直列6気筒、FR、M・・・。いずれもBMWが守り続けてきた、彼らを象徴するものたちだ。ガソリンエンジンの終焉が近づきつつある今、BMWは真のスポーツモデルというべきクルマを送り出した。M2クーペのMTとATの2台を同時に試乗して、今だからこそ選びたくなるピュアエンジン車の真価を探った。(Motor Magazine 2023年12月号より)

2代目となる新型M2クーペはMモデルの中でも傑作の部類に属する。

今回の取材は最近では珍しく、AT車とMT車の乗り比べができた。スポーツモデルでもMT車の存在が少ないから、それに乗るだけでも貴重な体験といえるが、同じモデルでATとMTを乗り比べることとができたのだ。

そんな条件で新型BMW M2クーペのロングドライブを楽しめたので一般道、高速道路、ワインディングロードでの両者の味の違いも含めてレポートしよう。別の機会にはサーキットも走れたので、そのインプレッションも併せてお伝えする。

結論を先に言ってしまうと、2代目となる新型はMモデルの中でも傑作の部類に属すると思う。
BMWのMモデルは、サーキットが楽しいマシンであることはもちろん、一般道も痛快に走れるというコンセプトで創られている。そのため、Mモデルの中でもっともサイズがコンパクトなM2クーペでも、ヘッドクリアランスは十分な高さが確保されるなど、日常使いに不便を覚えることはない。

2名がしっかり乗れる後席や十分広いトランクも備えている。週末はそのままサーキットに行って、スポーツ走行を楽しむ・・・そんなライフスタイルを現実にすることができる。

M2クーペの全長×全幅×全高は4580×1885×1410㎜で、ホイールベースが2855㎜である。ベースとなった2シリーズクーペと比較すると左右のフェンダーが片側30㎜ずつ膨らんでいる。たった30㎜かもしれないが、見た目での膨らみは大きい。ちなみにこの膨らんだフェンダーによってM2でもM4と同じトレッド幅が確保されている。

気になるのはやはり、トランスミッションによる重量の差。M2クーペの車重は6速MTが1710㎏、8速ATが1730㎏で約20㎏ほどATが重い。車検証によるとATは前後軸それぞれが10㎏ずつ重くなっている。もっとも、搭載位置が車体の中央床下部分なので、重心点が下がることになる。つまり、走りに悪影響はないと考えられるのだ。

新型M2は兄貴分のM4にかなり近い位置になった感じがする。M2にM4コンペティションと同じ高出力エンジンを搭載して四輪駆動のM xドライブを組み込んだら、最強のコンパクトMモデルができそうだと妄想してしまう。

意外なほど運転しやすいと感じたM2クーペのMTモデル。

編集スタッフに迎えに来てもらい、まずは6速MTの方から運転して伊豆方面へ向かった。MTでも戸惑わずに乗れるのは、若い頃に散々MTで走っていたからだ。それにしてもM2のクラッチペダル操作、シフト操作はしやすい。

クラッチを切って1速にシフトし、最初だけはクラッチをゆっくり戻していく。半分以降はかかとをフロアに付けて足首の動きで操作すると、クラッチがつながり始める場所が出てくる。それは半クラッチ前の4分の1クラッチだ。この足首の角度を覚えておくと次回からは一発でこの場所まで戻していけばいい。

ここからアクセルペダルを踏み始めて、クラッチ操作をするとスムーズに発進できる。エンジン回転は無用に高まらず、また急につながることもないのでエンストする心配もない。この発進方法が傍目からもスムーズな発進に見えるし、半クラッチが少ないからクラッチも消耗せずに使える。

実はこの方法を教えると、女性や免許取り立ての人でもすぐに運転できるほど簡単な方法だから、試してもらいたい。

市街地走行はMTでも苦はない。平坦路はもちろん坂道発進も楽々できる。それはヒルスタートアシストが作動するからだ。これは登り坂でブレーキを踏んで1速にシフトし、ブレーキから足を放しても2秒間は4輪のブレーキが効いて停止していてくれる装置。この2秒の間に発進すればいいのでそう難しくはないはずだ。

車庫入れもやさしいのがM2で、これは意外だった。太いタイヤを履いているからそう小回りは効かないだろうとは思っていたが、5.2mという最小回転半径は都会での取り扱いも楽になる。

車線の中をピシッと素直に走ってくれるM2クーペのハンドリング性能。

高速道路の途中でATモデルに乗り換えたのだが、ここでは8速ATと6速MTの違いがはっきりと出てくる。100㎞/hで巡航している時のエンジン回転数は、ATが1500〜1600rpmくらいなのに対しMTは2100rpm程度と、500rpmほど高い。この時のエンジン音の違いもある。

ATは明らかに静かで快適だった。Mモデルに乗っていても、長距離ドライブでの巡航モードなら静かな方を期待するだろう。また高速道路では燃費の差も大きくなる。ギア段数が多く、より高いギアを使えるから静かさと燃費にメリットが出る。

さらに高速道路でATが良いのはACC(アクティブクルーズコントロール)が装備されていることだ。一方MTにはACCはなく同じスイッチ位置に速度固定式のクルーズコントロールが付いている。こちらは先行車を捕捉できないので、ドライバーがブレーキを踏まなくてはならない。この紛らわしいスイッチは不要でACCがつかないならクルーズコントロールだけの装備はしない方がいい。

高速道路を走ると、ATもMTもハンドリングは優秀であるとわかる。車線の中をピシッと素直に走ってくれる感触はいい。ハンドルの遊びは非常に小さく、手の動きに対してリニアなヨーの反応がある。ハンドルを動かさなければ、クルマがピタッと路面を掴んで走っていくのも気持ち良い。

ワインディングロードではMTが楽しかった。実際にはATの方が各コーナーでのエンジン回転数が合っているとか、コーナー立ち上がりで美味しいエンジン回転数から加速できるなど、クロスレシオの8速ATのメリットが感じられた。それでも自分でクラッチペダルを踏み込んでシフト操作をして、それもハンドル、アクセル、ブレーキ操作をしながらやるというのは、全身でクルマを操っている感覚を楽しめるからだ。

コーナーでは車体が軽い感じで、ハンドル応答性がキビキビしている印象だった。乗り心地は20㎏の差が効いているのかは不明だが、ATの方が上下動を少なく感じた。これも重量の違いなのだろうか。

理想論的にはATになるかもしれないが、エモーショナル面ではMTを選ぶ。

おまけとして、以前体験したM2クーペのサーキットインプレッションをお話ししよう。サーキット走行では先代モデルより安定感が増していた。しっかりとグリップしてくれて、コーナーに突っ込んで行ってもアンダーが強く出ることはなく、クルマが逃げていかない。

コーナー頂点からアクセルを踏んでいったときには穏やかにリアが外側に膨らんでスピードを上げながらもアンダーステアを出さずに綺麗に立ち上がって行くのに感激。これぞFRだ。リアの流れ方もドライバーがハラハラする動きではなく、アクセルペダルの踏み込み量に応じてジワジワと膨らむので安心感がある。

難関サーキットとして有名なニュルブルクリンクの北コースで、BMWドライビングエクスペリエンスのインストラクターとして先代のM2で走ったことがある。M4がすごく走りやすかったのに対して、M2だとバンピーな路面では挙動に急な動きが出るので、M4よりもホイールベースが短いことでクイックな反応ができる裏側に、トリッキーな動きも出てしまうなと思った。

しかし新型M2は日本のミニサーキットを走った限りだが、先代より安定感があり、グリップの限界を超えたところでも非常に穏やかな動きなので安心感が高くなった。この感じなら新型M2は北コースもM4並にうまく走ってくれそうだ。なので今度は新型M2でニュルを攻略したくなった。

0→100㎞/h加速ではATの方が速くてカタログ燃費も良いし、シフトチェンジする時間も短い。おまけにシフトミスする可能性はないなど良いことだらけだが、MTも捨てがたい。M2を乗るのにそんなに速く走る必要もないし、シフトチェンジも急がない。確かに燃費は良い方がいいかもしれないが、そこまで効率を求めない。

理想論的にはATになるかもしれないが、エモーショナル面ではMTを選ぶ。他人にはATを勧めるが、MTを買った人には拍手喝采を送りたい。つまりどっちもいいクルマなのは間違いない。
(文:こもだきよし/写真:伊藤嘉啓、村西一海)

●BMW M2クーペ(8速AT) 主要諸元 ※カッコ内は6速MT

●全長×全幅×全高:4580×1885×1410mm
●ホイールベース:2745mm
●車両重量:1730(1710)kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●総排気量:2992cc
●最高出力:338kW(460ps)/6250rpm
●最大トルク:56.1kgm(550Nm)/2650-5870
●トランスミッション:8速AT(6速MT)
●駆動方式:FR
●燃料・タンク容量:プレミアム・52L
●WLTCモード燃費:10.1(9.9)km/L
●タイヤサイズ:前275/35R19、後285/30R20
●車両価格(税込):972万円