm
●車両重量:1380kg
●エンジン:直4DOHCターボ+モーター
●総排気量:1333cc
●最高出力:116kW(158ps)/5500rpm
●最大トルク:270Nm/1800rpm
●モーター最高出力:3.6kW(5ps)/1800−2500rpm
●モーター最大トルク:19.2Nm/1800rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・50L
●WLTCモード燃費:17.0km/L
●タイヤサイズ:215/55R18
●車両価格(税込):399万円
●レクサス RX450h+ “バージョンL”主要諸元
●全長×全幅×全高:4890×1920×1700mm
●ホイールベース:2850mm
●車両重量:2160kg
●エンジン:直4DOHC+モーター
●総排気量:2487cc
●最高出力:136kW(185ps)/6000rpm
●最大トルク:228Nm/3600−3700rpm
●モーター最高出力:前134kW(182ps)、後40kW(54ps)
●モーター最大トルク:前270Nm、後121Nm
●トランスミッション:電気式無段変速機
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・55L
●WLTCモード燃費:18.8km/L
●タイヤサイズ:235/50R21
●車両価格(税込):871万円