かつて光り輝いていたマセラティ。その輝きを取り戻すにはまず、自分たちのブランドを理解することから始めたと言う。そして向かう先はこれから誕生するBEVの「フォルゴーレ」。その未来に向けて、確実に歩みを進め始めているようだ。(Motor Magazine 2022年8月号より)

数年前とは大違いのマセラティの変身

「マセラティが変わりつつある」

MC20とグレカーレに試乗したいま、私はそう確信している。どちらも強固なボディ構造をベースとして、マセラティのエンジニアたちが理想とする足まわりがついに実現できたように思う。パワートレーンにも最新のテクノロジーが盛り込まれた結果、グランドツアラーに相応しいパフォーマンスとともに優れた燃費効率も手に入れた。

内外装のクオリティ感は見違えるばかりで、インフォテインメントやADAS系も充実している。どの領域にも弱点が見当たらない、現代のラグジュアリーカーとして一線級の商品力を備えたマセラティがようやく誕生したといえるだろう。

もっとも、つい数年前までのマセラティは、ここまでのレベルに達していなかった。基本となるボディ剛性が十分でなく、このためハンドリングと乗り心地のいずれかに妥協を強いられていた。ボディ設計の古さは静粛性や制振性の面でも弱点となっていた。

パワートレーンに関していえば、フェラーリが手がけるV8エンジンはたしかにエキゾーストノートが魅力的だったが、それも含めて1台のクルマとしての煮詰めという部分では熟成不足も否定できなかった。

一方で内外装のデザインには、クラシカルなエレガンスが漂っていたものの、そのクオリティ感は本物を知る富裕層にとって物足りないものだったことだろう。

グランツーリスモを皮切りにフォルゴーレ計画が進行する

そんなマセラティが、短期間でこれほど大きな変貌を遂げた秘密はどこにあったのか?ダヴィデ・グラッソCEOに訊ねてみた。

「私たちは、マセラティのかつての輝きを取り戻したいと願っていました。そのために最初に行ったのが、自分たちを理解することです。率直に言って、ブランドという観点で見たときに妥協があったことは否めません。デザインはこれまでも素晴らしかったと思いますが、イノベーション、クオリティ、コンテンツなどの部分で不十分な側面があったのは事実です。私たちは、それらの改善に取り組んできました」

これに関連して、製品計画の立案などを指揮するフランチェスコ・トノン氏は、次のような見方を提示してくれた。

「電動化が大きなターニングポイントとなりました。たとえばグレカーレであれば、GT、モデナ、トロフェオなどグレードごとに異なるパワートレーンを搭載して差別化を図っていますが、ここに間もなくBEVのフォルゴーレが加わります。さらにはパワートレーン以外の部分でも差別化を図ることで、多彩なモデルラインナップを実現しました」

そう、マセラティは今後、電動化に向けて急速に舵を切ろうとしている。

この計画の頂点に位置するのがBEVのフォルゴーレシリーズで、2023年に誕生するグランツーリスモを皮切りに、同年中にグレカーレとグランカブリオのフォルゴーレが、さらに2025年までにはMC20、次期型クワトロポルテ、次期型レヴァンテにもフォルゴーレが追加され、マセラティの全モデルにBEVが用意されることになるのだ。

ここまで読み進めて、「おや?」と思った読者もいるはず。そう、このフォルゴーレ計画にギブリが含まれていないからだ。

これについては、次期型クアトロポルテを既存のギブリに近いスポーティサルーンとすることで、将来的にセダンを1車種に絞る計画であることが今回の取材で明らかになった。(文:大谷達也/写真:マセラティS.p.A.)